16 / 137
第一章
素晴らしき魔道具の世界②
しおりを挟む
宿に戻ったダナイはさっそく魔道具を作ってみることにした。各種工具を持ち出すと、さすがに宿の中で大きな物音を立てるわけにはいかないだろうと外に出た。途中で雑貨屋に寄り、必要そうな鉄板、銅板、銅線、小さな金床などを買い込むと、ニヤニヤしながら街の外の人気がない場所へと向かった。
「この辺りでいいだろう。それではさっそく……」
逸る気持ちを抑えながら、まずは銅板に魔方陣を刻み込んでいった。カツカツと小気味好い音を奏でながら彫り込んでいく。前世で習得した彫金の技術はドワーフとなった今でも健在であった。むしろドワーフになったことで器用さも上がり、以前よりも遥かに洗練されていた。
作ろうとしているのは小型化したライターだった。小さな魔方陣を描き終えると、ケース作りに入った。こちらは鉄板を叩いて形を整えた。できあがった入れ物に魔方陣と銅線を組み込み、小さな魔石と繋げた。もちろんオンオフのスイッチも忘れない。
「できたぞ。それではさっそく……ありゃ? 火が点かねぇ」
何度カチカチとやってみても、火がついた様子は見られなかった。しかし、よくよく目に近づけて見てみると、とても小さな火がついていることに気がついた。
「こんなに小さな火じゃ役に立たねえな。どうしてこうなった?」
答えはすぐに頭の中に浮かんだ。どうやら魔方陣の出力はその大きさに比例するようだった。ダナイが描いた小さな魔方陣では出力が弱すぎたのだ。
「なるほど、これが小型化できない原因か。これは参ったな。……いや、待てよ。もっと強力な火を出す魔方陣を使えばいいんじゃないのか?」
ダナイが改めて問うと、火の魔方陣、炎の魔方陣、業火の魔方陣……と次々と魔方陣の名前が頭に浮かんだ。効果が弱い順に並んでいるのだろうと判断したダナイは、炎の魔方陣を選択した。
先ほどの魔方陣よりも複雑な構造をした魔方陣が頭の中に浮かぶ。それを繊細な手つきで彫り上げた。先ほどよりか一回り大きい魔方陣になってしまったが、なんとか許容範囲内の大きさだった。
「これでどうだ?」
期待に胸を膨らませてスイッチを入れると、ろうそくの明かり程度の火がついた。ダナイは思わずガッツポーズをした。ここに小型のライターが発明されたのであった。
小型化に成功したダナイは調子に乗ってライターの表面に微細な彫金を施した。思った以上の美しいものに仕上がったライターを見ながらニンマリすると、足取りも軽く宿へと戻った。
翌日、ダナイはそのライターを手に持つと、いつものように鍛冶屋ゴードンへと向かった。もちろんそのライターは師匠であるゴードンにプレゼントするつもりであった。
「こ、これを私に?」
ゴードンは小型化された点火の魔道具と、それを彩る見事な彫金の装飾に見入っていた。火をつけたり消したりしながら装飾をひとしきり愛でると、ため息を吐いた。
「どうやらダナイには次の段階へと進む資格があるようだ」
「次の段階、ですか?」
「そうだ。これからは魔鉱を使った武器の作り方を教えよう」
「魔鉱?」
これまでは鉄製の武器しか作ったことはなかったのだが、どうやら魔鉱と呼ばれる金属がこの世界には存在するらしいことが分かった。これまでゴードンが扱っているところを見たことがないダナイは、その金属が特殊なものであることだけは理解できた。
「ふむ、ダナイは知らないか。ミスリルはさすがに聞いたことがあるだろう。魔鉱はミスリルとは違い、とても堅くて扱い難い金属でな。武器や防具には向いているが、微細な装飾を施す必要があるアクセサリー類にはほとんど使用されていない」
ダナイはミスリルという金属のことも知らなかったが、それはあとで調べることにした。取りあえず今は知っているという体で話を進めた。
「使い方を間違えなければ鉄製よりも優れた武器が作れるのだが、最近ではあまり見なくなってしまったな。まあ、研げる者も少なくなっているようだし、仕方がないのかも知れんな」
魔鉱製の武器は世の中から忘れ去られようとしていた。ゴードンはその技術をダナイに託すことに決めたのだった。それはひとえにダナイを一人の鍛冶屋職人として認めたということでもあった。
「この辺りでいいだろう。それではさっそく……」
逸る気持ちを抑えながら、まずは銅板に魔方陣を刻み込んでいった。カツカツと小気味好い音を奏でながら彫り込んでいく。前世で習得した彫金の技術はドワーフとなった今でも健在であった。むしろドワーフになったことで器用さも上がり、以前よりも遥かに洗練されていた。
作ろうとしているのは小型化したライターだった。小さな魔方陣を描き終えると、ケース作りに入った。こちらは鉄板を叩いて形を整えた。できあがった入れ物に魔方陣と銅線を組み込み、小さな魔石と繋げた。もちろんオンオフのスイッチも忘れない。
「できたぞ。それではさっそく……ありゃ? 火が点かねぇ」
何度カチカチとやってみても、火がついた様子は見られなかった。しかし、よくよく目に近づけて見てみると、とても小さな火がついていることに気がついた。
「こんなに小さな火じゃ役に立たねえな。どうしてこうなった?」
答えはすぐに頭の中に浮かんだ。どうやら魔方陣の出力はその大きさに比例するようだった。ダナイが描いた小さな魔方陣では出力が弱すぎたのだ。
「なるほど、これが小型化できない原因か。これは参ったな。……いや、待てよ。もっと強力な火を出す魔方陣を使えばいいんじゃないのか?」
ダナイが改めて問うと、火の魔方陣、炎の魔方陣、業火の魔方陣……と次々と魔方陣の名前が頭に浮かんだ。効果が弱い順に並んでいるのだろうと判断したダナイは、炎の魔方陣を選択した。
先ほどの魔方陣よりも複雑な構造をした魔方陣が頭の中に浮かぶ。それを繊細な手つきで彫り上げた。先ほどよりか一回り大きい魔方陣になってしまったが、なんとか許容範囲内の大きさだった。
「これでどうだ?」
期待に胸を膨らませてスイッチを入れると、ろうそくの明かり程度の火がついた。ダナイは思わずガッツポーズをした。ここに小型のライターが発明されたのであった。
小型化に成功したダナイは調子に乗ってライターの表面に微細な彫金を施した。思った以上の美しいものに仕上がったライターを見ながらニンマリすると、足取りも軽く宿へと戻った。
翌日、ダナイはそのライターを手に持つと、いつものように鍛冶屋ゴードンへと向かった。もちろんそのライターは師匠であるゴードンにプレゼントするつもりであった。
「こ、これを私に?」
ゴードンは小型化された点火の魔道具と、それを彩る見事な彫金の装飾に見入っていた。火をつけたり消したりしながら装飾をひとしきり愛でると、ため息を吐いた。
「どうやらダナイには次の段階へと進む資格があるようだ」
「次の段階、ですか?」
「そうだ。これからは魔鉱を使った武器の作り方を教えよう」
「魔鉱?」
これまでは鉄製の武器しか作ったことはなかったのだが、どうやら魔鉱と呼ばれる金属がこの世界には存在するらしいことが分かった。これまでゴードンが扱っているところを見たことがないダナイは、その金属が特殊なものであることだけは理解できた。
「ふむ、ダナイは知らないか。ミスリルはさすがに聞いたことがあるだろう。魔鉱はミスリルとは違い、とても堅くて扱い難い金属でな。武器や防具には向いているが、微細な装飾を施す必要があるアクセサリー類にはほとんど使用されていない」
ダナイはミスリルという金属のことも知らなかったが、それはあとで調べることにした。取りあえず今は知っているという体で話を進めた。
「使い方を間違えなければ鉄製よりも優れた武器が作れるのだが、最近ではあまり見なくなってしまったな。まあ、研げる者も少なくなっているようだし、仕方がないのかも知れんな」
魔鉱製の武器は世の中から忘れ去られようとしていた。ゴードンはその技術をダナイに託すことに決めたのだった。それはひとえにダナイを一人の鍛冶屋職人として認めたということでもあった。
1
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

魔喰のゴブリン~最弱から始まる復讐譚~
岡本剛也
ファンタジー
駆け出しの冒険者であるシルヴァ・ベルハイスは、ダンジョン都市フェルミでダンジョン攻略を生業としていた。
順風満帆とはいかないものの、着実に力をつけてシルバーランク昇格。
そしてついに一つの壁とも言われる十階層の突破を成し遂げた。
仲間との絆も深まり、ここから冒険者としての明るい未来が待っていると確信した矢先——とある依頼が舞い込んできた。
その依頼とは勇者パーティの荷物持ちの依頼。
勇者の戦闘を近くで見られることができ、高い報酬ということもあって引き受けたのだが、この一回の依頼がシルヴァを地獄の底に叩き落されることとなった。
ダンジョン内で勇者達からゴミのような扱いを受け、信頼していた仲間にからも見放され……ダンジョンの奥地に放置されたシルヴァは、匂いに釣られてやってきた魔物に襲われた。
魔物に食われながら、シルヴァが心の底から願ったのは勇者への復讐。
そんな願いが叶ったのか、それとも叶わなかったのか。
事実のほどは神のみぞ知るが、シルヴァは記憶を持ったままとある魔物に転生した。
その魔物とは、最弱と名高いゴブリン。
追い打ちをかけるような最悪な状況に常人なら心が折れてもおかしくない中、シルヴァは折れることなく勇者への復讐を掲げた。
これは最弱のゴブリンに転生したシルヴァが、最強である勇者への復讐を果たす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる