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第三章

王都の冒険者ギルド

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 錬金術ギルドでAランク錬金術師の証明書をもらった翌日、四人は王都の冒険者ギルドを訪れていた。普段はイーゴリの街を拠点として活動しているが、冒険者の依頼はそれこそ多岐にわたる。そのため拠点以外の場所で依頼のやり取りをすることも多い。

 低ランク冒険者のままで良いのならば、拠点の街にある冒険者ギルドに顔が知られているだけで問題ない。しかし、もっと上を目指すのならば多くの街の冒険者ギルドに顔を知ってもらわなくてはならない。

 その中でも王都の冒険者ギルドは別格だ。何せこの国の冒険者ギルドの総本山。ここで難易度の高い依頼が受付られて、高ランク冒険者達が地方へと派遣されるような形になっているのだ。
 そのため、多くの高ランク冒険者達は王都周辺に家を構えていた。王都周辺に自分の家を持つことは冒険者にとっての一つのステータスであり、冒険者達の夢でもあった。

 王都の冒険者ギルドはイーゴリの街の気楽な感じとは違う、重苦しい異様な空気の圧迫感があった。すれ違う冒険者のほとんどはBランク以上の冒険者。誰もがキッチリとした装備を身につけており、イーゴリの街でしばしば見かけるような、ならず者から片足を踏み出しただけのような冒険者はいなかった。

 冒険者ギルドには他の地区から来たのであろう、少し違う制服を着たギルド職員の姿も多く見られた。おそらく地方で起きた難易度の高い依頼を申請しにきたのだろう。緊張した面持ちで冒険者用の受付カウンターとは別のカウンターで身振り手振り話をしていた。

「さすがに酒場が隣にはないみたいだな」
「そりゃそうよ。何せ、この国で最も格式が高い冒険者ギルドだからね」

 マリアはそう言いながら余裕のある表情で周囲を観察している。錬金術ギルドと同程度の大きさの建物に驚きはしていたようたが、二回目ともなれば落ち着いたものだった。

 一階のホールには自由に使える机や椅子が数多く設置してあった。ここでじっくりと依頼を検討して、作戦を練って仕事に臨むのだろう。今も五、六人の冒険者グループがテーブルの上に地図を広げて頭を突き合わせている。

「まずはここの職員に顔を覚えてもらわないとね」

 周囲を見渡したアベルが「いつかは自分もあそこに交じりたい」という顔をしながら提案端してきた。
 
「そうね。結構な数がいるけど、覚えてもらえるかな~?」
「大丈夫よマリア。王都のギルド職員よ? 優秀なのがそろっているわ。イーゴリの街の副ギルドマスターをしているミランダだって、イーゴリの街を拠点とする冒険者全員を把握しているくらいだからね」

 はえ~、とマリアが信じられないとばかりの声を出した。副ギルドマスターともなれば、やはり優秀でなければ成れないのだろう。それが王都の職員であるならばなおさらだ。

 整理番号を受け取り待合室でお昼の相談をしていると、自分達の番号が呼ばれた。どうやら初めて王都の冒険者ギルドに来た冒険者は奥の部屋に連れて行かれるようだ。おそらくそこで面談するのだろう。

「初めまして。副ギルドマスターの一人、ジアーナよ。って、あれ? リリアちゃんじゃない!」
「ジアーナ、久しぶりね。まさか副ギルドマスターになっているとは思わなかったわ。確かに昔から優秀だったものね」

 ウンウンと納得しているリリアの前には、ジアーナと名乗ったエルフ族の女性がいた。リリアをちゃん付けしているところを見ると、どうやら旧知の仲であり、リリアよりも随分とお姉さんのようである。

 二人が昔話に花を咲かせている間に、ダナイはアベルにコソッと聞いた。

「アベル、副ギルドマスターの一人ってことは、何人も副ギルドマスターがいるってことだよな?」
「そうだよ。王都の冒険者ギルドは集まる人の数も、依頼の数も多いからね。四、五人の副ギルドマスターがいるって話だよ」
「そうそう。だからその中からギルドマスターに会うことができる冒険者は一握りって話だよ」

 マリアがポショポショと追加情報をくれた。どうやらギルドマスターの目に留まるのは随分と先になりそうだ。コソコソ話をしているのに気がついたのだろう。コホンと一つ咳をして、ジアーナが空気を変えようと試みた。

「ごめんなさいね。それで、あなた達のことも紹介してもらえるかしら?」
「もちろんよ、ジアーナ。隣にいるのが私の旦那様のダナイよ。その隣がアベルでマリア。全員Cランク冒険者で――」
「ちょっと待った! 旦那様ってどう言うこと!? 何だかとっても綺麗だけど、ドワーフよね、それ!? それに「ダナイ」って、あの「天才錬金術師ダナイ」のことよね!?」

 グワッと目を見開いたジアーナの顔は、さすがはエルフ。それでもまだ美しさを保っていた。テンションメーターは一気に振り切れたようだが。バンッ! と机を叩くと、身を乗り出した。

「落ち着いて、ジアーナ。ちゃんと説明するから。実はかくかくしかじかでね」

 リリアの説明を聞いたジアーナは大分落ち着きを取り戻したようである。大人しく席に着くと、頭を抱えた。

「彼が噂の「天才錬金術師ダナイ」だってことは分かったわ。でもね、旦那様って……本気なの?」
「もちろんよ。それともジアーナはダメだって言うの?」
「それは……リリアの自由だからダメだとは言わないけど。あなたの両親が何て言うかと思うと、頭が痛くなるわね」

 両親の意見は求めない、と言うリリアだったが、その件については十分に頭が痛い問題だとダナイも思っていた。

「やっぱり問題があるのか」
「ダナイ、あなたが心配する必要はないわ。これは私の問題よ」
「リリアの問題は俺にとっても問題だよ」

 これはとっても大問題だ。ため息をついてリリアの方を見ると、美しい青い瞳と目が合った。
 
「ダナイ……」
「リリア……」
「あー、ハイハイ、ご馳走様、ご馳走様。そんなことよりも、王都の冒険者ギルドへようこそ。歓迎するわ。今、ギルドマスターを呼んでくるから待っててね」
「え、ナンデ!?」

 まさか、しばらくは会うことはないだろうと思っていた大物にいきなり会うことになるとは。アベルとマリアも覚悟ができていなかったのか、アワアワと身なりを整え始めてた。
 
 冒険者として生計を立てる二人にとっては、王都のギルドマスターは社長のようなものなのだろう。いきなり大企業の社長と対面することになったら、誰でもそうなるはずだ。

 ジアーナは部屋を出るとすぐにギルドマスターを連れて戻ってきた。眼鏡をかけた壮年の男性がジアーナが開けた扉から入ってくる。元冒険者、というよりかは大企業の社長と言っても良いほどの風体だった。

「イーゴリの街の冒険者ギルドだけでなく、錬金術ギルドからも君達についての手紙を受け取っているよ。私がギルドマスターのマクシミリアンだよ」

 上座に座ると、温和な雰囲気を醸し出しながら挨拶を交わした。イーゴリの街のギルドマスターのような腕に覚えのある者ではなく、文官としての実務を確実にこなせる人をトップに据えているようである。

 恐縮して完全に固まってしまったアベルとマリアの代わりに、これまでの経緯と今後もお世話になるのでよろしくとお互いに挨拶を交わした。

「ここ、王都の冒険者ギルドでは主にBランク冒険者以上の者が受ける依頼ばかりでね、君達が本格的に利用するのはもう少し後になるかな。それでも、この場の空気をしっかりと感じ取ってもらいたい。必ず刺激になるからね」

 アベルとマリアを見据えて、マクシミリアンは言った。二人が冒険者一筋なのに対して、ダナイは冒険者以外にもお金を稼ぐ手段がある。冒険者としてのこだわりが強いのは二人だろうと見てとったようだった。

「高ランク冒険者達の雰囲気を肌で感じるためにこのギルドを訪れる冒険者は多いわ。もちろん、私達に顔と名前を売るという意味もあるけどね。本気で上を目指す冒険者は必ずここに顔を見せるわ。あなた達のようにね」

 ジアーナは温かい目で四人を見つめた。ここに自分達を売りに来るか、否か。それで大体の冒険者としての志は見てとれるようである。

「何かと刺激を受けることは多いだろう。せっかくここまで来たのだから、大いに刺激を受けてくれたまえ。そして、Bランク冒険者としてここを利用するようになる日を楽しみにしているよ」

 どうもマクシミリアンは、俺達が冒険者として大成すると見ているようである。にこやかな顔をしているが、鋭い目つきをしていた。
 これまで何人もの冒険者を見てきたのだろう。その確かな目が、俺達四人の将来性を見て取ったのかも知れなかった。
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