伝説の鍛冶屋ダナイ~聖剣を作るように頼まれて転生したらガチムチドワーフでした~

えながゆうき

文字の大きさ
上 下
6 / 137
第一章

風呂事情

しおりを挟む
 夜の帳が下り始め、ダナイはテーブルの上に置いてあるランタンに火を付けようとした。

「なんだこりゃ? 俺の知ってるランタンじゃないぞ」

 土台の部分に摘まみが付いているものの、枝状に上へと伸びた金属製のフレームの中は空っぽだった。首を捻りながら摘まみを回すと、フレームの間に眩い光が灯った。

「コイツは凄えや。一体どんな原理なんだ?」

 上下左右から観察したが、どうなっているのかは分からなかった。ダナイは未知の技術を目の当たりにして、それを分解して中身を確かめたい衝動に駆られたが、グッとこらえた。

 いつか自分で購入して、分解しよう。

 ダナイに一つの目標ができた。そのとき、お腹が鳴った。時刻はそろそろ夕飯時。女将の一品おまけにつられて、今日はこの宿の食堂で晩ご飯を食べることにした。
 
 一階にある食堂にたどり着くと、この宿を利用している人達であろうか、かなりの人数の人達がそこを利用していた。これは期待できそうだ、と思っていると、女将よりも若い従業員の女性が注文をとりに来た。

「ドワーフだなんて珍しいわね。注文は何に致しましょうか?」
「女将のお勧めを頼む。それから、風呂に入りたいんだが、どこで入ればいいのかな?」
「お風呂、ですか?」

 怪訝そうな顔で少女はこちらを見ていた。何故そのような顔をするのかが分からないダナイは、首を捻りながら答えを待った。

「一階の奥に大浴場があります。女将に一声かけていただければ入浴することができると思います」
「そうか、ありがとうよ」

 笑顔でそう返すと、少女は厨房へと向かった。

「入浴できると思うって、どう言うことだ? まさか、お断りされる可能性もあるのか?」

 先ほどの言葉を反芻していると、間もなく女将がお勧め料理を持ってやって来た。

「ダナイさん、お風呂に入りたいんだってね?」

 女将はダナイの目の前に食事を運びながらそう問いかけた。その目はジロジロとこちらを見ていた。

「そうしたいんだが、何か都合が悪いのかね?」
「え? ええ、まあ……ドワーフは風呂なんかには入らないって聞いたことがあるんだよ」

 なるほど、だから風呂に入りたいというドワーフを奇妙に思ったのか。確かにたまにしか入らないドワーフが無節操に風呂に入ったら、後始末が大変だろう。

「俺はこの辺りのドワーフと違ってな。うちの種族は毎日風呂に入るのが習慣だったんだ。なぁに、大丈夫さ。湯船につかる前に体をしっかりとこすってから入るから、心配はいらないよ」

 その言葉にホッとした表情をする女将。どうやら、受け答えに抜かりはなかったようだ。

「そうだったのかい。それなら大丈夫だね。他の客も入るから、きれいに使っておくれよ。石けんとたわしは風呂場にあるのを自由に使っておくれ」

 女将は笑顔でそう言うと、厨房へと戻って行った。
 
 目の前に出された食事からは温かな湯気が立ち上っていた。お腹の虫がギュウとなり、早く食べろと言っている。たまらずダナイはスプーンとフォーク手に取ると、食事を口の中にほおばった。二日ぶり食べるまともな食事は大変美味しかった。
 
 食事が終わると、すぐに大浴場へと向かった。日本人として五十年近く生きてきたダナイにとっては、風呂はまさに命の洗濯をする場所であった。
 
 岩山や森の中、草原を徘徊した体はホコリまみれであり、とてもきれいとは言い難かった。ダナイは言われた通り、石けんを借りた。
 
 体を洗うスポンジはどうやらないようであり、その代わりにタワシのようなブラシがいくつも置いてあった。おそらくはこれで洗うのだろうと思い、複雑な気持ちでタワシに石けんをこすりつけた。

 しかし、使ってみると、そのタワシのようなものは「タワシもどき」であり、その毛並みは思った以上に柔らかかった。
 
 ダナイは安心して、毛むくじゃらになった自分の体を洗った。一度では汚れが落としきれなかったようで、三回も洗うことになってしまったが、その甲斐あって、ツヤツヤでサラサラの毛並みになった。
 それに満足したダナイは、ようやく湯船に入ることができた。
 
 湯船に入っていた客達がギョッとした表情をしたのは言うまでもなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

燃えよドワーフ!(エンター・ザ・ドワーフ)

チャンスに賭けろ
ファンタジー
そのドワーフは熱く燃えていた。そして怒っていた。 魔王軍の侵攻で危機的状況にあるヴァルシパル王国は、 魔術で召喚した4人の異世界勇者にこの世界の危機を救ってもらおうとしていた。 ひたすら亜人が冷遇される環境下、ついに1人のドワーフが起った。 ドワーフである自分が斧を振るい、この世界の危機を救う! これはある、怒りに燃えるドワーフの物語である。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

処理中です...