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第二章

銀の指輪

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 師匠に及第点をもらい、ようやく肩の荷が下りたダナイ。一仕事を終え家に帰ると、ささやかながらリリアと祝杯を挙げていた。

「リリアのお陰で、無事に納品できたぜ」
「何言ってるのよ。全部ダナイの力でしょ」

 アハハ、ウフフ、と二人で笑い合いながら夕食を食べた。少し酔いが回ってきたところで用意していた例のブツを取り出した。

「リリア、これはしばらくかまってやれなかったことへのお詫びの印だ」

 そう言って銀の指輪をリリアの前に差し出した。取り付けられた小さな丸いアンバーがキラリと光る。指輪には緻密な若草の文様が蔓のように絡みついていた。
 リリアはそれを震える手で摘まみ上げると、顔を真っ赤にして指輪を凝視した。

 その様子にギョッとなったダナイ。事前調査ではこの世界で指輪を贈る行為は特にプロポーズの意味合いはなかったはずだ。ギクシャクした空気にならないようにと、細心の注意を払って調べ上げたはずだ。

「ダナイ、本当にこれを私に?」
「あ、ああ、もちろんだ。ほら、前に言ってただろう? アンバーの方が良かったって」

 え? という顔つきになったリリア。ダナイもあれ? という顔つきになりリリアを見つめた。リリアの顔が目に見えて厳しい表情になっていく。

 その表情にダナイは陸に上がったコイのように口をパクパクとさせた。何を言ったら良いのか分からない。そんなダナイを見ながら、リリアは決心したかのように呟いた。

「ダナイ、あなた、自分の目の色が何色なのか、分かってる?」

 え? 俺の目の色? 確か褐色――そのときにダナイは気がついた。リリアに上げたタクトにはリリアの目の色を模したサファイアの宝石をつけた。そのことを話したときに、アンバーが良かった、とリリアは言った。そして今回は自分の目の色を模した指輪をリリアに上げた。

 ダナイは急ぎ『ワールドマニュアル(門外不出)』を発動した。

 
 意中の相手に自分の目の色と同じ宝石を上げる行為は、相手のことを愛してると言うことと同義


 それを承知でリリアが「アンバーが良かった」と言い、アンバーの宝石がついた指輪を受け取ったと言うことは、そう言うことである。つまりはリリアもダナイのことを愛していると言うことだ。

「まさかダナイ、そんなつもりじゃなかったのかしら?」

 リリアの目がみるみるうちに吊り上がっていった。
 
 男ダナイは決心した。ここで逃げては男が廃る。

「リリアのことを愛している。もしリリアが良かったら、その指輪を受け取って欲しい」

 リリアの目がパチクリと大きく見開かれた。大きな澄んだ青い瞳がわずかに潤み、キラキラと輝いているのがダナイの目に映る。そのまま耳まで真っ赤に、いや、全身を真っ赤にすると、小さな声で「はい」と言ってうつむいた。

 その手にはしっかりとダナイの作った指輪が握られていた。
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