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39❤︎特大スキャンダル②
39❤︎6
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別れる直前までルイに八つ当たりしていた葉璃は、なんと朝から何も食べていない腹ペコ状態だった。
そこで聖南は、次の仕事までの時間を葉璃との食事に費やした。
「出来ることなら美味しい焼売が食べたいです」などとピンポイントで訴えてきた葉璃に、もちろんだと頷いた聖南の機嫌は最高潮。
本日も見事な食べっぷりを見せてくれた満腹の葉璃を後部座席に乗せ、鼻歌まじりの聖南がやって来たのは通い慣れた撮影スタジオである。
この日二本目の女性週刊誌のインタビューの仕事が、十八時から予定されていた。
今話題の事務所の後輩を連れて行っても怪しまれはしないと、聖南は葉璃に同行を求めようとしたのだが……。
「聖南さん行ってくるぞー」
肝心の葉璃は、十日ぶりの仕事でかなり疲れているようだ。
「…………むにゃ」
「フッ……かわいー顔して」
腹が満たされたこともあり、葉璃はマスコミ対策で後部座席で横になっているうちにウトウトし始め、スタジオに着いた頃には眠りに落ちていた。
声をかけても反応がないため、聖南は降車することなく後部座席へと移動すると、常備していた毛布をトランクから引っ張り出しそっと葉璃にかけてやる。
寝ている葉璃を横抱きしてスタジオ内に連れて行くことも考えたが、それはさすがに怪しまれる。下手すると編集部の面々から「何事ですか」と騒がれるかもしれない。
やむを得ず聖南はエンジンを切り、葉璃のスマホに電話をかけた。スキニージーンズのポケットから振動音をキャッチすると、少しばかり葉璃のスマホを拝借して通話を開始し、葉璃の頭元に置く。
「これで俺が仕事中だって分かるよな」
葉璃が目覚めた時、聖南がいないとあたふたさせては可哀想なので、以前ルイが行っていた盗聴戦法を使わせてもらった。
インタビューはそう長い時間拘束されない。
おそらく葉璃が目覚める前にはここへ戻って来られるだろうが、念のためだ。
「俺の声聞いて、俺の夢でも見てな。葉璃ちゃん」
毎晩激写しているとびっきり愛おしい寝顔を見ていると、名残惜しくてかなわない。
柔らかな髪をさらりと撫で、膝を折って寝ている葉璃に頭まで毛布をかけてやる。聖南の愛車はフルスモークなので容易ではないが、この可愛い寝顔を誰かに覗かれては困るからだ。
行ってきます、と毛布の塊に声を掛け、愛車にロックが掛かっていることを確認すると、聖南は悠々とスタジオへ向かった。
❤︎
〝──続いては、もう何度も答えさせられてうんざりしているかもしれません、恋人についてお聞きしたいと思います。セナさんの恋人がいったい誰なのか、業界も世間も気になってウズウズしています。公表する予定は今後一切無いのでしょうか?〟
「無いね。相手に迷惑かかるから」
インタビュー開始から三十分。
それまでは仕事の話を主に、聖南は記者の問いに淡々と応じていた。
初めて聖南と顔を合わせた記者は、あまりのアイドルオーラに緊張しきりで声を震わせていたのだが、この話題になるやもう一人のベテラン記者の方にバトンタッチしたため、あからさまにホッとした顔をしている。
──またこの質問かよ。コイツらも大変だな。
どこへ行っても同じ質問をされることに、聖南は辟易した。だが彼らも、芳しい返事がもらえないことを分かっていて尋ねなければならない、上からのしがらみがあって気の毒だ。
メイクルームと繋がった応接スペースのソファに座っていた聖南は、チラと壁の時計に視線をやりながら足を組み替える。
対面では、先々月も同じ質問をしてきた記者が、懲りずにそれについてを深掘りしようと身を乗り出してきた。
〝そうなんですね。残念です。交際は順調、ということですか?〟
「付き合い自体は全然問題無い。ただ、離れてったファンには悪いと思ってる。こういうことを公言するのがよくねぇことだってのも分かってる。俺のことを〝セナだから〟で許してくれてたファンを裏切ったことに変わりはねぇ。でも俺は、大事な人を守りたかったから。宣言して良かったと思ってるよ」
そのことについても、聖南はメディアで何度も話している。
バラエティー番組だろうと、少々堅苦しい音楽番組だろうと、その時の現場の雰囲気がどんな風であろうと、ファンを裏切ってしまった詫びは常日頃から真剣に発信し続けていた。
時期尚早だったとは思わないが、トップアイドルとして軽率な宣言であったことは認めざるを得ない。
だがしかし、モデルとの仕事上でのツーショット写真一つで、葉璃は絶望の淵に立たされたような悲しい憂いを滲ませるのだ。
無闇に不安を抱かせたくない。
葉璃がそういう表情をした時、聖南に待っているのは最悪の結末しかないからだ。
ファンも大事だが、葉璃の存在もうんと大事。どちらかを選べと言われると即答できてしまう辺り薄情なのかもしれないけれど、誰もそんな究極の選択を迫るわけがないので、聖南はどちらも大事にしたいというスタンスを貫いている。
〝……守りたかった、というのはどういう事なんでしょう? 今現在、マスコミに追われているとよくメディアでも話しておられますが、宣言しない方がそのリスクは少なかったのでは?〟
真面目に返答した聖南に、こちらも仕事を全うしようとする記者からの問いが続いた。
いくら聖南が明確な答えを言わなくとも、どこかにヒントは無いかと必死で探しているようにも見える。
この雑誌の発売日は色恋沙汰で盛り上がるバレンタインの時期と被るため、今をときめくアイドル〝CROWN〟のリーダーの恋人を暴きたくて仕方がないのだろう。
今日はとことん深掘りするつもりらしいと悟った聖南も、〝そっちがその気なら〟とばかりに身を乗り出し、余裕綽々な笑顔を見せた。
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