10 / 30
◇ 分岐点 ◇
⑤-2
しおりを挟む「……アキラとケイタって、どこまで俺のこと知ってんの?」
「…………は?」
「いや、喧嘩売ってるわけじゃなくて。なんで俺のこと、あんな簡単に受け入れてくれたんだろーって。ずっと不思議でさ」
「俺らが受け入れられないようなことしたのか?」
そんなこと言われちまうと、大体のことは知ってるつもりでも、セナはまだとんでもない闇を隠し持っているのかと身構えてしまう。
はじめは消極的だった〝アイドル〟が具現化してきて、俺は後に引けなくなったからじゃなく、この三人だから頑張ってみたいと思えるようになったんだ。
活動に支障が出るような衝撃的なことを後出しされると、やる気が生まれた分さすがに困るんだけど。
何やらキメ顔でため息をついたセナから、俺はいったい何を聞かされるんだと覚悟を決めざるを得なくなった。
「俺が仕事断ってるのは事実だし、業界が嫌うような写真撮られてCMの契約打ち切られたのもホントじゃん。そこんとこ二人はどう思ってんのかなって。……あー、やっぱ俺気にしちゃってんな」
「…………」
セナは俺を流し見し、ヘッタクソな笑顔で繕おうとした。だが俺は、それを真顔で見返す。
なんだ……その事か、とホッとしたから。
あの女たちの話を俺とケイタが知ってるのか、どう思ってるのかが聞きたいだけなら、後出しの心配は無用そうだ。
もっとヤバい新事実があんのかと焦って損した。
ケイタはどうだか知らねぇが、俺はセナが突然仕事をセーブし始めたことも、良からぬ雑誌に載ってたことも、リアルタイムで見聞きしてたんだ。
そりゃあ気になるに決まってんだろ。
「……聞いていいなら聞くけど」
そこで立ち話を始めて十分。二人ともの額から汗が垂れ始めていた。
聞いていいってことなんで素朴な疑問をぶつけると、セナはオレンジと青の二色の空を見上げてフッと笑った。
役者として食っていく気満々の俺には、当時からそのセナの判断がいまいち理解できなかった。
あれだけメディアに露出しまくってて、ガキらしく天狗になってもいいくらい売れっ子子役だったセナが、なんで急に仕事をしなくなったのか。
このままいけば、〝有名子役の転落人生〟だの〝あの人は今何をしているでしょう?〟だの、揶揄した見出しを付けられて笑いものにされかねないじゃん。
大人たちの差し金じゃないなら、あの女たちが言ってた「自分で断ってる」説がマジだってことになる。
「セナ、お前なんで仕事断るようになったんだ?」
カッコばっか気にする俺にはマジで、どう説明されても分かってやれる自信は無かったが、思いきって聞いてみた。
「これ以上は無理だと思ったんだよ」
「……え?」
「俺に芝居は無理だと思った。限界感じて、社長に泣きついた。もう芝居は出来ねぇ、〝子役〟の肩書きが外れた時が怖えって。成長するに従って求められるものが変わってくんじゃん。俺はどう頑張っても、役になりきるのは無理。その才能が……俺には無いと思ったんだよ」
11
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
真夏の温泉物語
矢木羽研
青春
山奥の温泉にのんびり浸かっていた俺の前に現れた謎の少女は何者……?ちょっとエッチ(R15)で切ない、真夏の白昼夢。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
夏の決意
S.H.L
青春
主人公の遥(はるか)は高校3年生の女子バスケットボール部のキャプテン。部員たちとともに全国大会出場を目指して練習に励んでいたが、ある日、突然のアクシデントによりチームは崩壊の危機に瀕する。そんな中、遥は自らの決意を示すため、坊主頭になることを決意する。この決意はチームを再び一つにまとめるきっかけとなり、仲間たちとの絆を深め、成長していく青春ストーリー。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる