狂愛サイリューム

須藤慎弥

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40♡恋路

40♡9

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 善処してほしいことはいくらでも浮かぶのに、どう抗っても気持ちいのは俺も一緒で。

 聖南に愛されてる時、俺の顔がドロドロのぐちゃぐちゃになってるのも、つまりはそういうことで。

 俺に勝ち目なんかあるわけなかった。まず勝とうとしていたことが間違いだった。

 いくら俺がプンプンしてても、聖南は甘く笑うだけでなんの効果も無い。

 「かわいー」と目尻を下げてニコッと笑い、俺が密かに気に入ってる八重歯をこれみよがしに見せてくるんだから。


「葉璃ちゃん機嫌直せよー。ごめんってばー!」


 深夜三時。

 聖南が三回、俺が五回(そのうち出さずにイったのが二回……)達して、今日のエッチは終わった。聖南とのエッチでは早い方だ。四時間くらいしか経ってない。

 すぐには立てない俺を綺麗に洗ってくれた聖南は、超ご機嫌だ。言葉では謝ってるけど、表情が全然〝ごめん〟じゃない。


「それ、何にあやまってるつもりですかっ。俺は怒ってるんですからね!」


 対して俺は、まだほっぺたを膨らませてプンプンしている。

 後ろからぎゅぎゅっと抱きしめてきた聖南を振り返って、「むっ」と睨んでやった。


「怒ってんのはこのほっぺたで分かんだけど。んー……鏡の前で立ちバックしたこと?」
「……っ、そうです! でもまだあります!」
「あとなんだろ。……あぁ、中イキが足んなかった?」
「なっ!? それはハズレですっ」


 だって足りてるもん! 全身がビクビクッと痙攣するアレ、二回も体感しちゃったし!

 おかげで今も下っ腹とアソコが変な感じだ。

 気絶しそうになるくらい気持ちいんだけど、でもアレちょっと怖いんだよね…………じゃなくて!!

 聖南に言いたいことがあと二つはあるのに、なに顔熱くしちゃってんの、俺!

 気を取り直して、俺は布団からニョキっと腕を出して扉を指差した。それだけじゃ足りなくて、腕をブンブン振って聖南に気付かせる。


「あぁ、廊下で襲ったこと?」
「そっ、そうです! あとはっ?」
「まだあんの? えー……っと。なんだろ。マジで分かんねぇ」
「むっ!」


 そりゃあ聖南には自覚なんて無いだろうけどさ……!

 今日は何がしつこかったって、俺のカサついた唇が物語ってる。

 洗面所で聖南が一回イったあと、膝から崩れ落ちそうになった俺を抱っこしてくれたまではいい。

 けど、ベッドに移動するまでの間に「我慢できねぇ」と言った聖南は、抱っこしたまま俺を貫いた。激しいキスで俺からの文句を封じて、下からめいっぱい突き上げてきて…………うぅっ、思い出すとお尻がムズムズする……!


「だって葉璃ちゃん気持ちよさそうだったもん。俺が抜こうとしたら「ダメ」って言うし、抜かねぇように締めつけてきてたし。正常位のとき自分で足持ってくれてたじゃん。積極的なのめちゃめちゃ嬉しかった。興奮した」
「~~っっ!!」
「今日のセックス、葉璃は気持ちよくなかったの?」
「そ、それは、あの、……っ、えっと……きもち、よかったです、けど……っ」
「じゃあいいじゃん。二人で気持ちよくなれたんなら」
「むぅ……!」


 冷静にそんなことを言われちゃうと、つまんないことで怒ってる俺がものすごく子どもっぽくてヤだ。

 結局は俺も気持ちよくなっちゃって、聖南の体に腕も足も巻き付けて声を上げた。

 昨日の不完全燃焼が尾を引いてたから、ってことにしてたんだけど、俺も聖南を求めてたと言われても仕方がないくらいよがってしまったのは事実だ。

 さすがに鏡の前でエッチするのは二度とゴメンだと思った。でも、我慢できないって獣みたいに襲ってくるのは……実は好きだったりして。

 ……いやいや、ダメだよ。もう言いくるめられてる。

 俺はもう一つ、聖南に言っときたいことがあるんだ!


「そうなんですけど……っ、俺はちょっと言いたいことがあるんです!」
「ん、何? なんでも言って」
「……っ!」


 意気込んだ俺の耳を、聖南がチュッてキスしてきた……。やわらかな唇が俺の耳をはむはむしてる……。

 不意打ちは卑怯だ。そんなことされたら言いにくい。

 甘えられてるみたいで可愛くて、キュンッとして……怒れない。


「その……それはですね、……」
「うん」
「えっとー……」
「うん」


 聖南が冷静で甘えん坊になった分、俺の怒りのボルテージも急降下していく。

 別にそんな怒ることじゃなかったな……とまで思い出した俺は、カサつく唇に触れながら、キレるんじゃなくやんわりと〝注意〟に切り替えた。


「あの……キスが、苦しいんです。聖南さんのキス……」
「……ん? 苦しいって何?」
「だからですね、もう言っちゃいますけど……っ、俺のベロを容赦なく食べるの、やめてほしいっていうか、控えてほしいっていうか……!」
「…………」
「息が続かないし、それなのに唾液はどんどん飲まされて、俺のも奪われて……! 口の中メロメロされたらお腹の下ら辺がキュッてなるんです。体に力が入らなくなるので、自分で体を支えてられなくなるんです……!」
「…………」


 それは聖南さんも困りますよね? と、さも正論を述べてるかのように理由まで付けて〝注意〟した。

 呼吸が出来なくて苦しかった。それにくわえて、合間に「葉璃」とか「かわいー」とか「好き」とか「愛してる」とか、そんなことを大好きな声で囁かれてみてよ。

 心臓がいくつあっても足りない。

 物理的にも、精神的にも、呼吸困難になるんだってば。

 唾液の交換が好きな聖南は、元々キスが好きなんだと思う。だから俺がキスで死んじゃわないように、ここはビシッと言っとくべき。

 ……と、俺は思ってたんだけど……。

 聖南が無言だ。

 こんな大事な話の最中に寝ちゃったのかと振り返ってみると、バチっと目が合った。……のに、何も言わない。


「せ、聖南さん……? なんで黙ってるんですか……?」
「いや、……」
「え……ちょっと、待ってくださ……っ」


 ふいと視線を外した聖南が、ゆっくり動いた。


「煽ったのは葉璃だからな」
「えっ!? 俺がいつ煽っ……!?」
「知らね」
「んっ!」


 俺に跨った聖南の目が、いつの間にギラギラしてたのか……俺はさっぱり気が付かなかった。

 やらしい舌なめずりのあと、俺の唇をメロッと舐めてニヤついた聖南には、〝注意〟が〝煽り〟に聞こえたの?

 また俺、言い方間違えた?

 控えてくださいって言ったそばから、舌を持ってかれる。ほっぺたの内側や上顎もメロメロされた。

 ──そして、なんでまた俺は、パンツを脱がされてるのかな。





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