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メガネの下の素顔

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 こちらに顔を向けて、キッパリとイーリスが言った。その顔に迷いはなさそうだった。ならばよし。手術を開始するとしよう。と言っても、魔法でチョイなのでそれほど大仰なことじゃないんだけどね。俺はイーリスの頭に両手を挟み込むように置いた。

「それじゃ行くよー、リラックスしてー、はい終わったー」
「え、もう!? ううっ」

 あまりの速さに驚きを隠せない様子のイーリス。そして視力を取り戻した目は、メガネの度のキツさに耐えられなかったようである。気持ちが悪そうな様子で、イーリスがメガネを慌てて外した。

 そこにはサファイアブルーの大きな瞳がキラキラと輝いていた。俺の瞳の色とソックリだ。思わずその瞳をジッと見つめてしまった。

 ヤバい、何これ。メガネを外すとめっちゃ美人なんだけど!? おっぱいも大きくて美人とか、完璧か!
 髪の色は俺のゴールドに対してイーリスはシルバーだが、二人並べば対照的でなかなか良いのではなかろうか。
 それにしてもイーリスの反応がないのだが……あ、泣き出した。

「でおざま! 目が、目がー!」

 ようやく自分の目が見えるようになったことに実感が湧いたのだろう。イーリスが俺にしがみついて泣き出した。それも時間がたつに連れてワンワンと声が大きくなっていった。
 これはまずい。この状態を両親やアウデン男爵に見られでもしたら、絶対に誤解されてしまう!

「テオドール様、何事ですか!? あっ!」

 セバスチャンがサロンに入ると同時に声をあげた。そして見てはならないものを見てしまったかのように両手で口元を覆った。いや、セバスチャン、誤解だからね?

「あーっ! テオがイーリスを泣かせちゃったー。テオがイーリスのおっぱいを無節操にもむからだよ」
「何ですと!?」
「ミケ!?」

 セバスチャンは慌てて廊下を走って行った。多分みんなを呼んで来るんだろうなぁ。俺は非難がましくミケを見た。ミケはその目を細い三日月型に変えて、ニヤニヤとこちらを見ていた。
 何だろう。守護精霊って俺の味方なんじゃなかったのかな? それともミケだけが違うのか?

 セバスチャンから事情を聞いたのであろうメンバーが急いでサロンにやってきた。イーリスに事情を説明してもらおうと思ったが、泣き続けていてどうにもならない。そして両親がワンワンと言ってきた。だれも俺の話を聞いてくれない。
 ああもう、むちゃくちゃだよ。


 ようやく落ち着いたイーリスが事情を説明してくれたことで、俺は無罪放免となった。そして俺に無実の罪をなすりつけたミケは素知らぬ顔をしてイーリスの膝の上で丸まっていた。どうやらその位置なら俺に怒られないと思っているらしい。
 あとで覚えておけよ。この恨み、晴らさずにいられるか。

「テオドール殿には何とお礼を言えば良いものか。イーリスは長い間、苦しんでいたもので……」

 ううう、とアウデン男爵が涙を流している。まさかそこまで感謝されるとは思わなかった。メガネの下に隠されているイーリスの素顔を、単に俺が見たかっただけなのに。

「よくやったぞ、テオドール。これでアウデン男爵家とはますますつながりが深くなったことだろう」

 父上も母上もとてもうれしそうだ。良かった。これで少しはあのときの汚名返上を果たせたかな?
 アウデン男爵たちは交流を深めるために、二、三日、モンドリアーン子爵家に泊まって行くそうである。そして帰りは、アウデン男爵家まで俺が送り届けることになっている。

 夕食は非常に豪華な晩餐会となった。何と言っても未来の子爵夫人であるイーリスの視力が回復したのだ。
 当初の非常に地味な印象とは異なり、メガネを外したイーリスは大輪のバラのように華やかになっていた。使用人たちも大喜びだ。

 次々と運ばれてくる料理を、隣に座るイーリスが物珍しそうな目で見ていた。どうやらメガネをかけていても、そこまで見えていなかったようである。あのメガネでも気休め程度だったのかも知れない。

「ミケちゃんはご飯は食べないのですか?」
「うーん、そうだね……少し食べてみようかな」

 イーリスに気を遣っているのか、ミケが普段は食べない料理を口にした。
 だが、それがいけなかった。

「何これ、うまあぁぁぁぁぁあい!」

 普段は俺から魔力をもらっているらしく、特に食事を必要としていなかった。しかし、初めて食事を口にしたことで、ミケは新しい世界の扉を開いたらしい。
 その後のミケはご飯だけでなくお菓子もねだるようになった。それもなぜか、露骨に俺に出されたお菓子だけを狙ってくる。いやらしい。太っても知らないぞ、ミケ。
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