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◇ 分岐点 ◇
①
しおりを挟むカツラを被ったのは久々だ。
しかもこれケツまである長髪だから、立ってようが座ってようが関係無く重くてかなわない。
帽子まで被らねぇとで動きにくいし、蒸れるし、このままステージに上がったら汗だく必至。
おまけに着ている衣装は西洋の軍服。生地も厚く、装備品もジャラジャラついてるこれで照明ガンガンの中ダンスしろってんだから、当時の俺が「マジかよ」と眉を顰めたのは正しい反応だった。
鏡に映った自分が六年前と比べてどう変わったかは正直分かんねぇが、一つ確かなのは確固たる地位を確立した自信ってものが今の俺の心に在るってことだ。
「フッ……懐かしいな、まったく」
六年前。
子役上がりでアイドルになって二年目くらいか。
俺は、デカい舞台で初めて主演を務めた。
十六歳当時の俺には荷が重かったが、いわゆる〝座長〟ってやつだ。
この衣装を着てジッと自分の姿を眺めていると、どうしても思い出す出来事がある。その頃、俺の身の回りで何があったかが鮮明に。
今思えばその舞台が、あの主演が、俺にとっての分岐点だった。
様々な意味で今に繋がっていると、そう強く思わずにはいらんねぇほど。
俺は現在二十二歳にして間もなく芸能人生十八年目に突入だが、まだまだ若輩者に違いない。
しかし人生において無駄なことは一つも無いって偉そうなことを言い切れるのは、今後を左右するような経験を二、三度味わってきたからこそ。
他人がどう思うかはさておき、少なくとも俺自身がそう感じるってだけの話だが、今となっちゃ懐かしい思い出話に過ぎねぇと笑って振り返られるようになったんだから、俺も少しは成長したのかもしれない。
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