30 / 68
第二章
寮の部屋で
しおりを挟む
「ただいま……」
ようやく授業を終えて、寮の部屋に戻ってきた。ただいまを言うのは前世からの癖なので、誰もいないと分かっていてもつい言ってしまう。当然返事は帰ってこない……
「おかえり。」
「……ん?」
……はずだったのに、なぜか返事が返ってきた。
びっくりして部屋の中を見ると、何故かシーくんがいた。しかも、人の部屋のイスに優雅に座り、お茶を飲んでいる。
……うん、絵になる。でも、何この状況。その高そうな茶器どっから持ってきたの。
「え、なんで私の部屋にいるの?女子寮って男の子入れないでしょ?」
たしか、女子寮の入り口には結界魔法がかかっていて、部外者と男子は誰であろうと入れないようになっている、と説明された。男子寮にも、同様の魔法がかかっていると聞いたし、家族でも入れない強固な結界魔法だって聞いたけど……
「出入りするのに決まったルートなんて必要ない。」
「ん???」
どういうことなのか分からず、はてなが浮かぶ。全く答えになってないのに、質問には答えた、と言わんばかりの態度のシーくんに、私は再度質問する。
「他に抜け道でもあるの?それとも王太子権限で顔パス?」
「違う。」
とりあえず思いつく限りの出入り方法を言ってみたけど、ひとことでばっさり切られた。
……というかそもそも、寮に入れたとしても部屋には鍵がかかっている。
「え、じゃあどうやって入ってきたの?」
「魔法だ。一瞬で移動できる。」
「ああ、なるほど!すごいね、魔法って!」
前世では、遅刻しそうになったり疲れている時、何度も瞬間移動したいって思ってた。実現しなかった夢のひとつを、目の前の人が実現したんだと思うと胸が躍る。
しかし、よく考えると胸躍らせてる場合ではない。私は今不法侵入されている。相手がシーくんだったからよかったものの、他の人だったら通報案件だ。あ、でも相手が貴族だった場合泣き寝入りで終わるんだろうな、この世界の場合。いや、そんな時こそシーくんの出番……いや、そのシーくんが不法侵入してるんだった。
「……え、まって、それじゃあ結界魔法とか鍵とか意味ないよね。」
魔法で自由に行き来できるなら、結果とか鍵とか何の意味もない。不法侵入し放題、無法地帯になってしまう。そんな不安な気持ちでシーくんを見ると、何を言ってるんだ、と言わんばかりの呆れた顔で私を見た。
……それさ、完璧な王太子になってまで手に入れたいと思ってる女の子に対して向ける顔じゃないよ。
「ここの結界は強固なものだ。普通ならそれを破って侵入はできない。ここの鍵も魔法耐性が付与されているから、普通は侵入できない。」
「……ということは?」
「俺が優秀なだけだ。」
……なるほど。
すごいことなんだろうけど、自信満々に言うわけではなく、淡々と言われると、反応に困る。
とりあえず分かったことは、シーくん以外に不法侵入される恐れはないことと、この世界の普通の基準をシーくんにしちゃいけないということだ。
「それで、魔法使ってまで何しにきたの?しかも、お茶まで持参して……。」
「お茶だけじゃない。お菓子もあるぞ。」
「え!?お菓子!?」
シーくんが腕を振ると、魔法具が光って、次の瞬間テーブルの上に美味しそうなお菓子が並んだ。今世はじめての光景に、思わずテーブルに駆け寄る。うわぁ、美味しそう……夢にまで見た甘いお菓子……。
「とりあえず座れ。そして食べろ。」
「うん!ありがとう!」
クッキーをひとくちかじる。甘い砂糖の味が口いっぱいに広がって、自然に笑みが溢れる。
「美味しい……!」
「……そうか。もっと食べろ。」
「うん!」
村では満足に食べることができなかったから、胃が小さくなってしまって学食のご飯もいつも残してしまっていたけど、お菓子はいくらでも食べられる気がする。甘いものは別腹っていうのは、本当だったんだ!
幸せいっぱいになりながらお菓子を食べている私とは対照的に、シーくんは全くお菓子を食べていない。食べないのかな?と疑問に思い、シーくんを見ると……とても優しい眼差しで私を見ていた。
え、まって、ちょっとその顔は待って。なんか、かっこいいとか顔がいいとかはいつも思ってるけど、なんか、その顔はだめだ。
なんとなく、この空気に耐えられなくなった私は、何か話題を振ってその顔をやめさせなければ、と必死に話題を探す。
……あ!そういえば、結局この人何しに来たんだろう?わざわざ自分にしか使えないような高度な魔法使ってお茶しに来たの?……シーくんならありえそうだけれども。
「……ところで、何しに来たの?」
お茶しに来た、とか暇だった、とかそんな答えが返ってくると思ってたのに、シーくんは私がクッキーを持っているのと反対の手を握った。
え、なにこれ?
「……ただ、ルナに会いに来ただけだ。」
さっき見たよりも綺麗な微笑みを至近距離で、しかも手を握られながら言われた私は、思わず手に持っていたクッキーを落とした。顔が赤くなっていくのが分かる。
シーくんは、赤くなった私を見て満足そうに笑った後、何事もなかったかのようにお茶を飲み出した。
………やられた。っていうか、シーくんに照れとか恥じらいとかいう感情は存在しないのだろうか。
ようやく授業を終えて、寮の部屋に戻ってきた。ただいまを言うのは前世からの癖なので、誰もいないと分かっていてもつい言ってしまう。当然返事は帰ってこない……
「おかえり。」
「……ん?」
……はずだったのに、なぜか返事が返ってきた。
びっくりして部屋の中を見ると、何故かシーくんがいた。しかも、人の部屋のイスに優雅に座り、お茶を飲んでいる。
……うん、絵になる。でも、何この状況。その高そうな茶器どっから持ってきたの。
「え、なんで私の部屋にいるの?女子寮って男の子入れないでしょ?」
たしか、女子寮の入り口には結界魔法がかかっていて、部外者と男子は誰であろうと入れないようになっている、と説明された。男子寮にも、同様の魔法がかかっていると聞いたし、家族でも入れない強固な結界魔法だって聞いたけど……
「出入りするのに決まったルートなんて必要ない。」
「ん???」
どういうことなのか分からず、はてなが浮かぶ。全く答えになってないのに、質問には答えた、と言わんばかりの態度のシーくんに、私は再度質問する。
「他に抜け道でもあるの?それとも王太子権限で顔パス?」
「違う。」
とりあえず思いつく限りの出入り方法を言ってみたけど、ひとことでばっさり切られた。
……というかそもそも、寮に入れたとしても部屋には鍵がかかっている。
「え、じゃあどうやって入ってきたの?」
「魔法だ。一瞬で移動できる。」
「ああ、なるほど!すごいね、魔法って!」
前世では、遅刻しそうになったり疲れている時、何度も瞬間移動したいって思ってた。実現しなかった夢のひとつを、目の前の人が実現したんだと思うと胸が躍る。
しかし、よく考えると胸躍らせてる場合ではない。私は今不法侵入されている。相手がシーくんだったからよかったものの、他の人だったら通報案件だ。あ、でも相手が貴族だった場合泣き寝入りで終わるんだろうな、この世界の場合。いや、そんな時こそシーくんの出番……いや、そのシーくんが不法侵入してるんだった。
「……え、まって、それじゃあ結界魔法とか鍵とか意味ないよね。」
魔法で自由に行き来できるなら、結果とか鍵とか何の意味もない。不法侵入し放題、無法地帯になってしまう。そんな不安な気持ちでシーくんを見ると、何を言ってるんだ、と言わんばかりの呆れた顔で私を見た。
……それさ、完璧な王太子になってまで手に入れたいと思ってる女の子に対して向ける顔じゃないよ。
「ここの結界は強固なものだ。普通ならそれを破って侵入はできない。ここの鍵も魔法耐性が付与されているから、普通は侵入できない。」
「……ということは?」
「俺が優秀なだけだ。」
……なるほど。
すごいことなんだろうけど、自信満々に言うわけではなく、淡々と言われると、反応に困る。
とりあえず分かったことは、シーくん以外に不法侵入される恐れはないことと、この世界の普通の基準をシーくんにしちゃいけないということだ。
「それで、魔法使ってまで何しにきたの?しかも、お茶まで持参して……。」
「お茶だけじゃない。お菓子もあるぞ。」
「え!?お菓子!?」
シーくんが腕を振ると、魔法具が光って、次の瞬間テーブルの上に美味しそうなお菓子が並んだ。今世はじめての光景に、思わずテーブルに駆け寄る。うわぁ、美味しそう……夢にまで見た甘いお菓子……。
「とりあえず座れ。そして食べろ。」
「うん!ありがとう!」
クッキーをひとくちかじる。甘い砂糖の味が口いっぱいに広がって、自然に笑みが溢れる。
「美味しい……!」
「……そうか。もっと食べろ。」
「うん!」
村では満足に食べることができなかったから、胃が小さくなってしまって学食のご飯もいつも残してしまっていたけど、お菓子はいくらでも食べられる気がする。甘いものは別腹っていうのは、本当だったんだ!
幸せいっぱいになりながらお菓子を食べている私とは対照的に、シーくんは全くお菓子を食べていない。食べないのかな?と疑問に思い、シーくんを見ると……とても優しい眼差しで私を見ていた。
え、まって、ちょっとその顔は待って。なんか、かっこいいとか顔がいいとかはいつも思ってるけど、なんか、その顔はだめだ。
なんとなく、この空気に耐えられなくなった私は、何か話題を振ってその顔をやめさせなければ、と必死に話題を探す。
……あ!そういえば、結局この人何しに来たんだろう?わざわざ自分にしか使えないような高度な魔法使ってお茶しに来たの?……シーくんならありえそうだけれども。
「……ところで、何しに来たの?」
お茶しに来た、とか暇だった、とかそんな答えが返ってくると思ってたのに、シーくんは私がクッキーを持っているのと反対の手を握った。
え、なにこれ?
「……ただ、ルナに会いに来ただけだ。」
さっき見たよりも綺麗な微笑みを至近距離で、しかも手を握られながら言われた私は、思わず手に持っていたクッキーを落とした。顔が赤くなっていくのが分かる。
シーくんは、赤くなった私を見て満足そうに笑った後、何事もなかったかのようにお茶を飲み出した。
………やられた。っていうか、シーくんに照れとか恥じらいとかいう感情は存在しないのだろうか。
0
お気に入りに追加
564
あなたにおすすめの小説
不死の大日本帝國軍人よ、異世界にて一層奮励努力せよ
焼飯学生
ファンタジー
1945年。フィリピンにて、大日本帝国軍人八雲 勇一は、連合軍との絶望的な戦いに挑み、力尽きた。
そんな勇一を気に入った異世界の創造神ライラーは、勇一助け自身の世界に転移させることに。
だが、軍人として華々しく命を散らし、先に行ってしまった戦友達と会いたかった勇一は、その提案をきっぱりと断った。
勇一に自身の提案を断られたことに腹が立ったライラーは、勇一に不死の呪いをかけた後、そのまま強制的に異世界へ飛ばしてしまった。
異世界に強制転移させられてしまった勇一は、元の世界に戻るべく、異世界にて一層奮励努力する。
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!
蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」
「「……は?」」
どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。
しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。
前世での最期の記憶から、男性が苦手。
初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。
リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。
当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。
おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……?
攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。
ファンタジー要素も多めです。
※なろう様にも掲載中
※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。
記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される
マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。
そこで木の影で眠る幼女を見つけた。
自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。
実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。
・初のファンタジー物です
・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います
・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯
どうか温かく見守ってください♪
☆感謝☆
HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯
そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。
本当にありがとうございます!
異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ
トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!?
自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。
果たして雅は独りで生きていけるのか!?
実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる