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第一章
一石二鳥
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ダナイはリリアを肩に乗せ、イーゴリの街へと急いで戻っていた。
「ごめんね、ダナイ。魔力が枯渇していなければ自分で歩けたのに……」
「良いってことよ」
ブラックベアとの戦いで魔力とやらを使い果たしたリリアは自力で歩くことができないくらいに疲弊していた。魔力ポーションという魔力を回復するポーションも戦闘中に全て使ってしまったらしい。
始めはリリアを背負うつもりだったのだが、それではリリアが持っていた荷物が背負えない。そこでダナイはリリアを肩の上に座らせることにしたのだった。
ダナイは軽々とリリアを持ち上げた。リリアは「さすがはドワーフね」と感心していたのだが、ダナイの方は羽のように軽いリリアを「ちゃんとご飯を食べているのだろうか?」と一人心配していた。
「ブラックベアに遭遇するとは、運がなかったな」
「確かにそうね。でも、運が良かったとも言えるわ」
リリアはつかまっているダナイの頭の毛並みをモフモフと撫でた。くすぐったさに顔を見上げると、リリアはその美しい顔をだらしなく崩していた。見てはならないものを見てしまったと、ダナイはすぐに前を向いた。
「リリアは一人で森に入ったのか?」
「いいえ、私の他に三人の仲間がいたわ。でも勘違いしないで。ブラックベアが現れたときに私が三人を逃がしたのよ。四人の中で私が一番冒険者ランクが高かったからね」
ダナイは黙り込んだ。四人揃っていても勝てないと判断したのだろう。それでリリアは三人の命を救う選択をした。しかし、ダナイはそれが分かっても納得はできなかった。
「私には魔法があるから、他の誰よりも時間稼ぎには向いていたのよ」
ダナイの不機嫌を感じ取ったのか、リリアは言い訳するかのように言った。明らかにしぼんでいったリリアの声色に、ダナイはこの話題にはこれ以上触れないことに決めた。
「魔法? じゃあ、あの氷柱はリリアの魔法だったのか? 魔法を使ったから魔力が無くなっちまったのか」
「そうよ。魔法は初めてかしら?」
「あ、ああ、初めてだ」
ダナイは完全に面食らっていた。まさかこの世界に魔法があるとは。妙な世界だとは思っていたが、まさか魔術が存在する世界だとは思ってもみなかったのだ。そして、急に興味がムクムクと湧いてきた。
「魔術で怪我は治せないのか?」
ダナイが見上げると、リリアの青い瞳と目が合った。そして小さく首を振った。
「魔術じゃなくて、魔法よ。怪我を治す魔法は存在しないわ」
「そ、そうなのか。何でも魔法でできるわけじゃないんだな」
動揺しながらダナイは目を逸らした。あの目を見るだけで何故か胸が高鳴っている自分がいた。長い間忘れていた感情を思い出し「俺ももういい年なのに」と内心苦笑いした。自分はもうアラフィフだ。リリアのような若い女性とは釣り合わない。そう思うと胸の奥がチクリと痛んだ。
「魔法が使えるのはエルフの特権だからね。ドワーフでも使える人がいるって聞いたことがあるけど、その様子だとダナイは使えないみたいね」
「ドワーフでも使える!? それじゃ俺も練習すれば魔法を使えるようになる可能性があるって言うのかい?」
ダナイは興奮して答えた。まるで新しい玩具を買ってもらった子供のようだな、と思いつつも、興味を持たずにはいられなかった。そんなダナイに対して、リリアは優しい眼差しを向けた。
「可能性は十分にあると思うわ。良かったら、助けてくれたお礼に魔法を教えてあげましょうか?」
「ありがてえ! ぜひ、頼む!」
ダナイの頭の中にあった聖剣を作る目的は、今は頭の片隅に追いやられていた。リリアとまた会える約束と取り付けた上に、魔法まで教えてもらえるのだ。まさに一石二鳥。興奮せずにはいられなかった。
