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第四章
ミスリルゴーレム③
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ミスリルゴーレムが倒れてもなお、すぐには近づくような真似はしなかった。ようやく俺たちがゴーレムに近づいたのは、一旦休憩を挟んだ後である。それほどまでに、ゴーレムがまた動き出すのではないかと、気が気でなかったのだ。
「本当に大丈夫?」
マリアが心配そうに眉をひそめている。ゴーレムについての研究はまだそれほど進んでない。何せ、遭遇すること自体が稀であるのだ。核を壊せば大丈夫という話だったが、どうもアベルの知っている話とは少し違うようである。
『ゴーレムに核なんてないよ。何度倒しても起き上がるから、逃げるしかない』
これがアベルが知っている情報である。冒険者ギルドでは、ゴーレムは不死の存在として広く知られているようである。
「大丈夫だろう。何せ、エルフ族の情報だ。長い歴史の中で、ゴーレムと戦ったことなんて、何度もあるはずさ。それじゃ、まずは俺が先に行って様子を見てくるよ。安全が確認できたらすぐに戻って報告しよう」
「私も一緒に行くわ」
リリアが前に出てきた。ゴーレムの核は真っ二つになっている。もうゴーレムが動くことはないだろう。リリアが一緒に来ても大丈夫のはずだ。
「分かった。アベルとマリアはそこで待機だ。何かあったときに備えておいてくれ」
「分かったよ」
アベルは確かに請け負ってくれた。先ほどの休憩スポットに二人を残して、俺たちは慎重に、いまはガレキのようになっているミスリルゴーレムに近づいた。
すぐそばまでやって来たが、動く気配はない。ためにし突いてみたが、まったく反応はなかった。
「大丈夫みたいだな」
「そうみたいね。魔力も感じないし、もう大丈夫ね。さあ、帰って報告しましょう。きっと私たちのことを待っているわ」
リリアの言葉にうなずき返すと、すぐにアベルとマリアの元へと引き返した。
「大丈夫だ。問題ない」
「良かった。これで依頼は達成だね」
無事にミスリルゴーレムを撃破できたことが確認できた。俺たちはようやく歓声を上げた。
先ほどのトロッコがある場所まではここから一時間ほどかかる。魔物も出て来ないため、ただひたすら一時間歩くだけである。もちろんそうなると、緊張が解けたこともあり、すぐに雑談が始まった。
そこには行きのような重苦しさは微塵もなかった。
「ねぇ、さっきダナイがいきなり現れたみたいに見えたんだけど、あれ、どうなってるの?」
「ああ、あれな……」
おおっと、どうやらさっきのミスリルゴーレム戦で使った「雲隠れの術」がアベルは気になるようである。そりゃそうだよな。アベルの目でも見えなかったとなると、アベルにとっては驚異だもんな。
マリアはミスリルゴーレムと対峙していたからなのか、そのことにまったく気がついていないようだった。それどころじゃ、なかったのだろう。そんなことあったの? というような疑いの目をこちらへ向けている。
「姿を見えにくくする魔法を使ったんだよ」
「姿を見えにくくする魔法! なるほどね。だから急に現れたみたいに見えたのか。確かに何かが横切る気配があったような気がしたな……」
アベルは気配まで分かるのか。間違って切りつけられなくて良かった。今度からはちゃんと何の魔法を使って、どういう行動をとるつもりなのかも話しておかなくてはいけないな。
仲間を信じているとは言え、後ろからバッサリは勘弁だからな。
「見えにくく~? 全然見えなかったわよ」
リリアがジットリとした目でこちらを見てきた。めちゃくちゃ疑っている。これは完全に俺を信じてないな。そしてその言葉にマリアが食いついた。
「それじゃあさ、ダナイにその魔法を使ってもらおうよ。そしたらハッキリするよ」
興味津々である。目をキラキラと輝かせて俺を見ている。その目は、サーカスを見に来ている子供そのものである。どんな面白いことをしてくれるのか? ワクワクドキドキしているようだ。
おいおい、見世物じゃあねぇぞ、と思ってアベルを見ると、同じような顔をしていた。何もこんなところまで似なくても……。
「分かった。それじゃ行くぞ。ダナイ忍法、雲隠れの術!」
ドロン! とは音がしなかったが、俺はちゃんと消えたようである。アベルとマリアが、この魔法を初めて見たリリアと同じ顔をしている。それすなわち、大きく目を見開いて、キョロキョロと周囲を確認していた。
「リリアの言う通りだね。これは見えにくくする魔法じゃなくて、見えなくする魔法だね。こんな魔法が使えるなんて、本当にダナイはすごいね!」
アベルは感心しているが、マリアは手を前に出したり、横にしたりして確認している。
「本当にここにダナイがいるの? 全然見えない!」
「おう、ここにいるぞ」
そう言って、マリアの腕をちょっと握った。
「ひゃあん!」
……え? マリアさん。何でそんなみんなが誤解を招きそうな声を出すの? ほら見ろ。リリアとアベルの顔がどんどん険しくなってるじゃないか!
