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39❤︎特大スキャンダル②
39❤︎4
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聖南がテレビ局に到着した時、すでにETOILEの二人はリハーサルを終え本番の収録に向かっていた。
それを一階の収録スケジュール表で確認していた聖南は、葉璃に会えるのが一時間以上も先であることに下唇を出しつつ、顔パスでETOILEの楽屋前にやって来た。
行き交うスタッフ等と気さくに挨拶を交わし、まったく何も考えずに楽屋の扉を開けると、無人だと思っていたそこにルイが居たので心底驚いた。
「うわっ! お前いたのかよ!」
「もぐ……、セナさんお疲れーっす!」
楽屋の弁当を拝借していたルイは、聖南の来訪にも食べる手を止めない。強心臓である。
ルイの隣に腰掛けながら苦笑した聖南も、自分の楽屋であるかのようにサラリとミネラルウォーターを拝借した。
「あービックリした。いるならいるって言えよ」
「ははっ、無茶言わんでくださいよ」
「マジで驚いたんだっつーの。てかルイ、レッスン終わり?」
「そうっす。聞きたかったんすけど、ETOILEの曲ってもしやケイタさん振付けっすか?」
「あぁ、silentと二作目は別の講師だけど、以降はケイタ」
「あーなるほど! それで体に入りやすかったんすね」
ETOILEの加入メンバーとして、ルイは年明けからCROWNのバックダンサーと葉璃の付き人を辞め、レッスンに励んでいる。
慣れてきたら葉璃の付き人に戻りたいと言っているらしいが、恭也の映画撮影が終わった今、ETOILEの二人に新たにピンで入る仕事はなかなか無い。
ついていたいなら、見学という形で林と共に行動したらどうかと提案しようと聖南は思っている。
直近の二曲がCROWNのダンスとどこか似ていると感じたとやらで、しばらくその話題で聖南とルイは盛り上がった。
二人は社交性に長け、口も達者なので、途切れることなく会話は続き三十分が経過した。
葉璃と恭也はあとどれくらいで戻るのだろうと、聖南が何気なくペットボトルに口をつけながら腕時計を見た、その時だった。
「そういやセナさん、あの金髪美女ってまだセナさんのこと諦めてないんすか」
「ブッ……! おまっ……な、なんでいきなりそんなこと……!」
突然の質問に、少量だが水を吹き出した。
ルイをびしょ濡れにすることはなかったが、咄嗟に下を向いたため太もも辺りがわずかに濡れてしまう。
「いやぁ、いきなりすんません。俺見てもうたんすよ、写真」
「はぁっ?」
ティッシュを箱ごと手渡してくれたのはありがたいが、またも情報がルイに筒抜けとはどういう事だと、表情を険しくした聖南はジーンズの濡れた部位を拭った。
するとルイが、「説明します!」と立ち上がり、楽屋を練り歩き始める。
「あれは一昨日のことでした。正月にひとりぽっちは寂しいやろ言うて、社長が事務所に誘ってくれたんす。ご馳走なるだけやったら失礼やろ思て、俺は近くのコーヒーショップで手土産買いました。そっから呑気に事務所まで歩いとって、そしたらですよ! 事務所の裏口に怪しい男おって!」
「怪しい男?」
「そうなんすよ! 「お前さっきからウロついて怪しいな!」って大声出したらソイツ、封筒落として逃げよったんです。せやけど封筒には大塚社長って書いてあったから、ほなちょうどええやんってことで社長に渡して、俺はのんびりメシ食うとったんです。秘書の人は正月休みでおらんやったんで」
「……それで?」
長々と経緯を語ってくれているが、ルイがことさら流暢に喋るため非常に聞き取りやすい。「ん?」と首を傾げる箇所が今の所無い。
怪しい男というのが気になるが、事務所周辺をウロついていたということは十中八九マスコミ関係者だろう。
下っ端の者が使いに走らされ、どうしたらいいか分からずにいたところをルイに見つかり、慌てて走って逃げた。
──そいつが写真を持ってきたってことか。
聖南の推測通り、ルイは続けた。
「封筒開けた社長がハッとしてー、なんやなんやって俺が見に行ってもうてー、うわぁまたセナさん撮られてるやんー……って感じっす」
「ルイはたまたま居たんだな、その場に」
「そういうことっす。なんでレイレイとセナさん、こんな狙われてんすか」
「……レイレイってもしかしてレイチェルのことかよ」
「そうっす。〝た行〟って言いにくないっすか?」
「いや分かんねぇけど……」
ルイがあだ名を付けたがるのは葉璃だけなのかと思ったが、そうではないらしい。
とりあえず、社長がまたもルイに情報漏洩したわけではないようなので、その点だけでもハッキリして良かった。
ウロついていた輩から写真をゲットし、それが別の者でなく他でもない社長に直接渡ったのは、ルイのおかげと言っていい。
聖南は無闇やたらと人を咎めるタイプでもないので、経緯さえ分かれば納得する。
いくらか染みの薄くなった箇所をなぞりながら、聖南は一番気になることを問うた。
「もしかして葉璃に言った? 写真のこと」
ここに聖南より早く到着していたルイが葉璃と接触していたら、〝もしかしたら〟がある。
すぐにぐるぐるするネガティブな葉璃へは、又聞きが一番よくない。
「…………」
「…………」
ギクッと微動だにしなくなったルイが、聖南に向かって深々と頭を下げた。
その瞬間、聖南も天井を仰ぐ。
「はぁ……言っちまったのか」
「……すっ、すすすすんません! あれはマジで不可抗力なんすよ! ひっさしぶりにハルポン見たら感情がワァーッてなってもうて! てか俺はてっきり、写真についてはセナさんもハルポンも知ってるもんやと……!」
「知らなかったんだなぁ、これが。俺も葉璃も」
「すんませんんんんーーっっ!!」
ルイの謝罪は楽屋の外まで聞こえていたに違いない。
そこまで急を要する話ではないし、さっきの今なら弁解の余地はある。
すんません、すんません、と頭を下げるルイを見ていると、笑えてきてダメだった。
不快な気持ちになりようがない。
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