CROWNの絆

須藤慎弥

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◇ 分岐点 ◇

⑬-2

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「はぁ?!??!」


 俺は、セナのこんな素っ頓狂な声を聞いたことがなかった。

 その声にケイタと元カノがこちらを向いたようだが、俺は一足早くササッと楽屋の中に戻った。バタンッと扉を閉めたセナも、それどころではなくなっていた。


「も、元カノって……アキラ、それマジ?」
「あぁ、マジ。俺視力いいから」
「…………」


 心の中で少しばかり動揺していた俺より、なぜかセナの方が激しく狼狽えていた。

 〝元〟とはいえ、俺の恋人だった女を下げるような発言をしてたことに冷や汗でもかいてんのかもしんねぇ。

 でもそれはセナが悪いんじゃない。

 俺がこの舞台に出演してると分かってて、神聖な舞台裏をナンパロードにしやがった元カノに完全に非がある。

 ヘアメイクとして呼ばれたのか、先輩とかのツテで自分からのこのこやって来たのか。

 関係を切った俺にはどうでもいい事なんだが、俺の周りに迷惑かけてんのはマジでナイわ。

 実験と称してナンパされに行ったケイタにも声をかけてるってことは、ここで〝結婚相手〟を物色してんのかよ。

 〝アイドル〟はダメで、〝俳優〟ならいいんだもんな。

 ……あぁ、そうだ。完全アウトの非常識な行いだが、言い分と行動の整合性は取れている。


「……アキラ、……」
「なぁセナ。どっちがいいと思う?」
「どっちって?」


 鳥肌もんの肉食系女子が俺の元カノだと知ってから、セナは完全に我に返っていた。

 無表情を装ってるが、人一倍他人の顔色を見て育ってきたセナの事だ。俺がキレてやしないかと、内心はめちゃめちゃ落ち着かなかったに違いない。

 そんなセナに、俺が何とも思ってないことを示したかった。


「俺が嫌いな〝二択〟だ。アイツにガツンと一発言ってやるか、それともシカトするか」
「…………」


 身近な野郎に鞍替えしようとしてる元カノを目の当たりにした俺は、薄情者だと自覚していて良かったと思った。

 セナにこの二択を迫ったのも、俺はマジでどっちでもよかったから。

 彼女の大事な人生の一部を台無しにしてしまったんじゃないかと、それを俺が叶えてやれなくてゴメンと、誰にも言えない〝情〟を抱えていた自分がバカらしくなっていた。


「アキラはどうしたいんだよ」


 いざ迫られると、回答に困る〝二択〟。

 セナは無表情の上に分かりやすい苦笑を乗っけて、俺自身の思いを問うてきた。

 だがここではまだ、俺の心の内は明かさなかった。


「どうしたいって、分かんねぇからセナに聞いてんだろ」
「俺も分かんねぇよ」
「セナだったらどうするか、でいい」
「俺だったら……か」


 決めさせて悪いとは思いつつ、セナに気にしてほしくなかったんだからしょうがない。

 俺の二択は非情だ。

 どっちに転んでも、元カノには効く。

 そして、開く気配の無い扉に視線をやったセナが数分間沈黙した後に導き出した選択は、何ともコイツらしいものだった。


「俺だったらガツンと言う。まずここをどこだと思ってんの? 合コンのメンツ揃えたいJDじゃねぇんだからさ。時と場所を考えろって……俺なら言うわ」
「あぁ、そうだな」
「あとアキラ、お前のツラ。出会って初めて見るツラしてんぞ?」
「……どんなツラしてる?」
「こんな顔」


 俺の顔をまじまじと見たセナが、眉間に皺を寄せて苦悶に満ちた表情を作った。

 つまり、その最悪な状況に出くわした最低な気分そのままの表情を、他でもない俺がしてるって事。

 ポーカーフェイスが上手いって評判の俺だけど、どうも全然隠せてないらしい。


「そりゃひでぇ」
「だろ。一言言わねぇと気が済まねぇなら、ちゃんとここでガツンと言っちまえ。全部な、全部」
「…………」


 セナはそう言うと、楽屋の扉を開けてケイタを呼び、〝二人で来い〟と特殊なジェスチャーを交えて手招きした。

 あーそっか。セナもケイタと同じで、俺が別れに納得いってないと思ってんのか。

 「全部言っちまえ」ってそういう事だよな?

 ……いやいや。セナもアキラも、俺のこと分かって無さすぎる。

 俺は薄情なんだって。

 セナに二択を迫る前から、俺の心は決まってたんだから。



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