17 / 137
第一章
魔鉱溶融炉①
しおりを挟む
その日のうちにダナイが魔鉱と向き合う日々が始まった。ゴードンの店にもいくらかの魔鉱の蓄えがあった。しかし、そこにも問題が出始めているようだった。
「さっきも言った通り、魔鉱は武器として使われなくなってきている。その煽りを受けて、最近では魔鉱の流通量が激減しているんだよ。魔鉱を使う鍛冶屋がいなくなっているから、魔鉱が安く手に入るのは結構なことなんだが、このままでは手に入らなくなる恐れがある」
ゴードンはため息交じりに言った。原料が枯渇すればその技術は衰退することだろう。
「それなら、どこか取引先を探しておく必要がありそうですね」
「ああ、それもそうだが。それよりも、冒険者ギルドで依頼した方が良いかも知れん」
「冒険者ギルドでですか? それではこの辺りで魔鉱が採掘できる場所があるんですね?」
「まあ、あるにはあるが……そうか、ダナイは冒険者だったな」
その言葉に頷くと「魔鉱の採掘は俺に任せて下さい」と確かに請け負った。ゴードンはダナイがDランク冒険者であることを確認し、それを容認したのであった。
魔鉱が採掘できる場所はダナイがこの世界に降り立って初めて登った山だった。なるほど、あの廃村は魔鉱を採掘するのを生業にしていたのだな、と一人納得した。
ゴードンは魔鉱とその原石である魔鉱石をダナイの目の前に持ってきた。魔鉱は淡い赤みを持つ金属だった。ダナイはそれに何か不思議な気配のようなものを感じていた。
「魔鉱はな、魔力を帯びた金属なのだよ」
ほれ、とそれをダナイに手渡した。ズッシリとした重さを感じる。どうやら鉄よりも少しばかり重いようだと睨んだ。
「厄介なことに、この魔鉱石から魔鉱を取り出しても、品質が一定にならないのだよ」
「ええ!? そんなことがあるんですか。それは厄介ですね。品質が安定しないと商品として売りに出せませんよ」
その通りだ、とゴードンは頷く。それこそが魔鉱の衰退の原因だろうと言った。ゴードンは名刺サイズの魔鉱をやっとこで掴むと、予め用意してあった火床へと差し込んだ。
「魔鉱は鉄のように色が変わるまでに時間が倍近くかかる。燃料は多めに用意しておくように。それから、さっきも言ったかも知れないが、もの凄く堅い。何度も何度も力一杯叩かなければ加工できないのだよ」
ゴードンの言葉にこれは気軽に作る物じゃないな、と理解した。手伝いながらもダナイは何一つ見逃すまいとゴードンの作業を穴が空くように見つめた。
なんとか一振りの小型のナイフを作り上げたが、ゴードンは精魂疲れ果てていた。ダナイは慌ててゴードンをカウンターに連れて行くと、すぐに飲み物と食べ物を差し出した。
「ありがとう、ダナイ。これで魔鉱を扱うことの大変さが分かったかね? あれだけ苦労して、このサイズの物しか作り出せないのだよ」
力なくゴードンは笑ったが、その壮絶な作業を見ていたダナイはとても笑うことはできなかった。できあがったナイフも色味にムラがあった。これが先ほど言っていた品質が一定ではないと言うことだろう。熱して赤くなっているときは全く分からなかったが、こうして完成品を見ると良く分かる。本当に厄介な代物のようだとダナイは黙り込んだ。
「今日はここまでにしておこう。明日からはダナイにも作ってもらうからな」
「分かりました。任せて下さい」
しかし、逃げるつもりはなかった。きっと何かヒントがあるはずだ。ダナイは宿に戻り、夕食と入浴を済ませると、椅子の上にドッカリと腰をかけた。テーブルの上にはペンと紙が用意してある。
ダナイは目を瞑り、魔鉱について調べ始めた。ついでに謎の金属ミスリルについても調べた。
「なるほど、鉄が魔力を帯びたものが魔鉱で、銀が魔力を帯びたものがミスリルになるのか。どちらも長い年月魔力に曝される必要があるみたいだな。一朝一夕には作られないというわけか。ちなみに銅が魔力を帯びると……なんだ、何にも変化しないのか」
ブツブツと言いながらメモを取っていく。魔鉱にムラができるのは鉄が魔力を非常に通しにくいからであった。逆に銀は非常に良く魔力を通すため、ミスリルは魔鉱に比べて遥かに品質が安定していた。
魔鉱の品質を安定させる方法が何かあるのではないかと考えたダナイは一つの項目に目が留まった。
「魔鉱の溶かし方……? そうか! 一旦魔鉱を完全に溶かして均一化すれば品質が安定するはずだ。でもどうやって溶かすんだ? 何々、魔鉱溶融炉の作り方? なるほど、専用の魔方陣を使った設備があるのか!」
興奮して足をパチンと叩いた。こうしちゃいれらねえとばかりに、その設計図を紙の上に書き出した。あとはこの設備を師匠の家の中庭に作るだけであった。
「さっきも言った通り、魔鉱は武器として使われなくなってきている。その煽りを受けて、最近では魔鉱の流通量が激減しているんだよ。魔鉱を使う鍛冶屋がいなくなっているから、魔鉱が安く手に入るのは結構なことなんだが、このままでは手に入らなくなる恐れがある」
ゴードンはため息交じりに言った。原料が枯渇すればその技術は衰退することだろう。
「それなら、どこか取引先を探しておく必要がありそうですね」
「ああ、それもそうだが。それよりも、冒険者ギルドで依頼した方が良いかも知れん」
「冒険者ギルドでですか? それではこの辺りで魔鉱が採掘できる場所があるんですね?」
「まあ、あるにはあるが……そうか、ダナイは冒険者だったな」
その言葉に頷くと「魔鉱の採掘は俺に任せて下さい」と確かに請け負った。ゴードンはダナイがDランク冒険者であることを確認し、それを容認したのであった。
魔鉱が採掘できる場所はダナイがこの世界に降り立って初めて登った山だった。なるほど、あの廃村は魔鉱を採掘するのを生業にしていたのだな、と一人納得した。
ゴードンは魔鉱とその原石である魔鉱石をダナイの目の前に持ってきた。魔鉱は淡い赤みを持つ金属だった。ダナイはそれに何か不思議な気配のようなものを感じていた。
「魔鉱はな、魔力を帯びた金属なのだよ」
ほれ、とそれをダナイに手渡した。ズッシリとした重さを感じる。どうやら鉄よりも少しばかり重いようだと睨んだ。
「厄介なことに、この魔鉱石から魔鉱を取り出しても、品質が一定にならないのだよ」
「ええ!? そんなことがあるんですか。それは厄介ですね。品質が安定しないと商品として売りに出せませんよ」
その通りだ、とゴードンは頷く。それこそが魔鉱の衰退の原因だろうと言った。ゴードンは名刺サイズの魔鉱をやっとこで掴むと、予め用意してあった火床へと差し込んだ。
「魔鉱は鉄のように色が変わるまでに時間が倍近くかかる。燃料は多めに用意しておくように。それから、さっきも言ったかも知れないが、もの凄く堅い。何度も何度も力一杯叩かなければ加工できないのだよ」
ゴードンの言葉にこれは気軽に作る物じゃないな、と理解した。手伝いながらもダナイは何一つ見逃すまいとゴードンの作業を穴が空くように見つめた。
なんとか一振りの小型のナイフを作り上げたが、ゴードンは精魂疲れ果てていた。ダナイは慌ててゴードンをカウンターに連れて行くと、すぐに飲み物と食べ物を差し出した。
「ありがとう、ダナイ。これで魔鉱を扱うことの大変さが分かったかね? あれだけ苦労して、このサイズの物しか作り出せないのだよ」
力なくゴードンは笑ったが、その壮絶な作業を見ていたダナイはとても笑うことはできなかった。できあがったナイフも色味にムラがあった。これが先ほど言っていた品質が一定ではないと言うことだろう。熱して赤くなっているときは全く分からなかったが、こうして完成品を見ると良く分かる。本当に厄介な代物のようだとダナイは黙り込んだ。
「今日はここまでにしておこう。明日からはダナイにも作ってもらうからな」
「分かりました。任せて下さい」
しかし、逃げるつもりはなかった。きっと何かヒントがあるはずだ。ダナイは宿に戻り、夕食と入浴を済ませると、椅子の上にドッカリと腰をかけた。テーブルの上にはペンと紙が用意してある。
ダナイは目を瞑り、魔鉱について調べ始めた。ついでに謎の金属ミスリルについても調べた。
「なるほど、鉄が魔力を帯びたものが魔鉱で、銀が魔力を帯びたものがミスリルになるのか。どちらも長い年月魔力に曝される必要があるみたいだな。一朝一夕には作られないというわけか。ちなみに銅が魔力を帯びると……なんだ、何にも変化しないのか」
ブツブツと言いながらメモを取っていく。魔鉱にムラができるのは鉄が魔力を非常に通しにくいからであった。逆に銀は非常に良く魔力を通すため、ミスリルは魔鉱に比べて遥かに品質が安定していた。
魔鉱の品質を安定させる方法が何かあるのではないかと考えたダナイは一つの項目に目が留まった。
「魔鉱の溶かし方……? そうか! 一旦魔鉱を完全に溶かして均一化すれば品質が安定するはずだ。でもどうやって溶かすんだ? 何々、魔鉱溶融炉の作り方? なるほど、専用の魔方陣を使った設備があるのか!」
興奮して足をパチンと叩いた。こうしちゃいれらねえとばかりに、その設計図を紙の上に書き出した。あとはこの設備を師匠の家の中庭に作るだけであった。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
ポリ 外丸
ファンタジー
普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。
海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。
その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。
もう一度もらった命。
啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。
前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。
※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル
異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった
孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた
そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた
その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。
5レベルになったら世界が変わりました
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる