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それでも私は

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「はいそこまで」

 ガツンと俺の頭は硬い扇子の角で叩かれた。まじで痛い。

「全く、レオンハルトはどうしてそう、毎度、毎度、モニカさんをからかうのですか。そのようなことをしていたら、いつかモニカさんに捨てられますわよ」
「お母様! お言葉ですが、私達はお互いの愛を確かめ合おうとしていただけですよ!」
「またそんなことを言って。チューするなら自分の部屋でしなさいといつも言っているでしょうが!」

 ガツンとまた扇子の角で叩かれた。まじで痛い。

「モニカさんも、レオンハルトに唆されてはいけませんよ。この子は己の欲望に忠実なのですから、貴女がしっかりと止めなければなりませんよ。モニカさんというストッパーが隣にいるからこそ、この国の未来の繁栄が約束されるのですから」

 お母様の言い方はアレだが、なかなか良いことを言ってくれたぞ。
 モニカが未来の王妃として決定していることが、今、王妃殿下の口からハッキリと言われたのだから。
 俺の隣にモニカがいなければならないと。
 それに気がついたであろうモニカは、耳まで真っ赤にして下を向いた。
 ヤバい、可愛すぎる。こんなモニカを他の誰にも見せたくない。
 俺は他のからの視線から隠すように、モニカの前に出た。

「お母様の言い分は良く分かりました。今後は善処すると約束しましょう」
「そう。分かってくれたのならいいのよ。モニカさんの評判もいいし、お母様は大変満足しているわ。ねぇ、モニカさん?」
「はい、お義母様」

 モニカの返事を聞いた王妃様は満足そうにその場を去って行った。
 その時俺は気がついた。お母様がモニカの外堀を埋めに来てくれたのだということを。
 ありがてぇ、ありがてぇ!


 ****


 あああ、なんでこんなことに! 完全に王妃様公認になってしまったじゃない! これじゃ婚約解消になってしまったら、国に大きな醜聞を与えてしまうわ。
 どうしてこうなった!?
 レオ様よ、レオ様がいけないんだわ! 全てレオ様のせいよ!
 公爵家の自室に戻った私は、ソファーにあるクッションをバンバンしながら、今さらどうしようもなくなったことを誰かのせいにしようとしていた。

「落ち着いて下さい、モニカお嬢様。そのようにバンバンとクッションを叩きますと埃が舞って、お体に悪いですわ」

 サラの助言でようやくバンバンするのをやめた。

「サラ、私はどうしたら良いのでしょうか?」
「今からレオンハルトを消してきましょうか?」
「ちょっとお待ちになって! そうではありませんわ。レオ様を消してはなりません! それからレオ様の名前はちゃんと敬称をつけて呼んで下さいませ!」

 危ない危ない! サラなら本当にやりかねないわ。どうして私なんかにメイドとしてGM(ゲームマスター)がついているのよ。そういえばこれもレオ様が……。
 謀りましたわねレオ様ー!
 肩ではぁはぁと息をしていると、サラがお茶を淹れてくれた。本当に良く気がつくメイドだ。お陰で我が家でも「サラがいるなら大丈夫」と太鼓判を押されるくらいだ。本当にパーフェクトヒューマンだ。GMだけど。

「あれだけ望まれているのですから、レオンハルト様と結ばれればいいではないですか。どう見ても、あの方はモニカお嬢様しか見えておりませんよ」
「ううう、それはそうですけれど……」
「破滅フラグもこれだけ折られているのですよ? 今さら悪役令嬢路線に戻すのは無理ですわ」
「うわあぁぁん! 気にしないようにしてたのに、サラがハッキリと言ったー!」
「はぁ、どうしてそんなにモニカお嬢様はレオンハルト様との婚約解消を望まれるのですか?」
「私がレオ様の隣に立つと、この国が滅びますのよ? それだけは絶対に阻止せねばなりませんわ」

 ズビズビと鼻をすすっていると、私の鼻をチーンしてくれたサラが、自分の見解を告げた。

「お言葉ですがモニカお嬢様、このゲームはすでに原形を留めておりませんわ。私にはとてもそのようなことが起こるとは考えられませんわ」
「ううう、それでもその可能性を捨てきれませんのよ」
「本当にモニカお嬢様は強情ですわね。好きな男に抱かれたいなら抱かれたいと、素直に言えばいいのに」
「ちょっとサラ、まだそこまでは言っておりませんわ!」

 冗談なのか、本気なのか分からないサラに、とりあえずレオ様の前では余計なことを言わないように釘を刺しておいた。
 そんなことを考えていることがレオ様に知られてしまうだなんて、とんでもない!
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