僕のラブドール

よるひら

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第2話 欲情と再会

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「何かお探しですか~?」
女性店員が営業スマイルを貼り付けて近づいてきた。僕はビクッとして、「い、いえ!す、すみません。」と挙動不審に返した。
レディースの服屋になんて初めて入ったが、男の僕には大変居心地が悪い。
僕は一旦店を出て植木に座りこんだ。

夏実のコピー人形をダンボールから出したはいいが、裸のそれを床に寝かせておくのが非常に落ち着かなかった。
せめて服を着せようと思ったが、夏実の所有していたものは全部夏実の両親が処分してしまったので、僕は休暇を使って買い出しに出ているわけだ。
下着は店に入る前に断念した。そこまでの度胸は僕にはない。服屋でさえこの始末だ。
「女性に服をプレゼントしている男はすごいな…。尊敬するよ。」
僕は独り言と共にため息をつき、重い腰を上げ再び服屋に入った。

やっとの思いで買った花柄のワンピースを早速夏実に着せた。やはり夏実は水色がよく似合う。ついでに買った青のリボンバレッタもつけてやった。心做しか人形が少し微笑んでいる気がする。
僕は服のタグを捨てようと立ち上がりかけて、バランスを崩し、人形ごと床に倒れこんでしまった。
「…いって…。」
ハッと気がつくと、僕は人形に覆いかぶさっていた。胸部にふにゃりと柔らかい感触が当たり、急速に鼓動が早くなった。
僕は興奮を抑えきれず、ゆっくりその唇にキスをした。
唇まで彼女そっくりに柔らかくて、小さくて、僕はいつの間にか夢中で何度も人形にキスしていた。
息が荒くなっているのが自分でも分かる。僕は我慢できずにスカートの中に右手を入れかけた。
が、着信音が鳴り、我に返った。慌てて机の上から携帯をとった。
「は、はい。奈良坂です。」
裏返る声で電話に出ると、がやがやした雑音と共に上機嫌な声が聞こえてきた。
「あ、冬雪くん?お久しぶり~!てか、覚えてる?私のこと。」
僕は一瞬誰か分からなかったが、口調で思い出した。
「…もしかして美春さん?」
「正解!すごい!もう1年も連絡とってなかったのに。」
「そりゃあ覚えてますよ。」
美春は今の会社の元先輩だ。仕事は早い上に愛想も良く、そこそこ美人だったため会社では大変人気者だった。
僕の教育係をしていたが、一昨年東京に転勤して以来音沙汰なしだった。
「ところでどうしたんですか?なぜ僕に電話を?」
僕が聞くと、美春はぷっと吹き出し笑った。
「ふふっごめん。実は来月からまたそっちに戻ることになったから、可愛い後輩くんに挨拶しとこうと思ってね。」
「えっ!美春さんこっち戻ってくるんですか!?わあ、また一緒に仕事できるんですね!」
僕が心底嬉しそうにすると、美春はまた笑った。
「そんなに喜んでくれるのは冬雪君くらいだよ。ありがとう。あ、そうそう!今週末に部屋探ししにそっち行くんだけど、よかったら久しぶりにご飯でもどう?」
「今週末ですか!ええ大丈夫です。是非。」
「お、やったね。じゃあまた連絡する。またね。」
美春が電話を切ると同時に、深く息を吐いた。美春はずっと僕のヒーローみたいなもので、そんな人とまた仕事ができるのが楽しみで仕方なかった。さらにご飯に行けるだなんて…。
「ん?あれ?二人きりなのか…?」
いやそんなはずないだろう。美春は会社でも人気者だったし、飲み会みたいな感じになんだろうな。僕は一瞬うぬぼれた自分にちょっと呆れた。

「冬雪くん!こっち!久しぶり~!」
窓際のテーブル席から美春がこちらに手を振っていた。
本当に二人きりだったことに少し驚いたが、純粋に嬉しかった。
「お久しぶりです!すみませんお待たせして。」
「ううん。私も今来たとこ。変わんないね。 」
美春はお冷を一口飲んでいたずらに微笑んだ。
「美春さんは髪切って染めましたね。似合ってますよ。」
僕は微笑見返しながら向かいの椅子に座った。美春はメニューを開きながら、ありがとう。と言った。
美春は洋食ランチ、僕は和食ランチを注文し、美春の東京暮らしの話や、僕の会社での話などした。数分して、僕と美春のランチが来た。
「そういえば、冬雪くん結婚したんだってね。おめでとう。」
美春がハンバーグを切りながら言った。
「…ええ。でも先日事故で亡くなって、葬式あげたばかりで…。」
僕は口に運びかけた焼き鯖を浮かせたまま呟くように返した。美春はひとつ間をおいて、「そう。」と落ち着いた声で言った。
二人の間に少し沈黙ができた。フォークが皿をかすめる音だけがその沈黙を埋めた。
最初に口を開いたのは僕だ。
「だからと言ってはなんなんですが、こうやって美春さんと食事できてよかったです。いい気分転換になりました。」
美春は少し目を丸くして、うつむいた。
「ありがとう。ごめんなさい。何も知らなくて…。」
そしてその後特に何を話すでもなく解散した。ただ最後に美春は「困ったことがあったら何でも協力するからね。」とだけ残した。
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