7 / 68
第一章
本の力
しおりを挟む
私を山奥の小屋に連れて行く道すがらでなら、話をしてくれると言ったお父さんに渋々従い、私は奴隷制度のことを聞いた。
そして、どうして村長さんやお母さんが、ピアスを見た途端にあんな反応をしたのかを理解した。
山奥の光もろくに入らない小屋の中で奴隷制度について考えた結果……私が最初に感じたのは怒りの感情だった。
自分勝手に奴隷制度を始めたくせに、勝手に魔法を使えない人間にして、戦場に立たせて、挙げ句の果てには使えないと手のひらを返した奴隷の買い手にも、何番目に生まれようが自分の子供なのに、簡単に売ろうとする親にも。
そして何より……そんな中なにもせず、されるがままになっていた奴隷の人たちと、そうせざるを得ない状況をつくったこの国に。
6歳以前に売られたということは、それが彼らにとっての普通だったのかもしれないけど、始まりも終わりも、全て当事者である自分たちが関与しないまま決められてしまった。
そんなのって、ないと思う。
叶えられるかどうかは別にしても、誰にだって自分の生き方を選ぶ権利はあるはずなのに、それが出来ないなんて……この国で、私が求める普通の暮らしをするのは、考えている以上に難しいのかもしれない。
「ていうか!普通の生活を望んだはずなのに余計普通から離れてるのはなんで!?」
そうだ!私は前世で普通だったことを普通に出来る世界を望んだはずなのに、なんか軟禁されてんだけど!
状況が悪化してるのはなんで!?
クロスとかいう神はとんだ無能だよ!
「あーあ、こんなとこ暇で暇でしょうがない。まだ、村にいた頃はすることあったからよかったけど……」
今はとにかく暇だ。
前世ではこんな時、ネットサーフィンをしたり、大好きなアイドルの動画を見たりして有意義な時間を過ごしていたのに、ここにはスマホがない。
アイドル……そう、前世の私はアルバイト代の全てをアイドルに貢いでいた。
アイドルはいい……男性アイドルも女性アイドルも、どっちも好きだ。
そうしてアイドルを追い続けた結果、私はかなりの面食いになり、前世では一度も彼氏が出来ないまま終わった。
もう終わったことだから、それはいい。
問題はこの村……そうだ、ガラク村。
この世界で音楽というのは上流階級の人の嗜みで、庶民には広まっていないらしく、村の人は国歌ぐらいしか知らなかった。
一度だけ、上流階級の人が集まる社交場で働いてきた村の人が、初めて国家以外の音楽というものを知って衝撃を受けた話は聞いたことがあるので、音楽は存在するらしい。
ただ、話を聞く限りでは、上流階級が好むような優雅なものしか存在していないようだった。
前世のアイドルソングを歌いながら畑仕事をしていたら全員から凄い目で見られたことがあったので、アップテンポな曲は受け入れ難いのかもしれない。
とても不服である。
そして、ガラク村の人たちは、かなり痩せてはいるがごくごく普通の容姿をしている。
私の両親も普通だ。
ということは、その2人から生まれた私も、可もなく不可もない容姿。
さらに、私は生まれてから一度もこの村から出たことがない……つまり、わかるよね?
私はアイドルに飢えている!
村にいた時は毎日家事や畑仕事に追われてそれどころじゃなかったけど、皮肉にもこうして自由な時間が増えてから、私の思考は前世で大好きだったアイドルで埋め尽くされた。
軟禁されて奴隷とか重い話されたせいで、私は癒しを強く求めている!
このままじゃ気が滅入っておかしくなる!
「アイドルが見たい……かっこいい子とかわいい子が見たい……歌が聴きたい……癒しがほしい……」
そう、前世でも試験前やバイトが連勤だった時など辛い時こそアイドルを見ていた。アイドルが努力して、キラキラ輝く姿を見て元気をもらったし、その歌の歌詞に何度も励まされた。
「お願いだから、私にアイドルを見せてっ!!」
そんな切実な願いは虚しく空に消えていく……とおもいきや、キラキラと穏やかな光が私の目の前で形を作っていく。
その光に向かって手を伸ばした瞬間、私の目の前に現れたのは大きな本だった。分厚くて重そうなのに、不思議と軽い。
そして、私は開かれた本に写っているものに釘付けになった。
「こっ…これは!前世でいつも見ていた動画サイト!!」
前世でも最大手の動画サイトで、沢山のアイドルたちがPVやライブ映像、オフショットなんかをあげていたから私はお気に入り登録をしまくっていた。アカウントこそ無くなってしまっているようだったが、これはたしかに動画サイト……!
