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第三章
違う世界
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「まず、私にユージン陛下と接触した記憶はありません。私は、シーくんに再会してこの学校に来るまでガラク村から出たことはないし、会う機会もなかった……と思う。」
「随分と歯切れが悪いな。」
思いっきり泣いた後、ルイス様が入れてくれた紅茶を飲んで落ち着いた私は、何から話すべきか考えながら言葉を選んで話していく。それでも、不確定なことが多すぎるし、本当にこんな話を信じてもらえるのかという不安から、言葉に詰まってしまう。
「……それなんだけどね、ルナ・ハリスとしてユージン陛下に会ったことはない。それは自信を持って言えるんだけど……もうひとつの可能性が、捨て切れないの。」
「もうひとつの可能性?」
誰にも言ったことのない、私にとって大切な記憶。今の私を構成する中でとても大切で、きっとこの記憶がなければ、良くも悪くも私はこの世界の常識に上手く対応して生きていたのだと思う。でもそうなれば、シーくんとこうして話すこともなかったし、学校に通うこともなかった。お母さんの病気だって、どうなっていたかは分からない。
そんな理不尽をただ受け入れるだけの……いや、理不尽を理不尽とも思わない、ある意味物分かりの良い、いい子な私だっただろう。そっちの方が、いろんな人に迷惑をかけることもなかったかもしれない。……でもそれは、私ではないから。
「シーくんは、魔法の存在しない……もうひとつの世界があるって言ったら、信じてくれますか?」
声が、震えていたかもしれない。これが、この話をする上での根幹となる。これを信じてくれなければ、私は何も話すことができなくなってしまう。
……信じてもらえなかったらどうしよう。
そんな不安を抱えながらシーくんの方を見ると、全く表情を変えないままこちらを見ていた。
「ああ。こことは違う世界が存在していることは理解している。」
「………え?」
「そうか、そこには魔法がないのか……どうやって生活しているのか疑問だが……平民のお前がそれを知っているとなると、その世界とのつながりがあるということか。それならば、今までの疑問が解決するな。」
「え……ま、まって!!そんなあっさり……っていうか、知ってたの!?」
予想外の反応に、私は一瞬言葉を失ってしまった。私が思考停止状態になっている間も、シーくんは自分の中で何かが腑に落ちたように思考を進めている。ちょっと待って欲しい。こっちが全くついていけなくなっている。
「神クロス様は世界の全て司る神だ。その支配力は、ひとつの世界に留まらない。平民や下位貴族の間ではあまり知られていないが、他にも神クロス様が支配されている世界があり、そこで同じように生活するものがいることは知っている。それがどんな世界なのか、人間である俺たちに知る術はないがな。」
「……へぇ、なんというか……すごいね……」
こともなげにそう言って、優雅に紅茶を飲むシーくんと、頷きながら紅茶のおかわりを用意しているルイス様を呆然と見ながら、私はそれしか言えなかった。
「他の世界が関わっているとなると……今まで疑問だった事のいくつかが、説明出来るようになるな。」
「疑問だったことって……?」
信じてもらえるかどうか、を心配していたはずなのに、今では私が話についていくのに必死だ。
「まずはルナ、お前の存在だ。」
「私?」
「ああ。ごく普通の、何の変哲もない村の、出自に特別なこともない平凡な夫婦から生まれたはずなのに、お前はこの世界の常識を全くといっていいほど受け入れていないだろう。ガラク村という閉鎖された世界しか知らないはずなのに、お前はいつも俺すら知らないようなことをまるでそれが普通かのように話すことがある。」
「………」
確かに、言葉にされると明らかにおかしい。でも、今まで上手くやっていた……気もするから、少しの変化に気がつくシーくんが凄いんだと思う。
「それにお前は時々……ここにいるのに、どこか遠くにいるような錯覚に陥ることがある。」
「……!!」
(『瑠奈はたまに、本当に同じ場所に立っているのか信じられなくなることがあるんだ。』)
「それは……昔、違う人にも言われたことがある。」
「……そうか。」
「でも、その時は私はまだひとつの世界しか知らなかったの。だからシーくんが感じているそれは、もしかしたら前の私の時からのものなのかもしれない。」
「……その時?……前のルナ?」
ここにきて、初めて困惑の表情を見せたシーくんに、私は深呼吸をする。さっきの他の世界の話をした時にはそんな顔をしなかった。ということは、これから聞く話こそ、信じてもらえるかどうか分からないということだ。でも、信じてもらえなければ、その先の話をすることはできない。
それに何より……シーくんに否定されたら、私自身を否定されたような気持ちになってしまう。
信じて欲しい。そんな思いを込めてシーくんを真っ直ぐ見つめる。もう一度深呼吸をしてから、私は口を開いた。
「私は、ルナ・ハリスとして生まれる前……違う世界で生きていた記憶があるの。」
その言葉に、シーくんは目を見開いた。
「随分と歯切れが悪いな。」
思いっきり泣いた後、ルイス様が入れてくれた紅茶を飲んで落ち着いた私は、何から話すべきか考えながら言葉を選んで話していく。それでも、不確定なことが多すぎるし、本当にこんな話を信じてもらえるのかという不安から、言葉に詰まってしまう。
「……それなんだけどね、ルナ・ハリスとしてユージン陛下に会ったことはない。それは自信を持って言えるんだけど……もうひとつの可能性が、捨て切れないの。」
「もうひとつの可能性?」
誰にも言ったことのない、私にとって大切な記憶。今の私を構成する中でとても大切で、きっとこの記憶がなければ、良くも悪くも私はこの世界の常識に上手く対応して生きていたのだと思う。でもそうなれば、シーくんとこうして話すこともなかったし、学校に通うこともなかった。お母さんの病気だって、どうなっていたかは分からない。
そんな理不尽をただ受け入れるだけの……いや、理不尽を理不尽とも思わない、ある意味物分かりの良い、いい子な私だっただろう。そっちの方が、いろんな人に迷惑をかけることもなかったかもしれない。……でもそれは、私ではないから。
「シーくんは、魔法の存在しない……もうひとつの世界があるって言ったら、信じてくれますか?」
声が、震えていたかもしれない。これが、この話をする上での根幹となる。これを信じてくれなければ、私は何も話すことができなくなってしまう。
……信じてもらえなかったらどうしよう。
そんな不安を抱えながらシーくんの方を見ると、全く表情を変えないままこちらを見ていた。
「ああ。こことは違う世界が存在していることは理解している。」
「………え?」
「そうか、そこには魔法がないのか……どうやって生活しているのか疑問だが……平民のお前がそれを知っているとなると、その世界とのつながりがあるということか。それならば、今までの疑問が解決するな。」
「え……ま、まって!!そんなあっさり……っていうか、知ってたの!?」
予想外の反応に、私は一瞬言葉を失ってしまった。私が思考停止状態になっている間も、シーくんは自分の中で何かが腑に落ちたように思考を進めている。ちょっと待って欲しい。こっちが全くついていけなくなっている。
「神クロス様は世界の全て司る神だ。その支配力は、ひとつの世界に留まらない。平民や下位貴族の間ではあまり知られていないが、他にも神クロス様が支配されている世界があり、そこで同じように生活するものがいることは知っている。それがどんな世界なのか、人間である俺たちに知る術はないがな。」
「……へぇ、なんというか……すごいね……」
こともなげにそう言って、優雅に紅茶を飲むシーくんと、頷きながら紅茶のおかわりを用意しているルイス様を呆然と見ながら、私はそれしか言えなかった。
「他の世界が関わっているとなると……今まで疑問だった事のいくつかが、説明出来るようになるな。」
「疑問だったことって……?」
信じてもらえるかどうか、を心配していたはずなのに、今では私が話についていくのに必死だ。
「まずはルナ、お前の存在だ。」
「私?」
「ああ。ごく普通の、何の変哲もない村の、出自に特別なこともない平凡な夫婦から生まれたはずなのに、お前はこの世界の常識を全くといっていいほど受け入れていないだろう。ガラク村という閉鎖された世界しか知らないはずなのに、お前はいつも俺すら知らないようなことをまるでそれが普通かのように話すことがある。」
「………」
確かに、言葉にされると明らかにおかしい。でも、今まで上手くやっていた……気もするから、少しの変化に気がつくシーくんが凄いんだと思う。
「それにお前は時々……ここにいるのに、どこか遠くにいるような錯覚に陥ることがある。」
「……!!」
(『瑠奈はたまに、本当に同じ場所に立っているのか信じられなくなることがあるんだ。』)
「それは……昔、違う人にも言われたことがある。」
「……そうか。」
「でも、その時は私はまだひとつの世界しか知らなかったの。だからシーくんが感じているそれは、もしかしたら前の私の時からのものなのかもしれない。」
「……その時?……前のルナ?」
ここにきて、初めて困惑の表情を見せたシーくんに、私は深呼吸をする。さっきの他の世界の話をした時にはそんな顔をしなかった。ということは、これから聞く話こそ、信じてもらえるかどうか分からないということだ。でも、信じてもらえなければ、その先の話をすることはできない。
それに何より……シーくんに否定されたら、私自身を否定されたような気持ちになってしまう。
信じて欲しい。そんな思いを込めてシーくんを真っ直ぐ見つめる。もう一度深呼吸をしてから、私は口を開いた。
「私は、ルナ・ハリスとして生まれる前……違う世界で生きていた記憶があるの。」
その言葉に、シーくんは目を見開いた。
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