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モニカの見解
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王立学園の入学式も終わり、クラスメイト達との自己紹介も済んだところで、本日のゲーム内固定イベントの「入学式イベント」は終了した。
王都に家を持つ者はそのまま家に帰ることになるのだが、その一方で、そうでない生徒達には、王立学園内に完備されている学生寮へと帰ることになる。
有力貴族の多くは、王都にタウンハウスを持っているため、学生寮に入寮するのは、身分がそれほど高くない人達だけだった。
おそらく、ヒロイン候補達はその寮へと帰ることになるだろう。
それでは帰ろうか、とモニカに目配せをすると、モニカはどうしようかと目を彷徨わせた。
「レオ様、学園の施設の見学には行かないのですか?」
「どうしてだい? 多分、明日にでも案内されるんじゃないかな。それなのに、今日見て回る必要はないよね?」
「確かにそうですけど……」
怪しい。これはイベントと関係あるな。多分、ヒロインとの遭遇イベントだな。
俺としては、その手のイベントは起こさずに、すべてのイベントフラグを折った方が良いのではないかと思うのだが、違うのだろうか。
周りを見ると、それを確信に変えるかのように、ヒロイン候補達は誰もいなくなっていた。
「それでは帰りましょうか、モニカ姫。私が責任を持って、エスコートさせていただきますよ」
俺が優雅にモニカに手を差し伸べると、残っていた女子生徒から、キャー、と黄色い歓声が上がった。
それを聞いたモニカは顔を真っ赤にして、俺の手を取った。
何度もエスコートをしているので、もう慣れたものだと思っていたが、どうやらそんなことはなかったようだ。やはり、同年代の子達の前では、まだまだ恥ずかしいようである。
ゴトゴトと王都の石畳を王家の馬車が進んで行く。
今日はどうしても話しておきたいことがあったので、モニカに無理を言って同じ馬車に乗ってもらっている。
城に到着して、美味しいお茶菓子を食べたら、ちゃんと公爵家まで送り届ける予定である。
馬車の中には、俺とモニカ、それに、サラとピーちゃんだけである。
「モニカ、どうしても聞きたいことがあるんだけど」
下を向いていたモニカが、ややあって顔を上げた。
「何でしょうか」
どうやら、モニカにもヒロイン達のことで思うところがあったようだ。
「どの子がヒロインなんだい?」
「それは」
モニカが言い淀む。
「それは?」
「全員、ですわ……」
「……はい?」
あまりのことに、変な声が出た。いや、変な声を出さずにはいられなかった。全員って、どういうことなの。
「モニカ、分かるように説明してもらえないかな」
「はい」
そう言うとモニカは、どのように説明すべきかと少し考えを巡らせた。
モニカの話はこうだ。
ゲームの中で選択することができる名前は全部で二十四人。その中の六人が同じクラスにいて、別の六人がBクラスの名簿にあった。
つまり、教室の入り口でモニカが顔を青くしていたのは、爵位のない生徒の全員がヒロイン名だったからに他ならなかった。その気持ち、分かる気がする。
だが、まだ分からないことがある。
「なるほど、大体分かったよ。でも、ヒロインの容姿くらいは覚えているんじゃないの?」
「それが、ゲーム内のヒロインは黒塗りのシルエットでしか登場しないのですよ」
ごめんなさいとばかりにモニカがうつむく。
いや、別にモニカのせいじゃないからね。気にしなくてもいいからね。
しかし、よくあるアニメの犯人のような姿で表現されていたのか。それなら全員がモブ顔をしていてもおかしくはないのか。
これは困った。何それ、クソゲー! って叫びたい。学園に入学すればヒロインが誰だか分かり、対策が取れると思っていたのに、そんなことはなかった。
それよりも、もっと状況は悪くなった。誰がヒロインなのか分からないから、このままでは候補者全員をマークしておかなければならないのだ。
「モニカ、何かヒロインの特徴とかはないのかな? ほら、髪の毛の色とか、目の色、髪型や身長なんかで特徴はないの?」
「それが、特に明記されておりませんのよ。制作会社側からすると、プレイヤーにそのヒロインに成りきってもらいたい、というコンセプトでしたので。あ、そう言えば、一つだけありましたわ。ヒロインであることを証明するものが!」
モニカが何かを思い出したらしく、目を輝かせた。
「何だい、モニカ?」
ここに来て、ようやく光明が見えそうだ。
「ヒロインは魔物の氾濫が起きたときに、その類い稀な治癒魔法の才能を開花させて、聖女に選ばれるのです! つまり、聖女に選ばれたものがヒロインですわ!」
フンス、と鼻息を荒くするモニカ。
突っ込んでいいものかどうか悩んだが、そのまま誤解させておく方がまずかろうと思い、話すことにした。
「モニカ、残念なんだけど」
「何ですの?」
まだ気がついていないモニカが、キョトンとした表情をこちらに向けた。
「魔物の氾濫は起きなくなったよね? 俺達が原因となるダンジョンを潰したことで。それに、モニカがすでに聖女に選ばれているだろう? 前にも言ったけど、聖女と認定されるのは国内でただ一人だけ、つまりはモニカだけなんだよ」
あっ、と小さな声をあげ、大きく膨らんでいたモニカ風船は、瞬く間にしぼんでいった。
なんかごめん、モニカ。モニカを貶めるつもりは微塵もなかったんだよ。
俺は隣でしぼんでしまったモニカの腰を抱いた。
モニカが涙目で見つめてくる。
「なるほど、そういうことか。つまりは聖女認定されたモニカが、ゲームのヒロインということだな。ヒロインと結ばれてバッドエンドになるゲームなんて、そうそうないだろう。だから」
そう言って俺は、モニカとの顔の距離を詰めた。
「はいそこまで」
「痛った! サラ、指が食い込んでる!」
サラの馬鹿力によって無理やり離される俺。これでもこの国の王子なんですけど、その辺りの考慮というものはないんですかね?
「モニカお嬢様の許可なく不埒な行為をすることは許されません」
くっ! サラは俺の敵だったか! 同じ敵を倒すために、たまたま共同戦線を張っただけに過ぎなかったのか。
【主様、モニカ様にそのような野蛮な行為は認められません。以後、慎むように】
ピーちゃん、お前もか!
忌ま忌ましげにピーちゃんを見ていると「まあまあ落ち着いて下さい」とモニカが仲裁に入った。
本当にいい子だな。
ん? ということは、モニカの許可があれば、致してもいいというのとではないのだろうか。
チラリとモニカを見ると、目と目が合った。
「モニカ」
オッケーだよね?
「レオ様」
ひた、とこちらを見つめるモニカ。オッケーですよね?
「誰かに見られているのは恥ずかしいですわ」
ポッと顔を赤く染めてうつむいてしまったモニカ。
ダメでした。
俺はガッカリした状態で帰路についた。
いつもの場所の、いつもの場所で。
城に帰ってきた俺達はいつものようにお茶をしていた。
日が暮れるまでにはまだ時間がある。少しくらいお母様の庭でお茶を嗜んでもいい時間帯だった。
「モニカ、本当ならば学園見回りイベントがあったんだろう?」
「ええ、その通りですわ。そこでレオ様とヒロインが初めて出会うのですわ」
やっぱりか。それであのときモニカが挙動不審な態度をとったのか。
「もしあのとき、俺が学園を見回っていたらどうなったと思う?」
「私の見解では、次々とヒロイン候補に会っていたのではないでしょうか。おそらく今の段階では、全員がヒロインなのですわ」
「奇遇だね。俺もモニカと全く同じ考えだよ。それじゃあ、そのイベントをスルーしたことで、フラグが立たなくなるんじゃないの?」
モニカは首を振った。
「攻略対象との遭遇イベントは、まだまだたくさんありますわ。遭遇イベントがないと、ゲーム事態が始まりませんので、そこだけは、それこそ山のようにイベントが用意されているのですわ。すべての出会いイベントを、ノーリセットで回避するのは不可能ですわ」
何それ怖い。意地でもヒロインと攻略対象をぶつけようとする制作会社側もそうだが、リセットありなら、攻略対象と遭遇せずにゲームが進められるシステムも怖い。
誰が得するの、それ?
俺の顔にその疑問が出ていたのか、モニカが説明を付け加えてくれた。
「ちなみに、すべての出会いイベントを回避すると、隠しモードのBLルートに突入しますわ」
何それ怖い。それだけは何かやだ。
王都に家を持つ者はそのまま家に帰ることになるのだが、その一方で、そうでない生徒達には、王立学園内に完備されている学生寮へと帰ることになる。
有力貴族の多くは、王都にタウンハウスを持っているため、学生寮に入寮するのは、身分がそれほど高くない人達だけだった。
おそらく、ヒロイン候補達はその寮へと帰ることになるだろう。
それでは帰ろうか、とモニカに目配せをすると、モニカはどうしようかと目を彷徨わせた。
「レオ様、学園の施設の見学には行かないのですか?」
「どうしてだい? 多分、明日にでも案内されるんじゃないかな。それなのに、今日見て回る必要はないよね?」
「確かにそうですけど……」
怪しい。これはイベントと関係あるな。多分、ヒロインとの遭遇イベントだな。
俺としては、その手のイベントは起こさずに、すべてのイベントフラグを折った方が良いのではないかと思うのだが、違うのだろうか。
周りを見ると、それを確信に変えるかのように、ヒロイン候補達は誰もいなくなっていた。
「それでは帰りましょうか、モニカ姫。私が責任を持って、エスコートさせていただきますよ」
俺が優雅にモニカに手を差し伸べると、残っていた女子生徒から、キャー、と黄色い歓声が上がった。
それを聞いたモニカは顔を真っ赤にして、俺の手を取った。
何度もエスコートをしているので、もう慣れたものだと思っていたが、どうやらそんなことはなかったようだ。やはり、同年代の子達の前では、まだまだ恥ずかしいようである。
ゴトゴトと王都の石畳を王家の馬車が進んで行く。
今日はどうしても話しておきたいことがあったので、モニカに無理を言って同じ馬車に乗ってもらっている。
城に到着して、美味しいお茶菓子を食べたら、ちゃんと公爵家まで送り届ける予定である。
馬車の中には、俺とモニカ、それに、サラとピーちゃんだけである。
「モニカ、どうしても聞きたいことがあるんだけど」
下を向いていたモニカが、ややあって顔を上げた。
「何でしょうか」
どうやら、モニカにもヒロイン達のことで思うところがあったようだ。
「どの子がヒロインなんだい?」
「それは」
モニカが言い淀む。
「それは?」
「全員、ですわ……」
「……はい?」
あまりのことに、変な声が出た。いや、変な声を出さずにはいられなかった。全員って、どういうことなの。
「モニカ、分かるように説明してもらえないかな」
「はい」
そう言うとモニカは、どのように説明すべきかと少し考えを巡らせた。
モニカの話はこうだ。
ゲームの中で選択することができる名前は全部で二十四人。その中の六人が同じクラスにいて、別の六人がBクラスの名簿にあった。
つまり、教室の入り口でモニカが顔を青くしていたのは、爵位のない生徒の全員がヒロイン名だったからに他ならなかった。その気持ち、分かる気がする。
だが、まだ分からないことがある。
「なるほど、大体分かったよ。でも、ヒロインの容姿くらいは覚えているんじゃないの?」
「それが、ゲーム内のヒロインは黒塗りのシルエットでしか登場しないのですよ」
ごめんなさいとばかりにモニカがうつむく。
いや、別にモニカのせいじゃないからね。気にしなくてもいいからね。
しかし、よくあるアニメの犯人のような姿で表現されていたのか。それなら全員がモブ顔をしていてもおかしくはないのか。
これは困った。何それ、クソゲー! って叫びたい。学園に入学すればヒロインが誰だか分かり、対策が取れると思っていたのに、そんなことはなかった。
それよりも、もっと状況は悪くなった。誰がヒロインなのか分からないから、このままでは候補者全員をマークしておかなければならないのだ。
「モニカ、何かヒロインの特徴とかはないのかな? ほら、髪の毛の色とか、目の色、髪型や身長なんかで特徴はないの?」
「それが、特に明記されておりませんのよ。制作会社側からすると、プレイヤーにそのヒロインに成りきってもらいたい、というコンセプトでしたので。あ、そう言えば、一つだけありましたわ。ヒロインであることを証明するものが!」
モニカが何かを思い出したらしく、目を輝かせた。
「何だい、モニカ?」
ここに来て、ようやく光明が見えそうだ。
「ヒロインは魔物の氾濫が起きたときに、その類い稀な治癒魔法の才能を開花させて、聖女に選ばれるのです! つまり、聖女に選ばれたものがヒロインですわ!」
フンス、と鼻息を荒くするモニカ。
突っ込んでいいものかどうか悩んだが、そのまま誤解させておく方がまずかろうと思い、話すことにした。
「モニカ、残念なんだけど」
「何ですの?」
まだ気がついていないモニカが、キョトンとした表情をこちらに向けた。
「魔物の氾濫は起きなくなったよね? 俺達が原因となるダンジョンを潰したことで。それに、モニカがすでに聖女に選ばれているだろう? 前にも言ったけど、聖女と認定されるのは国内でただ一人だけ、つまりはモニカだけなんだよ」
あっ、と小さな声をあげ、大きく膨らんでいたモニカ風船は、瞬く間にしぼんでいった。
なんかごめん、モニカ。モニカを貶めるつもりは微塵もなかったんだよ。
俺は隣でしぼんでしまったモニカの腰を抱いた。
モニカが涙目で見つめてくる。
「なるほど、そういうことか。つまりは聖女認定されたモニカが、ゲームのヒロインということだな。ヒロインと結ばれてバッドエンドになるゲームなんて、そうそうないだろう。だから」
そう言って俺は、モニカとの顔の距離を詰めた。
「はいそこまで」
「痛った! サラ、指が食い込んでる!」
サラの馬鹿力によって無理やり離される俺。これでもこの国の王子なんですけど、その辺りの考慮というものはないんですかね?
「モニカお嬢様の許可なく不埒な行為をすることは許されません」
くっ! サラは俺の敵だったか! 同じ敵を倒すために、たまたま共同戦線を張っただけに過ぎなかったのか。
【主様、モニカ様にそのような野蛮な行為は認められません。以後、慎むように】
ピーちゃん、お前もか!
忌ま忌ましげにピーちゃんを見ていると「まあまあ落ち着いて下さい」とモニカが仲裁に入った。
本当にいい子だな。
ん? ということは、モニカの許可があれば、致してもいいというのとではないのだろうか。
チラリとモニカを見ると、目と目が合った。
「モニカ」
オッケーだよね?
「レオ様」
ひた、とこちらを見つめるモニカ。オッケーですよね?
「誰かに見られているのは恥ずかしいですわ」
ポッと顔を赤く染めてうつむいてしまったモニカ。
ダメでした。
俺はガッカリした状態で帰路についた。
いつもの場所の、いつもの場所で。
城に帰ってきた俺達はいつものようにお茶をしていた。
日が暮れるまでにはまだ時間がある。少しくらいお母様の庭でお茶を嗜んでもいい時間帯だった。
「モニカ、本当ならば学園見回りイベントがあったんだろう?」
「ええ、その通りですわ。そこでレオ様とヒロインが初めて出会うのですわ」
やっぱりか。それであのときモニカが挙動不審な態度をとったのか。
「もしあのとき、俺が学園を見回っていたらどうなったと思う?」
「私の見解では、次々とヒロイン候補に会っていたのではないでしょうか。おそらく今の段階では、全員がヒロインなのですわ」
「奇遇だね。俺もモニカと全く同じ考えだよ。それじゃあ、そのイベントをスルーしたことで、フラグが立たなくなるんじゃないの?」
モニカは首を振った。
「攻略対象との遭遇イベントは、まだまだたくさんありますわ。遭遇イベントがないと、ゲーム事態が始まりませんので、そこだけは、それこそ山のようにイベントが用意されているのですわ。すべての出会いイベントを、ノーリセットで回避するのは不可能ですわ」
何それ怖い。意地でもヒロインと攻略対象をぶつけようとする制作会社側もそうだが、リセットありなら、攻略対象と遭遇せずにゲームが進められるシステムも怖い。
誰が得するの、それ?
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