「え?まって、どういう仕組み?」
とりあえずスマホを操作する感じで本に触ってみたけど動かない。
「どうすれば動くのかな……?私、とりあえずライブ映像が見たいんだけど……あっ、再生した!」
なるほど、どうやら私の声に反応して動いているらしい……って、そんなことはもうどうでもいい。
「動いてる……やばい……歌ってる……踊ってる……笑ってる……生きてる……」
やばい、涙が出てきた。
しかも、この動画サイトは最新のものらしく、私が(多分)死んだ後のライブ映像だった。
あの時は加入したばかりでとにかく母性本能をくすぐりまくってたあの子が、すっかり色気を纏った大人なレディに成長していてさらに泣いた。
……なんで私は、この子の成長をリアルタイムで追うことが出来なかったんだ……。
この後も、私はとにかく動画サイトでアイドルの動画を見まくり、ついでに新しいアイドルまで開拓した後、この本が動画サイトだけじゃなくてインターネット全部に繋がっていることに気がつき、読めなかった分のアイドルたちのブログを読みあさった。
とにかく涙が止まらなかった。
無能とか言ってごめん、クロス様。
あなたはまごうことなき神でした。
そして、どうして村長さんやお母さんが、ピアスを見た途端にあんな反応をしたのかを理解した。
山奥の光もろくに入らない小屋の中で奴隷制度について考えた結果……私が最初に感じたのは怒りの感情だった。
自分勝手に奴隷制度を始めたくせに、勝手に魔法を使えない人間にして、戦場に立たせて、挙げ句の果てには使えないと手のひらを返した奴隷の買い手にも、何番目に生まれようが自分の子供なのに、簡単に売ろうとする親にも。
そして何より……そんな中なにもせず、されるがままになっていた奴隷の人たちと、そうせざるを得ない状況をつくったこの国に。
6歳以前に売られたということは、それが彼らにとっての普通だったのかもしれないけど、始まりも終わりも、全て当事者である自分たちが関与しないまま決められてしまった。
そんなのって、ないと思う。
叶えられるかどうかは別にしても、誰にだって自分の生き方を選ぶ権利はあるはずなのに、それが出来ないなんて……この国で、私が求める普通の暮らしをするのは、考えている以上に難しいのかもしれない。
「ていうか!普通の生活を望んだはずなのに余計普通から離れてるのはなんで!?」
そうだ!私は前世で普通だったことを普通に出来る世界を望んだはずなのに、なんか軟禁されてんだけど!
状況が悪化してるのはなんで!?
クロスとかいう神はとんだ無能だよ!
「あーあ、こんなとこ暇で暇でしょうがない。まだ、村にいた頃はすることあったからよかったけど……」
今はとにかく暇だ。
前世ではこんな時、ネットサーフィンをしたり、大好きなアイドルの動画を見たりして有意義な時間を過ごしていたのに、ここにはスマホがない。
アイドル……そう、前世の私はアルバイト代の全てをアイドルに貢いでいた。
アイドルはいい……男性アイドルも女性アイドルも、どっちも好きだ。
そうしてアイドルを追い続けた結果、私はかなりの面食いになり、前世では一度も彼氏が出来ないまま終わった。
もう終わったことだから、それはいい。
問題はこの村……そうだ、ガラク村。
この世界で音楽というのは上流階級の人の嗜みで、庶民には広まっていないらしく、村の人は国歌ぐらいしか知らなかった。
一度だけ、上流階級の人が集まる社交場で働いてきた村の人が、初めて国家以外の音楽というものを知って衝撃を受けた話は聞いたことがあるので、音楽は存在するらしい。
ただ、話を聞く限りでは、上流階級が好むような優雅なものしか存在していないようだった。
前世のアイドルソングを歌いながら畑仕事をしていたら全員から凄い目で見られたことがあったので、アップテンポな曲は受け入れ難いのかもしれない。
とても不服である。
そして、ガラク村の人たちは、かなり痩せてはいるがごくごく普通の容姿をしている。
私の両親も普通だ。
ということは、その2人から生まれた私も、可もなく不可もない容姿。
さらに、私は生まれてから一度もこの村から出たことがない……つまり、わかるよね?
私はアイドルに飢えている!
村にいた時は毎日家事や畑仕事に追われてそれどころじゃなかったけど、皮肉にもこうして自由な時間が増えてから、私の思考は前世で大好きだったアイドルで埋め尽くされた。
軟禁されて奴隷とか重い話されたせいで、私は癒しを強く求めている!
このままじゃ気が滅入っておかしくなる!
「アイドルが見たい……かっこいい子とかわいい子が見たい……歌が聴きたい……癒しがほしい……」
そう、前世でも試験前やバイトが連勤だった時など辛い時こそアイドルを見ていた。アイドルが努力して、キラキラ輝く姿を見て元気をもらったし、その歌の歌詞に何度も励まされた。
「お願いだから、私にアイドルを見せてっ!!」
そんな切実な願いは虚しく空に消えていく……とおもいきや、キラキラと穏やかな光が私の目の前で形を作っていく。
その光に向かって手を伸ばした瞬間、私の目の前に現れたのは大きな本だった。分厚くて重そうなのに、不思議と軽い。
そして、私は開かれた本に写っているものに釘付けになった。
「こっ…これは!前世でいつも見ていた動画サイト!!」
前世でも最大手の動画サイトで、沢山のアイドルたちがPVやライブ映像、オフショットなんかをあげていたから私はお気に入り登録をしまくっていた。アカウントこそ無くなってしまっているようだったが、これはたしかに動画サイト……!
「え?まって、どういう仕組み?」
とりあえずスマホを操作する感じで本に触ってみたけど動かない。
「どうすれば動くのかな……?私、とりあえずライブ映像が見たいんだけど……あっ、再生した!」
なるほど、どうやら私の声に反応して動いているらしい……って、そんなことはもうどうでもいい。
「動いてる……やばい……歌ってる……踊ってる……笑ってる……生きてる……」
やばい、涙が出てきた。
しかも、この動画サイトは最新のものらしく、私が(多分)死んだ後のライブ映像だった。
あの時は加入したばかりでとにかく母性本能をくすぐりまくってたあの子が、すっかり色気を纏った大人なレディに成長していてさらに泣いた。
……なんで私は、この子の成長をリアルタイムで追うことが出来なかったんだ……。
この後も、私はとにかく動画サイトでアイドルの動画を見まくり、ついでに新しいアイドルまで開拓した後、この本が動画サイトだけじゃなくてインターネット全部に繋がっていることに気がつき、読めなかった分のアイドルたちのブログを読みあさった。
とにかく涙が止まらなかった。
無能とか言ってごめん、クロス様。
あなたはまごうことなき神でした。
0
お気に入りに追加
564
あなたにおすすめの小説
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
不死の大日本帝國軍人よ、異世界にて一層奮励努力せよ
焼飯学生
ファンタジー
1945年。フィリピンにて、大日本帝国軍人八雲 勇一は、連合軍との絶望的な戦いに挑み、力尽きた。
そんな勇一を気に入った異世界の創造神ライラーは、勇一助け自身の世界に転移させることに。
だが、軍人として華々しく命を散らし、先に行ってしまった戦友達と会いたかった勇一は、その提案をきっぱりと断った。
勇一に自身の提案を断られたことに腹が立ったライラーは、勇一に不死の呪いをかけた後、そのまま強制的に異世界へ飛ばしてしまった。
異世界に強制転移させられてしまった勇一は、元の世界に戻るべく、異世界にて一層奮励努力する。
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される
マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。
そこで木の影で眠る幼女を見つけた。
自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。
実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。
・初のファンタジー物です
・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います
・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯
どうか温かく見守ってください♪
☆感謝☆
HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯
そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。
本当にありがとうございます!
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ
トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!?
自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。
果たして雅は独りで生きていけるのか!?
実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
悪妃の愛娘
りーさん
恋愛
私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。
その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。
そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!
いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!
こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。
あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる