CROWNの絆

須藤慎弥

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「……そうだったのか」


 俺は面食らった。

 噂されてるような〝怠慢〟じゃなかったってことに、驚いてもいた。

 だって、自分にその才能があるかどうかなんて、まだ分かんねぇだろうに。これからいくらでも、努力で何とか出来るんじゃねぇの。

 ──この世界を上辺だけで見てたなら、俺はそう声をかけたかもしれない。

 ただ俺も、何にも分かんねぇちんまいガキの頃からこの業界にいると、そういう葛藤にぶち当たってる先輩を何人も見てきた。それでも無理して仕事を受けて、カメラの前に立って、「こんなことも出来ねぇのか」と監督から罵られ自信喪失し、役者を辞めていった人が少なからず居る。

 俺たちはまだ、演技が多少荒削りでもセリフさえ覚えときゃ何とかなる。

 とはいえ、だ。

 自分なりに役作りもするし、この役はどんな人間かを深く考えもするが、人生経験が浅過ぎて役を作り込んでも滑稽にしか映らず、労力が無駄に終わることの方が多い。

 それを俺は楽しいと思えて、研究意欲も湧くが……セナは違ったってことだ。

 仕事をしたくないんじゃなく、〝できない〟と社長に泣きついて見切りをつけた。

 ……自分で。


「……じゃあ写真ってのは? あれだろ、暴走族の。セナ、副総長だったってマジなの?」


 納得してやれるか不安だったが、仕事をセーブしていた件については理解できた。

 問題はこっちだ。

 件の写真が掲載されてると知った時、俺はちょうど社長室に居た。だからそれを見た俺と社長の絶句タイミングは同じだった。

 雑誌社側から〝もしかして〟と一報を貰った社長は、気絶するんじゃねぇかってくらい顔を真っ赤にして怒っていた。

 「責任を取らせる」──そう言ってセナを呼び出したと聞いたが、そのあとのことも、写真の経緯も、俺はほとんど何も知らなかった。

 絵に描いたような想像通りの暴走族の中央に、裏ピースをキメたセナが写った物騒な写真を、俺はただ見ただけ。


「あれは……雑誌の取材が入って、副総長ってことにしていいかって総長に言われて頷いちまったから、そうなってるだけ。俺はあの族に入ってたつもりなかったよ。……っつってもなぁ。呼ばれたら喜んで加勢しに行ってた時点で、そんなの通用しねぇよな。でも誓って、警察の厄介になったことは無え。誤解されてしょっ引かれたことはあったけど、……まぁ今さら何を言おうが、軽率だった俺の黒歴史だってのには変わりねぇよ」


 ……いや、今「ごめんな」と謝られても。

 もう撮られちまったうえに、すでにその雑誌は全国で発売されてんだろ。それを目にする輩は限られてるのかもしんねぇが、出版社は横で繋がってる。

 無論、業界とも。

 〝暴走族〟と〝アイドル〟なんて真反対のイメージだから、これが後々バレて世間に嫌悪感を抱かれたらその時点でCROWNは終わりだ。

 往生際悪く否定すると、何としてでも証拠を掴もうと出版社側も躍起になって、それをメディアが面白がって話題が長引くという負のスパイラルが完成する。

 それならいっその事、その黒歴史を利用しちまえばいいんじゃねぇか。


「なぁ、セナ。それ……逆手に取れば?」


 セナが言ったことが本当なら、〝少しヤンチャしてた過去がある〟と大っぴらに言っちまった方が潔い。

 無駄に周囲を嗅ぎ回られることも少ねぇだろうし、〝アイドル〟としては異例かもしんねぇがそういうタレントが案外ゴロゴロいる世界だ。


「逆手に?」
「濁して隠すより、今俺に話した通りのことをメディアで言った方がいいと思う。バカ正直に自分から話すんじゃねぇぞ。聞かれたら答える、そのスタンスでいい」
「あぁ……その手があんのか」


 目から鱗とでも言いたげに、セナがゆっくり俺を振り返る。

 ……なんつー顔してんの、お前。

 振り返ってきたセナは、何とも例えがたい情けねぇツラをしていた。



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