狂愛サイリューム

須藤慎弥

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43★CM撮影〜三日前〜

43♡13

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「そうやねん。俺もな、なんっかクサイと思てん」


 恭也の言ってることは分かる。

 あの場ではさすがに口に出せなかったけど、レイチェルさんと繋がってる社長さんと聖南が口を閉ざしてるのに、色々知られてるなんてめちゃくちゃ気味が悪いよ。


『社長さんが、話したのかな……』
「あ、ううん。それはさっきルイさんが聞いてくれてたんだけど、違うって。社長さんも驚いてたよ。なんで知ってるのか分からないって」
「俺思てんけど、レイレイはどっかの出版社なり何なりと繋がってる可能性あるよな」
「えっ!? そ、そんなこと……」


 社長さんじゃないとしたら、レイチェルさんに〝情報〟を渡したのは誰なんだろう? ── 首をひねるばっかりだった俺とは違って、ルイさんはもうそこまで推測してたんだ。

 俺が黙ってようとすると、物凄い剣幕で「セナさんには話しとけ」って怒ってたけど、あれはまさか、レイチェルさんが手にした〝情報〟の出どころに検討がついてたから……?

 だとしたらものすごくヤバい。

 聖南パパが敷いてる報道規制が緩和された瞬間に、ウソの記事が全国に広まってしまう。もしホントにレイチェルさんがマスコミと繋がってたら、聖南が一番危惧してる事態が起こっちゃうんだ。

 いやいや、でもレイチェルさんはずっと海外に居た人なんだよね?

 だったらマスコミと繋がりようがなくない?

 最悪の事態を思い描きたくないからか、俺の心にルイさんの推測を否定したい気持ちが溢れた。

 だけど……。


『それしか、考えられないですね。ほら、セナさんがレイチェルさんと、撮られた写真……あれ二枚、あったじゃないですか。一枚は、アイさんが仲間と撮ったものだって、確定してる。でももう一枚……画質のいい方は、どこかのマスコミが、撮ったかもって話だから』
「せやな。デビューの話が通ってるんかは分からんけど、レイレイが大塚社長の姪やってのは記者やったら情報として持ってるはずやし。レイレイから近付かんでも、マスコミ側がレイレイと接触するんは簡単な話やと思うわ」
『だとしたら、なぜマスコミは、レイチェルさんに近付いたのか……。両者に繋がりが出来た、その経緯が、ハッキリしませんね』
「経緯か……」


 あの……ちょっと待って、二人とも。

 俺、当事者。ルイさんの言う〝牽制〟を直接受けたのは、俺。

 それなのに二人は、息ピッタリに推理合戦を繰り広げてる。どんどんHPが削られてる俺は、すっかり置いてけぼりだ。

 社長に送られてきた写真が二枚あって、そのどちらにもレイチェルさんと聖南が写っていて(加工されてるものだけど)、そのうちの一枚がマスコミの手によるもの……っていうのは、アイさんの件の時から警戒していた。

 聖南が『樹がマスコミに気を付けろって言ってた』と苦笑いしてたし。

 レイチェルさんとマスコミに繋がりがあると信じてる二人の推理は、俺が頭の上に花を咲かせてようが一向に止まらない。


「あ、待てよ。マスコミと接触したんは、もしかしてレイレイ側なんちゃう? それやったら辻褄合うことない?」
『……〝セナさんの恋人〟、ですか』
「そうや! セナさんの恋人探しで躍起になっとるマスコミに、自分がその渦中の恋人やでって匂わせるだけでも向こうは食いついてくるやん! 現にツーショットっぽいの撮ってるんやし! 撮られた方から接触あったらマスコミもウハウハやんな!」
『レイチェルさんが自分から話さずとも、向こうから、情報のすり合わせをしようと、しますもんね。それでレイチェルさんは、セナさんの情報を、得て……マスコミからのその情報で、レイチェルさんは、セナさんと葉璃の関係に、勘付いた……そう考えるのが、妥当ですね』
「そういうことや! えらいこっちゃ……謎が解けてもうたで……」


 と、……解けた? 何が?

 何が解けたの? 

 スーパーから出てくる老夫婦が手を繋いで歩いてるのを見てほっこりしてた間に、二人は俺を置いてけぼりにして会話が弾んでたけど……。

 俺が聞き取れたのは、〝セナさんの恋人〟、〝ツーショット〟、〝マスコミ〟、〝接触〟、〝情報〟、〝妥当〟……これらを使って文を作れって問題はちょっと難し過ぎない?

 当事者がこんなことじゃいけないのに、恭也とルイさんの会話に俺は少しも入れなかった。

 つい五分前まで、俺が聖南に話すべきなのは〝レイチェルさんに俺たちの関係と家を知られてるかもしれない〟ってことだけだったはず。

 どうやら情報源を導き出したらしいけど、俺には何が何だかさっぱり……。


「……ハルポン?」
「…………」
「ハルポン? どうしたんや、ちょっ……ハルポンっ?」
『え、葉璃が、どうかしたんですか?』
「固まっとる。なんや……あの、……口がバッテンのうさぎのキャラクター、おるやん」
『ミッ○ィー?』
「そう、それ! それになっとる」
『プッ……!! ルイさん、その葉璃の写真、送ってください』
「ラジャ。今撮るわ」


 ただ黙ってるだけの俺を、ルイさんが車内でパシャッと激写する。

 それを「送って」と言った恭也のことも、「ラジャ」の一言で了承したルイさんのことも、咎める気になんてならない。

 俺の頭の中が、いろんな色のクエスチョンマークで覆い尽くされてるから。

 これを聖南に報告しなきゃならないのは、俺なんだよ。でも、二人が話してる内容が全然理解出来なかった場合はどうしたらいいの。

 俺はまったく謎が解けてない。中学の時つまづいた連立方程式くらい難解な会話だった。

 だから俺は、今ここであえて、さっきのレイチェルさんの言葉を借りたいと思う。


〝二人の会話は、難しくて聞き取れません。〟





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