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ダンジョン③

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「入り口も広かったですが、中も広いですね」
「ええ、そうですね。ひょっとしたら、若いダンジョンはこのように広くなっていて、時間が経つほどに狭く、複雑になっていくのではないでしょうか?」
 
 研究者資質なのか、ブルックが時々メモにとりながらダンジョンを観察している。
 ダンジョンの内部が良く見えるように、ライトの魔法を使って明るくしているため、足元が暗くて危険ということもない。
 さらには警戒の魔法を使用しているため、今のところそれほど危険なところはなかった。
 
「仮にそうだとしたら、宝箱は期待できそうにないですね」
「そんな~」
「そんな~」
 
 モニカとギルがそろって同じ声をあげた。
 ダンジョンと言えばお宝。その発想は分からなくもない。だがしかし、モニカが言うのはどうなのかと思わなくもない。
 そう言えば、何でも買えるくらいの財力を持っているはずなのに、モニカが高価な指輪やネックレスを身につけてくることはなく、どちらかと言えば慎ましやかなものが多かった。
 きっと前世は、俺と同じく一般的な庶民だったんだろうな。それでお金をたくさん持っていても、派手に使うことができない。
 まあ、自分もそうなので、他人のことを言えた義理ではないのだが。
 
【主様】
「ん? お、魔物が向こうからやってくるぞ。気をつけろ」
 
 とは言ったものの、そこは道幅の広い一本道である。不意討ちもなければ、戦いにくくもないという戦うには好都合な場所だった。
 
「あれは、ゴブリンか?」
 
 先頭のギルが敵を確認しながら、剣をスラリと抜いた。
 その目が、何だか血に餓えた獣のような目をしているのは気のせいだろうか? 何だかんだ言って、ギルが俺達の前で剣を抜くのは初めてだった。
 ゴブリンは全部で三体。最弱クラスな上に、数も少ない。安心してギルに任せて大丈夫だろう。
 ギィギィ! と不気味に鳴くゴブリンにギルが素早く肉薄した。とても、騎士の鎧を装備しているとは思えないほどの速さだ。
 あっという間にゴブリンとの差を詰めたギルは、持っていた剣で先頭のゴブリンを切り裂いた。それに驚いたゴブリンが戦闘態勢をとろうとしたが、それをさせることなく二体とも仲良くギルに倒された。
 倒されたゴブリン達は音もなく霞となって消えた。
 噂には聞いていたが、見たのは初めてだった。
 ダンジョンで死んだものは霧となり、いずこかへと消えてゆく。
 どうしてそうなるのかは、学者の間でもまだ解明されておらず、一説にはダンジョンが吸収しているのではないか、と言われている。
 
「ギル、一匹くらい残してくれてもいいじゃないですか」
 
 ブーブーと不満を言い出したブルック。彼もまた、初めての冒険で自分の魔法の力を試してみたかったのだろう。
 
「すまんすまん。次は必ず残しておくから、そんな顔しないでくれ」
 
 さっきの戦闘で満足感を得られたギルは朗らかに笑いながら言った。みんな訓練だけでは物足りず、ウズウズしているのだろう。
 そんな俺も、実はウズウズしていたりするので、他人のことは言えないな。

 
 その後も魔物は俺達の前に姿を現したが、ゴブリンやコボルト、スライムや大型のコウモリなど、魔物図鑑で良く見る弱い魔物ばかりだった。
 それでも、俺達にとってはとても素晴らしい体験だった。平和な日常とは違うスリリングな状況に、俺達の仲間意識はより強くなっていった。
 
「どうやら、このダンジョンの一番奥にたどり着いたようですわ」
 
 常にサポートに徹していたモニカがこの冒険の終わりを告げた。
 ダンジョンに入ってからは二時間も経っていないだろう。それで最深部までたどり着けるほど、こぢんまりとしたダンジョンだった。
 
「さて、ダンジョンの最深部はどうなっているのかな?」
「噂ではダンジョンの核があるとの話ですが、楽しみですね」
 
 研究者気質のブルックがメモ帳を片手に楽しそうに言った。
 隣でアルが残念な人を見るような目で見ていたが、何だかんだでブルックを含めたみんなの安全確保に努めていた。
 アルはかなりの世話好きのようだ。パーティーに一人くらいそういう人材がいると、とても助かるな。
 先に進むと突如、開けた広い空間に出た。
 ライトの魔法で周囲を照らすと、その空間は天井が三階建てのビルほどの高さであり、その広さは小さなグラウンドがスッポリと入るくらいの広さであった。
 部屋の最奥には、何やら石のようなものが乗った台座がある。あれがダンジョンコアだろうか?
 慎重に前進すると俺達が部屋の中央付近にさしかかったところで、そいつは地面から、ゴゴゴ、という音を立てながら現れた。
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