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第二章
髭モジャアラフィフドワーフ
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領都からの帰り道、ゴトゴトと上下する馬車の中で、ダナイはいささかグロッキーな状態になっていた。ドワーフの丈夫さゆえに尻は痛くはないのだが、永遠と続くかと思われるこの馬車の揺れには辟易していた。
「ダナイ、大丈夫?」
「気分が悪い。吐きそう……」
心配そうに声をかけたリリアがその一言にオロオロとし始めた。アベルとマリアもワタワタと動き出した。
「領都で乗った馬車は良い馬車だったんだな。この乗合馬車と比べると全然違うことがよく分かったよ。よくこんなのに乗り続けられるな」
「領都と違って道が舗装されていないこともあるわね。でも、これが普通よ。遠出することになったら、もっと長く乗っていなきゃいけないわ。それでも徒歩よりかは断然いいわ」
確かにそれもそうか、と思いながらも、この酷い揺れで毎日過ごすのかと思うとゾッとした。そして、決意した。
「よし、家に帰ったら揺れない馬車を作ろう」
「またダナイは変なことを言って……」
リリアがあきれた眼差しを送った。それを聞いたアベルは苦笑していた。
「それでもダナイならやりかねないと思うんだよね」
リリアは大きなため息を吐いた。すでに頭も抱えている。
「それよ、それ。本当にやりかねないから怖いのよ。ダナイ、あなた、すでにかなり領主様に目をつけられているわよ。分かっているのかしら?」
「分かっているとも。だがな、この揺れでリリアの尻が硬くなったらどうするんだ? アベルもマリアの尻は柔らかい方がいいだろう?」
「そ、それはそうだけど……」
アベルは恐る恐るマリアを見た。汚物を見るような目で見てる。リリアを見た。同じような目でこちらを見ている。アベルは「どうしてこうなった」とばかりに天を仰いだ。
当のダナイは本気でリリアの尻具合を心配しているようであり、馬車ができあがるまではクッションを持って出かけようとしきりに勧めていた。
「やっぱり我が家が一番ね!」
開口一番、マリアが嬉しそうに言った。あまり緊張しないタイプなのかと思っていたが、マリアはマリアで神経を使っていたようである。ダナイはすぐに風呂を掃除し「ダナイ忍法、水遁、風呂満水の術」を使うと、すぐに加温の魔道具を投げ込み起動した。
「マリア、風呂の湯を沸かしているから、できあがり次第入るといい。サッパリするぞ」
「ありがとう。ダナイは本当にお風呂が好きよね。わたしも好きだけど。そうだ! ダナイも一緒にお風呂に入る?」
背中にもの凄い殺気を二つ感じたダナイ。すぐに首を横にブンブンと振った。まだ死にたくはない。
「遠慮しとくよ。まだ命が惜しいからな」
ダナイの言葉に「そう?」と首を傾げるマリア。その純粋な心をこれからも持ち続けて欲しいと密かに願った。
旅の疲れを癒やすべく、リビングでダラリとする四人。行きよりも明らかに多くなった荷物は玄関付近に投げ出してあった。
「やっぱりソファーが欲しいわね」
「そうだな。明日にでも見に行くか」
領都での買い物ではリリアが散々ソファーを買うか悩んでいた。ソファーだけではない。服も買いたいが、それほど荷物を増やすことはできないと厳選に厳選を重ねていた。
中でもランジェリー選びは大変だった。色々試しては「これはどう?」とその姿をダナイに見せてきた。ダナイはベヒーモスが二本足で立ち上がろうとするのを必死に抑えながら対応した。何度もダメかと思った。
それに比べれば、ソファー選びなど、どうと言うことはなかった。
「俺達は冒険者ギルドに顔を出しに行くよ。ついでに受けられそうな依頼があったら引き受けて来るよ」
アベルは冒険者としてもっと上を目指しているようだ。日々の鍛錬は毎日行っており、他のメンバーもそれに代わる代わるつき合っていた。
Bランク冒険者に昇格するにはそれなりに目立つ実績を上げる必要がある。そのときが来たら確実にそのチャンスをつかみ取れるように自分に磨きをかけていた。
ピーヒャラピーヒャラと魔道具が風呂の準備ができたことを知らせた。マリアに目配せすると、すぐに風呂へと突撃して行った。風呂場からアベルを呼ぶ声が聞こえる。
耳を赤くして席を立ったアベルに「コイツを使いな」と言って石けんを渡した。この石けんは領都で買った高級石けんだ。その使い心地を気に入り、かなりの数を買い込んでいた。
風呂場へとアベルが去ると「あの石けんを使うのが楽しみね」とリリアが意味ありげな表情でダナイを見た。
ここは借宿ではなく、マイホームである。何をするにも、誰にも遠慮は要らない。今度こそベヒーモスが牙を剥くことになるかも知れないと思いつつも、話を振った。
「明日は師匠にも挨拶に行きたいと思っているんだが、構わないか?」
「もちろんよ。きっとダナイの話を聞いたら喜ぶわよ」
「そうだな。師匠の面子は保てたと思う」
そうね、と言いながら鼻歌を歌うリリア。ダナイは目を瞑って瞑想を始めた。本当にこんな髭モジャアラフィフドワーフでいいのか? その邪念はリリアとベッドで一つになる直前まで消えることはなかった。
「ダナイ、大丈夫?」
「気分が悪い。吐きそう……」
心配そうに声をかけたリリアがその一言にオロオロとし始めた。アベルとマリアもワタワタと動き出した。
「領都で乗った馬車は良い馬車だったんだな。この乗合馬車と比べると全然違うことがよく分かったよ。よくこんなのに乗り続けられるな」
「領都と違って道が舗装されていないこともあるわね。でも、これが普通よ。遠出することになったら、もっと長く乗っていなきゃいけないわ。それでも徒歩よりかは断然いいわ」
確かにそれもそうか、と思いながらも、この酷い揺れで毎日過ごすのかと思うとゾッとした。そして、決意した。
「よし、家に帰ったら揺れない馬車を作ろう」
「またダナイは変なことを言って……」
リリアがあきれた眼差しを送った。それを聞いたアベルは苦笑していた。
「それでもダナイならやりかねないと思うんだよね」
リリアは大きなため息を吐いた。すでに頭も抱えている。
「それよ、それ。本当にやりかねないから怖いのよ。ダナイ、あなた、すでにかなり領主様に目をつけられているわよ。分かっているのかしら?」
「分かっているとも。だがな、この揺れでリリアの尻が硬くなったらどうするんだ? アベルもマリアの尻は柔らかい方がいいだろう?」
「そ、それはそうだけど……」
アベルは恐る恐るマリアを見た。汚物を見るような目で見てる。リリアを見た。同じような目でこちらを見ている。アベルは「どうしてこうなった」とばかりに天を仰いだ。
当のダナイは本気でリリアの尻具合を心配しているようであり、馬車ができあがるまではクッションを持って出かけようとしきりに勧めていた。
「やっぱり我が家が一番ね!」
開口一番、マリアが嬉しそうに言った。あまり緊張しないタイプなのかと思っていたが、マリアはマリアで神経を使っていたようである。ダナイはすぐに風呂を掃除し「ダナイ忍法、水遁、風呂満水の術」を使うと、すぐに加温の魔道具を投げ込み起動した。
「マリア、風呂の湯を沸かしているから、できあがり次第入るといい。サッパリするぞ」
「ありがとう。ダナイは本当にお風呂が好きよね。わたしも好きだけど。そうだ! ダナイも一緒にお風呂に入る?」
背中にもの凄い殺気を二つ感じたダナイ。すぐに首を横にブンブンと振った。まだ死にたくはない。
「遠慮しとくよ。まだ命が惜しいからな」
ダナイの言葉に「そう?」と首を傾げるマリア。その純粋な心をこれからも持ち続けて欲しいと密かに願った。
旅の疲れを癒やすべく、リビングでダラリとする四人。行きよりも明らかに多くなった荷物は玄関付近に投げ出してあった。
「やっぱりソファーが欲しいわね」
「そうだな。明日にでも見に行くか」
領都での買い物ではリリアが散々ソファーを買うか悩んでいた。ソファーだけではない。服も買いたいが、それほど荷物を増やすことはできないと厳選に厳選を重ねていた。
中でもランジェリー選びは大変だった。色々試しては「これはどう?」とその姿をダナイに見せてきた。ダナイはベヒーモスが二本足で立ち上がろうとするのを必死に抑えながら対応した。何度もダメかと思った。
それに比べれば、ソファー選びなど、どうと言うことはなかった。
「俺達は冒険者ギルドに顔を出しに行くよ。ついでに受けられそうな依頼があったら引き受けて来るよ」
アベルは冒険者としてもっと上を目指しているようだ。日々の鍛錬は毎日行っており、他のメンバーもそれに代わる代わるつき合っていた。
Bランク冒険者に昇格するにはそれなりに目立つ実績を上げる必要がある。そのときが来たら確実にそのチャンスをつかみ取れるように自分に磨きをかけていた。
ピーヒャラピーヒャラと魔道具が風呂の準備ができたことを知らせた。マリアに目配せすると、すぐに風呂へと突撃して行った。風呂場からアベルを呼ぶ声が聞こえる。
耳を赤くして席を立ったアベルに「コイツを使いな」と言って石けんを渡した。この石けんは領都で買った高級石けんだ。その使い心地を気に入り、かなりの数を買い込んでいた。
風呂場へとアベルが去ると「あの石けんを使うのが楽しみね」とリリアが意味ありげな表情でダナイを見た。
ここは借宿ではなく、マイホームである。何をするにも、誰にも遠慮は要らない。今度こそベヒーモスが牙を剥くことになるかも知れないと思いつつも、話を振った。
「明日は師匠にも挨拶に行きたいと思っているんだが、構わないか?」
「もちろんよ。きっとダナイの話を聞いたら喜ぶわよ」
「そうだな。師匠の面子は保てたと思う」
そうね、と言いながら鼻歌を歌うリリア。ダナイは目を瞑って瞑想を始めた。本当にこんな髭モジャアラフィフドワーフでいいのか? その邪念はリリアとベッドで一つになる直前まで消えることはなかった。
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