「……ダナイ、一体マリアのどこを触ったのかしら?」
「腕だよ、腕! そうだよな、マリア? リリア、お前は何か変な誤解をしているぞ」
俺はすぐに姿を現すと、マリアに助けを求めた。だがしかし、マリアの目は怪しく光っていた。
コイツ、何かろくでもないことを言い出さないだろうな……。
「やだ、まさかダナイがこんなところ触ってくるなんて……」
そう言ってマリアは、自分の腕で胸を隠した。ちょ、まてよ!
「ダナイ?」
うわ、リリアの微笑みが怖い! 笑っているけど眉間にシワがよっているというもの凄い顔になっている。
タジタジする俺を見て、マリアがニヤけている。アベルはそんなマリアの表情に気がついたようである。すべてを悟ってあきれ顔だ。
って言うかアベル。そんな顔をする暇があるならリリアを止めてくれ。
この後、誤解を解くのが大変だった。もちろんマリアは、リリアに拳骨をもらっていた。因果応報だな。俺とアベルはそれを止めることをしなかった。
そうしてようやく、俺たちはトロッコが待っている場所まで帰ってきた。そこでは作業員が不安そうな顔をして待っていた。
「みなさん! ご無事で何よりです。ミスリルゴーレムはどうなりましたか?」
俺たちが戻ってきたのを見つけた作業員は一目散に駆け寄ってきた。そして俺たちが無事であることを確認すると、安堵のため息をついた。
「ミスリルゴーレムは倒したわ。これが証拠の品の、ミスリルゴーレムの核よ」
リリアが二つに分かれた核を差し出した。それを見た作業員は目を丸くしている。信じられない、といった顔つきだ。
「まさか本当に倒してしまうなんて。一体どうやったのですか?」
驚きと喜びが入り交じった声で聞いてきた。
「悪いが、倒し方は秘密だ」
俺が姿を消すことができる魔法が使えるということは、誰にも言わない方が良いという結論に至った。そんなことができることが誰かにバレたら、必ず厄介ごとに巻き込まれる。それが全員の一致した答えだった。
さっきのマリアのように、無実の罪をなすりつけられる原因になるのだ。もし使う必要がこの先あったとしても、慎重に使わないといけないな。
「そうですか。またミスリルゴーレムが現れたときの参考にしようかと思っていたのですが、残念です」
「倒し方のヒントくらいならベンジャミンに教えておくわ」
リリアの言葉に安心したのか、作業員はすぐに帰りのトロッコを用意してくれた。これからまたゴトゴトとトロッコに揺られて戻るのは少し億劫だが、歩いて帰るよりかはましか。さすがに疲れていることだし、諦めよう。
ミスリル鉱山から外に出ると、すでに日が暮れかけていた。俺たちは急いで里へと向かった。
「本当に大丈夫?」
マリアが心配そうに眉をひそめている。ゴーレムについての研究はまだそれほど進んでない。何せ、遭遇すること自体が稀であるのだ。核を壊せば大丈夫という話だったが、どうもアベルの知っている話とは少し違うようである。
『ゴーレムに核なんてないよ。何度倒しても起き上がるから、逃げるしかない』
これがアベルが知っている情報である。冒険者ギルドでは、ゴーレムは不死の存在として広く知られているようである。
「大丈夫だろう。何せ、エルフ族の情報だ。長い歴史の中で、ゴーレムと戦ったことなんて、何度もあるはずさ。それじゃ、まずは俺が先に行って様子を見てくるよ。安全が確認できたらすぐに戻って報告しよう」
「私も一緒に行くわ」
リリアが前に出てきた。ゴーレムの核は真っ二つになっている。もうゴーレムが動くことはないだろう。リリアが一緒に来ても大丈夫のはずだ。
「分かった。アベルとマリアはそこで待機だ。何かあったときに備えておいてくれ」
「分かったよ」
アベルは確かに請け負ってくれた。先ほどの休憩スポットに二人を残して、俺たちは慎重に、いまはガレキのようになっているミスリルゴーレムに近づいた。
すぐそばまでやって来たが、動く気配はない。ためにし突いてみたが、まったく反応はなかった。
「大丈夫みたいだな」
「そうみたいね。魔力も感じないし、もう大丈夫ね。さあ、帰って報告しましょう。きっと私たちのことを待っているわ」
リリアの言葉にうなずき返すと、すぐにアベルとマリアの元へと引き返した。
「大丈夫だ。問題ない」
「良かった。これで依頼は達成だね」
無事にミスリルゴーレムを撃破できたことが確認できた。俺たちはようやく歓声を上げた。
先ほどのトロッコがある場所まではここから一時間ほどかかる。魔物も出て来ないため、ただひたすら一時間歩くだけである。もちろんそうなると、緊張が解けたこともあり、すぐに雑談が始まった。
そこには行きのような重苦しさは微塵もなかった。
「ねぇ、さっきダナイがいきなり現れたみたいに見えたんだけど、あれ、どうなってるの?」
「ああ、あれな……」
おおっと、どうやらさっきのミスリルゴーレム戦で使った「雲隠れの術」がアベルは気になるようである。そりゃそうだよな。アベルの目でも見えなかったとなると、アベルにとっては驚異だもんな。
マリアはミスリルゴーレムと対峙していたからなのか、そのことにまったく気がついていないようだった。それどころじゃ、なかったのだろう。そんなことあったの? というような疑いの目をこちらへ向けている。
「姿を見えにくくする魔法を使ったんだよ」
「姿を見えにくくする魔法! なるほどね。だから急に現れたみたいに見えたのか。確かに何かが横切る気配があったような気がしたな……」
アベルは気配まで分かるのか。間違って切りつけられなくて良かった。今度からはちゃんと何の魔法を使って、どういう行動をとるつもりなのかも話しておかなくてはいけないな。
仲間を信じているとは言え、後ろからバッサリは勘弁だからな。
「見えにくく~? 全然見えなかったわよ」
リリアがジットリとした目でこちらを見てきた。めちゃくちゃ疑っている。これは完全に俺を信じてないな。そしてその言葉にマリアが食いついた。
「それじゃあさ、ダナイにその魔法を使ってもらおうよ。そしたらハッキリするよ」
興味津々である。目をキラキラと輝かせて俺を見ている。その目は、サーカスを見に来ている子供そのものである。どんな面白いことをしてくれるのか? ワクワクドキドキしているようだ。
おいおい、見世物じゃあねぇぞ、と思ってアベルを見ると、同じような顔をしていた。何もこんなところまで似なくても……。
「分かった。それじゃ行くぞ。ダナイ忍法、雲隠れの術!」
ドロン! とは音がしなかったが、俺はちゃんと消えたようである。アベルとマリアが、この魔法を初めて見たリリアと同じ顔をしている。それすなわち、大きく目を見開いて、キョロキョロと周囲を確認していた。
「リリアの言う通りだね。これは見えにくくする魔法じゃなくて、見えなくする魔法だね。こんな魔法が使えるなんて、本当にダナイはすごいね!」
アベルは感心しているが、マリアは手を前に出したり、横にしたりして確認している。
「本当にここにダナイがいるの? 全然見えない!」
「おう、ここにいるぞ」
そう言って、マリアの腕をちょっと握った。
「ひゃあん!」
……え? マリアさん。何でそんなみんなが誤解を招きそうな声を出すの? ほら見ろ。リリアとアベルの顔がどんどん険しくなってるじゃないか!
「……ダナイ、一体マリアのどこを触ったのかしら?」
「腕だよ、腕! そうだよな、マリア? リリア、お前は何か変な誤解をしているぞ」
俺はすぐに姿を現すと、マリアに助けを求めた。だがしかし、マリアの目は怪しく光っていた。
コイツ、何かろくでもないことを言い出さないだろうな……。
「やだ、まさかダナイがこんなところ触ってくるなんて……」
そう言ってマリアは、自分の腕で胸を隠した。ちょ、まてよ!
「ダナイ?」
うわ、リリアの微笑みが怖い! 笑っているけど眉間にシワがよっているというもの凄い顔になっている。
タジタジする俺を見て、マリアがニヤけている。アベルはそんなマリアの表情に気がついたようである。すべてを悟ってあきれ顔だ。
って言うかアベル。そんな顔をする暇があるならリリアを止めてくれ。
この後、誤解を解くのが大変だった。もちろんマリアは、リリアに拳骨をもらっていた。因果応報だな。俺とアベルはそれを止めることをしなかった。
そうしてようやく、俺たちはトロッコが待っている場所まで帰ってきた。そこでは作業員が不安そうな顔をして待っていた。
「みなさん! ご無事で何よりです。ミスリルゴーレムはどうなりましたか?」
俺たちが戻ってきたのを見つけた作業員は一目散に駆け寄ってきた。そして俺たちが無事であることを確認すると、安堵のため息をついた。
「ミスリルゴーレムは倒したわ。これが証拠の品の、ミスリルゴーレムの核よ」
リリアが二つに分かれた核を差し出した。それを見た作業員は目を丸くしている。信じられない、といった顔つきだ。
「まさか本当に倒してしまうなんて。一体どうやったのですか?」
驚きと喜びが入り交じった声で聞いてきた。
「悪いが、倒し方は秘密だ」
俺が姿を消すことができる魔法が使えるということは、誰にも言わない方が良いという結論に至った。そんなことができることが誰かにバレたら、必ず厄介ごとに巻き込まれる。それが全員の一致した答えだった。
さっきのマリアのように、無実の罪をなすりつけられる原因になるのだ。もし使う必要がこの先あったとしても、慎重に使わないといけないな。
「そうですか。またミスリルゴーレムが現れたときの参考にしようかと思っていたのですが、残念です」
「倒し方のヒントくらいならベンジャミンに教えておくわ」
リリアの言葉に安心したのか、作業員はすぐに帰りのトロッコを用意してくれた。これからまたゴトゴトとトロッコに揺られて戻るのは少し億劫だが、歩いて帰るよりかはましか。さすがに疲れていることだし、諦めよう。
ミスリル鉱山から外に出ると、すでに日が暮れかけていた。俺たちは急いで里へと向かった。
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