リリアもリリアで思うところがあったようであり、そのまま二人は楽しい会話を続けながら街へと戻って行った。
「ごめんね、ダナイ。魔力が枯渇していなければ自分で歩けたのに……」
「良いってことよ」
ブラックベアとの戦いで魔力とやらを使い果たしたリリアは自力で歩くことができないくらいに疲弊していた。魔力ポーションという魔力を回復するポーションも戦闘中に全て使ってしまったらしい。
始めはリリアを背負うつもりだったのだが、それではリリアが持っていた荷物が背負えない。そこでダナイはリリアを肩の上に座らせることにしたのだった。
ダナイは軽々とリリアを持ち上げた。リリアは「さすがはドワーフね」と感心していたのだが、ダナイの方は羽のように軽いリリアを「ちゃんとご飯を食べているのだろうか?」と一人心配していた。
「ブラックベアに遭遇するとは、運がなかったな」
「確かにそうね。でも、運が良かったとも言えるわ」
リリアはつかまっているダナイの頭の毛並みをモフモフと撫でた。くすぐったさに顔を見上げると、リリアはその美しい顔をだらしなく崩していた。見てはならないものを見てしまったと、ダナイはすぐに前を向いた。
「リリアは一人で森に入ったのか?」
「いいえ、私の他に三人の仲間がいたわ。でも勘違いしないで。ブラックベアが現れたときに私が三人を逃がしたのよ。四人の中で私が一番冒険者ランクが高かったからね」
ダナイは黙り込んだ。四人揃っていても勝てないと判断したのだろう。それでリリアは三人の命を救う選択をした。しかし、ダナイはそれが分かっても納得はできなかった。
「私には魔法があるから、他の誰よりも時間稼ぎには向いていたのよ」
ダナイの不機嫌を感じ取ったのか、リリアは言い訳するかのように言った。明らかにしぼんでいったリリアの声色に、ダナイはこの話題にはこれ以上触れないことに決めた。
「魔法? じゃあ、あの氷柱はリリアの魔法だったのか? 魔法を使ったから魔力が無くなっちまったのか」
「そうよ。魔法は初めてかしら?」
「あ、ああ、初めてだ」
ダナイは完全に面食らっていた。まさかこの世界に魔法があるとは。妙な世界だとは思っていたが、まさか魔術が存在する世界だとは思ってもみなかったのだ。そして、急に興味がムクムクと湧いてきた。
「魔術で怪我は治せないのか?」
ダナイが見上げると、リリアの青い瞳と目が合った。そして小さく首を振った。
「魔術じゃなくて、魔法よ。怪我を治す魔法は存在しないわ」
「そ、そうなのか。何でも魔法でできるわけじゃないんだな」
動揺しながらダナイは目を逸らした。あの目を見るだけで何故か胸が高鳴っている自分がいた。長い間忘れていた感情を思い出し「俺ももういい年なのに」と内心苦笑いした。自分はもうアラフィフだ。リリアのような若い女性とは釣り合わない。そう思うと胸の奥がチクリと痛んだ。
「魔法が使えるのはエルフの特権だからね。ドワーフでも使える人がいるって聞いたことがあるけど、その様子だとダナイは使えないみたいね」
「ドワーフでも使える!? それじゃ俺も練習すれば魔法を使えるようになる可能性があるって言うのかい?」
ダナイは興奮して答えた。まるで新しい玩具を買ってもらった子供のようだな、と思いつつも、興味を持たずにはいられなかった。そんなダナイに対して、リリアは優しい眼差しを向けた。
「可能性は十分にあると思うわ。良かったら、助けてくれたお礼に魔法を教えてあげましょうか?」
「ありがてえ! ぜひ、頼む!」
ダナイの頭の中にあった聖剣を作る目的は、今は頭の片隅に追いやられていた。リリアとまた会える約束と取り付けた上に、魔法まで教えてもらえるのだ。まさに一石二鳥。興奮せずにはいられなかった。
リリアもリリアで思うところがあったようであり、そのまま二人は楽しい会話を続けながら街へと戻って行った。
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