狂愛サイリューム

須藤慎弥

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42♡克服?

42♡10

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♡ ♡ ♡



 聖南にいっぱい頭を撫でられた。

 かわいー、かわいー、って濡れた声で俺を可愛がる聖南から、一時間みっちりトロトロに甘やかされた。

 聖南は今日、やっぱり甘やかしたい日みたいで。

 終わったら必ず聖南が後処理してくれるんだけど、いつも以上に密着して離れなかったうえに、なぜか俺はずーっとどこかを撫でられていた。

 時間が遅かったこともあって、明日も早いからってコンドームを着けて挿れてくれて、聖南にしては異例の早さの一時間で今日のエッチは終わった。

 金髪にピンクメッシュの入った聖南に抱かれるのは二回目。……なんだけど。

 さっきのエッチは、なんだか今もドキドキしてるくらい特別甘かった。

 今もその人から抱きしめられてると思うと、もう二時を過ぎてるのに全然眠れそうにないくらい。


「……んやっ……!」


 後ろから聖南に羽交い締めされてた俺は、ふと足先で足首をくすぐられた拍子にやらしい声を上げてしまった。


「びっ、くりしたー……。どしたの、そんな悩ましい声出して」


 眠る間際のまったりな空気を切るようなそれに、俺自身も聖南も驚いてしまう。

 自分でも過剰な反応だったと思う。でも、それというのも、……。


「い、いえ……中がまだ、その……変な感じで……」
「おい、それはダメ。葉璃ちゃん、その発言はダメ。一回でやめた俺の忍耐力崩す発言だ、それは」
「…………っ」


 そんなこと言われても……!

 聖南がゴム付きのアレを引き抜いた瞬間から、お尻がムズムズしてるんだもん……しょうがないじゃん。

 何かが残ってるとかじゃない。ベタついてもないし、ぬるぬるしてる感じもない。

 甘ったるい聖南が、終始正常位で俺を抱きしめながらじれったい動きをしてて、もどかしくなった俺が自分から腰を浮かせちゃったりもしたから、たぶん……余韻的なものが体の中でくすぶってるんだと思う。

 このままだと、俺はまた考えナシにムラムラして聖南を困らせちゃうよ。聖南、声が眠そうなのに。

 ……よし、聖南が寝落ちしそうな話題に変えよう。

 せっかく一時間で我慢してくれたのに、聖南がその気になったらそれが水の泡になっちゃうもんな。

 んーと、何か聖南に話しときたい事……。

 朝のレッスンのこと? CMの打ち合わせの件? 三人でのごはんの席でどんな会話をしたか?


「……あっ、聖南さん聞いてくださいよ!」
「んっ、なんだ? 急だな?」
「さっきごはん食べてた時、恭也とルイさんがエッチな話してたんですよっ」
「何っ!? 葉璃の前で!? ……ルイは分かるけど恭也まで……っ? どんな話だったんだ?」
「それが、あの……セッ、セックスって単語を何回も言ってて……。今の時代は普通だ、とか何とか……」


 俺、自分で切り出したっていうのにその単語を言うのが恥ずかしかった。

 結局最後まで意味が分かんなかったし。

 あれ、いったい何の話してたんだろう。

 恭也が言い出したことなんだから、恥ずかしがらないで直接聞けば良かった。


「……葉璃、それホントにセックスの話してた?」
「え……?」


 少し黙り込んだ聖南から、クンと首筋を嗅がれた。

 ドキッとしながら、俺は不思議そうな聖南に事の顛末を聞かせてあげる。

 あの時はたしか、CMの話をしてたんだよ。ルイさんが俺に「バックショットは大丈夫か」って聞いてきて、俺は決まった絵コンテに従うまでだって答えた……。

 その後だ。いきなり恭也がエッチな事を言い出したのは。


「── んーと。葉璃ちゃん、それ……〝ユニセックス〟のことだろ」
「あ!! そうです! 二人ともそう言ってました!」
「ンッ。……あのな、今日CMの打ち合わせあったじゃん? そこで説明してもらったろ? あのリップクリームは性別を問わない男女兼用の商品だって。コンクレ専属の満島あやじゃなく葉璃が起用されたのも、イメージコンセプトに合うからってのと、見た目がユニセックス商品と合致するからなんだよ」
「あ、あぁ……そういう意味だったんですか……! 俺はてっきりエッチな意味なのかと……」


 枕元からスマホを取って、〝ユニセックス〟で検索をかけた聖南がわざわざ俺にそれを見せてくれた。

 性別を問わない……か。全然エッチな意味じゃなかった。

 二人ともちゃんと意味を知ってて使ってたんだ。俺一人で「やらしい!」と騒いで……恥ずかしいったらないよ。

 あ……だから二人、あんなに笑ってたのか。無知な俺を「可愛い」って……揶揄ってたもんな。……ムッ。


「ユニセックス、かぁ……」


 ふむふむ。意味を知ると、不思議とやらしい単語に感じなくなるもんなんだなぁ。

 また一つ勉強になった。……とスッキリした気持ちでいた俺の背後が、なんか小刻みに揺れてるんだけど。


「ぷっ……! ククク……っ!」
「ちょっ、聖南さん! 笑うならいっそ思いっきり笑ってくださいよ!」
「あははは……っ! ごめん、ごめんな? 二人がユニセックス連呼してる前で、葉璃が真っ赤なツラしてドキドキしてんの想像したら、……っ、かわいくて……!」
「…………っ」


 まさしく聖南の想像通りでしたよ。二人が仲良しになって嬉しいんだけど、恭也まで俺のことを揶揄ってたなんて少しショックだ。

 ……いや、無知な俺が悪いんだけどさ。

 二人とも、何もあんなに〝ユニセックス〟を言いまくらなくても良かったと思うんだ。絶対絶対、俺の反応を見て楽しんでたんだよ。

 上体を起こして、お腹を押さえながら爆笑してる聖南も同類だっ。


「はぁ、はぁ、……いや、一年分笑ったわ」
「……まだ一月ですけど」
「あははは……っ! 葉璃ちゃんやめてくれ! 腹筋崩壊する!」


 もう……そんなにヤンチャな笑顔で笑われちゃ、怒る気も失せるよ。

 みんながニコニコになるなら、どれだけ揶揄われてもまぁいっかって、ついこないだも思ったばかり。

 何がそんなに可笑しいのか分からないけど、俺は聖南の笑い声も、八重歯を覗かせての笑顔も好きだから黙ってジッと眺めさせてもらった。

 聖南は鼻が高いから、横顔まで綺麗だ。

 はぁ、……俺はさっきまでこのかっこよくて綺麗な人に抱かれて……って、ダメだ。

 聖南のために話題を変えたのに、俺まだムラムラしてる。

 でも……聖南にそんな事言えないし。だからって俺はウソがへたくそだし。


「あっ、葉璃! どこ行くんだ! 拗ねたのかっ?」


 バスルームでムラムラを発散しようと思いまして、なんて言えずに、掴まれそうになった腕をひょいと躱す。

 肩を揺らして笑ってる聖南からじわじわ離れて、ベッドをこっそり下りたらバレないかもっていうのは浅はかだった。


「ち、違いますよっ。そんなことで拗ねたりしませんっ」
「じゃあどうしたんだよ」
「やっぱり……も、もう一回お尻洗ってこようかなと思って」
「んっ? なんで? それなら俺も行く」
「いえ、俺一人で大丈夫なんで、聖南さんは寝ててください。明日も早いでしょ?」
「ちゃんと全部かき出して洗ったつもりなんだけど。今日はゴム使ったから俺のは残ってねぇはず……あ、ローションが残ってんのか?」
「い、いえ、……」


 家のどこに居ても俺を探し回る聖南が、勝手を許してくれるはずがなかった。

 聖南もベッドを下りて、俺の方に歩いてくる。ちょっとニヤつきながら、「ははーん」といたずらっ子みたいな顔で。


「さては葉璃ちゃん、ムズムズしてんだな?」
「なっ、違っ……いません、けど……っ」
「違わねぇのか。素直だな」
「と、とにかく、一人でシてくるんで、あのっ、そっとしといてくれると嬉し……うわわっ」


 聖南に隠し事は無理だ。

 簡単に俺の体を抱き上げてベッドにポイした聖南が、金髪の髪をかき上げてニヤリと笑った。俺を組み敷いて、パジャマ代わりの黒色のパーカーをさっそく脱いで、……とんでもなく色気のある上半身を晒す。


「ついに葉璃も一回じゃ足りなくなったみたいだな」
「…………っっ!」
「気が合うじゃん。……俺もそう思ってたとこ♡」
「……~~っ!!」


 押し倒されて嬉しいくせに、俺の心を何でも見透かす聖南を、少しだけイジけた目で見上げた。

 誤解されたくないのは、俺は寝落ちするまで聖南とお喋りするまどろみタイムも大好きなんだよ。

 だけど今日は、〝一時間〟だったから……。

 愛情過多な聖南から愛され続けて三年目の俺に、一時間はちょっと……少ないよ。







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