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◇ 分岐点 ◇
⑦
しおりを挟む顔がいいからとか、赤ん坊の頃から事務所に居て貢献してくれたからって理由じゃなく、親が居ないも同然だったセナに、社長は父親として接してやりたかった……そういう事?
グレた息子を立ち直らせたかった社長の苦肉の策が、〝CROWN〟?
それってどうなんだ。やっぱり俺とケイタは巻き込まれてるだけに過ぎなくねぇか。……と、半年前の俺なら強い反感を持ってただろう。
だがセナに懐柔されていた俺は、不思議と、いとも簡単に同情へと回っていた。
「そっか……俺には多分一生分かんねぇ感覚だ」
「フッ……だろうな。でも分かんねぇ方が幸せだと思う。こんなの味わうもんじゃねぇよ。俺みたいな一握りの人間だけでいい。こんな思いするのは」
──お前ほんとに十五かよ。
このセリフが喉まで出かかった。
周りからクールだとか年齢のわりに落ち着いてるとか言われてる俺ですら、セナには遠く及ばねぇよ。
人一倍暗い過去を経験してんのに、なんで役者の道を自分で切り捨てたんだ。
このツラで、その人生経験。
俺よりはるかに、味のある演技派俳優になれただろ。勿体無くてしょうがない。
ただセナは、俺にこんな説得じみたことをされたところで考えを変えるような男じゃない。
自分で見定めて、諦めるって決めたんだろうから。
じゃあセナには何が残ってるかって言ったら、〝CROWN〟しか無え。
俺とケイタは、確かに巻き込まれた。
でもセナのためなら、それでもいいって思えちゃったんだよ。
どんなにバカなことしてても、今考えが改まってるならいいじゃんって。
俺とケイタと〝CROWN〟がセナの前進に一役買って、それが今すでに功を奏してるなら、社長の思惑はこれからも成功の二文字しか見えねぇじゃんって。
何たって、俺たち三人なんだぞ?
セナが欲しがってるものとは違うかもしんねぇけど、違う形でセナ自身を支えてやることは出来る。
俺とケイタなら、絶対。
「──セナには俺たちが居るじゃん」
「……ん?」
「俺も、ケイタも、セナのこと大事だし」
「……うん」
「父親のこと恨んで喧嘩に明け暮れてるより、レッスンしてた方が健全だろ」
「……そうだな」
セナの肩口めがけてパンチを繰り出すと、避けられるはずのそれをセナは真っ向から受けた。
「痛えよ」と笑うセナに、俺も笑い返す。
「セナはCROWNのリーダーなんだからさ、先輩らしく俺らのこと引っ張ってよ。これから何があろうと、俺はセナを裏切ったりしない。セナの味方でいる。俺はそれくらい、セナを信用してるし、マジで大事だと思ってる」
「はは……っ、嬉しいもんだな。……ありがと、アキラ」
別に、と返すので精一杯だった俺は、セナの心からの笑顔を引き出せたことにちょっとした優越感を抱いた。
社長の見立てがどうとかは正直分からないところではあるんだが、一人も欠けることなく、足されることもなく、満場一致で俺たち三人を選んだのは正解だったと思うぜ。
「録音しときたかったわ、今の。マジで嬉しかった」
「二度は言わねぇからな」
「フッ……つれないねぇ」
軽口を叩かれ、俺は照れ隠しに二発目をお見舞いしようと拳を握った。だがその拳は手首ごとあっさり取られ、至近距離でニヤリと笑われる。
「俺も大事だよ、お前らのこと。家族以上だと思ってる。アキラとケイタが俺を受け入れてくれた瞬間から、俺はお前らのためにがんばるって決めたんだ」
「……やめろよ。言ってて恥ずかしくねぇのか」
「いや待て、先に熱烈なこと言ってくれたのアキラじゃん! それさっそく裏切りだから!」
「プッ、……! あはは……っ」
見掛け倒しも大概にしろよ。
コイツのどこに欠点があるんだ。
こっぱずかしい本音をぶつけたら、きっちり同じだけ、すぐにカッコつけたがる俺とは違って恥ずかしげもなく真っ直ぐに思いを返してくる。誤魔化しもしない。
業界の先輩ってより、友達……いや兄貴? いや……親友? セナの言う〝家族以上〟ってなんだ?
──ま、いいか。
つべこべ言わず、俺はセナに夢 ─ CROWN ─ を託してみようじゃん。
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