伯爵令嬢に婚約破棄されたので、人間やめました

 うー、ダイエット、ダイエットー!
 子爵家の庭を必死に走っている俺は、丸々太った、豚のような子爵令息のテオドール十五歳。つい先日、婚約者の伯爵令嬢にフラれたばっかりの、胸に大きな傷を負った漆黒の堕天使さ。髪はブロンド、瞳はブルーだけど。

 貴族としてあるまじき醜態はすぐに社交界に広がり、お茶会に参加しても、いつも俺についてのヒソヒソ話をされて後ろからバッサリだ。どっちも、どっちも!

 そんなわけで、俺は少しでも痩せるために庭を毎日走っている。でも、全然痩せないんだよね、何でだろう?
 そんなことを考えながら走っていると、庭の片隅に見慣れない黒い猫が。

 うは、可愛らしい黒猫。

 俺がそう思って見つめていると、黒い猫は俺の方へと近づいてきた!

「人間をやめないかい?」
「いいですとも! 俺は人間をやめるぞー!!」

 と、その場の空気に飲まれて返事をしたのは良いけれど、もしかして、本気なの!? あ、まずい。あの目は本気でヤる目をしている。
 俺は一体どうなってしまうんだー!! それ以前に、この黒い猫は一体何者なんだー!!
 え? 守護精霊? あのおとぎ話の? ハハハ、こやつめ。

 ……え、マジなの!? もしかして俺、本当に人間やめちゃいました!?

 え? 魔境の森にドラゴンが現れた? やってみるさ!
 え? 娘を嫁にもらってくれ? ずいぶんと地味な子だけど、大丈夫?
 え? 元婚約者が別のイケメン男爵令息と婚約した? そう、関係ないね。
 え? マンドラゴラが仲間になりたそうな目でこちらを見てる? ノーサンキュー!
 え? 魔石が堅くて壊せない? 指先一つで壊してやるよ!
 え? イケメン男爵令息が魔族だった? 殺せ!

 何でわざわざ俺に相談しに来るんですかねー。俺は嫁とイチャイチャしたいだけなのに。あ、ミケ、もちろんミケともイチャイチャしたいよー?
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