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35・アイドルの本気
35♣7
しおりを挟む♣ ルイ ♣
ハルポンは、左隣におる恭也にぴったり寄り添うてしもた。
俺めちゃめちゃ疎外感なんやけど。恭也がハルポンとヒソヒソ話するんなら、俺も便乗したってええよな。
ガキくさい厄介な気持ちになって、ハルポンの腕をちょびっと掴んでこっちに引き寄せた。
「なぁ、ハルポン。少々の不調がデッカい不調になったら元も子もないねんから、無茶したらあかんで」
「は、はい、……それは分かってる、つもりです」
「つもりかいな」
見上げてきた目がうるうる潤んでる。
目覚めたと思て安心してたら熱出したとかで、今も明らかに疲れた顔しとるのに、ハルポンは今夜の出番は絶対休まんとか言うてる。
CROWNのお三方が登場する前、恭也と俺でなんの気無しにハルポンの心境聞いたら──〝俺は何ともないよ。本番がんばりたいから、熱なんか出してられない。気張ってなくちゃ〟やて。
惚れ惚れするほどのプロ意識の高さ。
俺にはよう真似できん。
病気に弱い男っちゅーもんは、たかが微熱でこの世の終わりくらい大騒ぎするもんやろ。
ほっぺた赤うして、なんとなく眠そうな顔してるくせに、ハルポンは気を張ってれば熱なんかには負けんのか。
いやでも、そんなん強がり以外の何ものでもないよな。
自分に言い聞かせてんのかもしれん。
「ハルポン、ほんまはまだしんどいんやろ?」
「そんなことないですよ。元気です」
「……そうかい、……そうかい」
耳打ちしてマジの本音を引き出そうとしても、小声で強がりな返答が返ってきてなんもならんかった。
……意地っ張りめ。
……これのどこが甘ちゃんやねん。
ヤツらに一矢報いたいからいうて、ほっぺたポッポさせてまで出番に執着するド根性は大したもんや。
今日は、ハルポンやなしにポッポちゃんと呼んだろか。
いや……やめとこ。これは今のハルポンには相応しくないあだ名や。
余計なことして嫌われたくはない。
「そうだよ、葉璃。昨日あんな事があって、俺が何も、身構えてないと思う?」
「……え?」
あっ、もう恭也にハルポン掻っ攫われた。
昨日恭也とは長いこと語り明かしてマブダチになったとはいえ、恭也とハルポンの密談にはまだかなり妬いてまう。
……俺も仲間に入れて。
「もしもが起きても、俺は葉璃のために、ETOILEを守る。その覚悟は、ちゃんとあるからね」
「……恭也……」
思てるそばから、熱々な雰囲気。
セナさんもアキラさんもケイタさんも、ジロジロ凝視してんで? 特にセナさんは、なかなかにおっかない無表情してはるよ?
恭也、お前どんだけハルポンに一途やねん。
昨日言うてた〝親友よりか愛してて、恋人よりは愛してない〟て言葉、やっぱどんだけ考えても俺には難しすぎて理解不能や。
ハルポンが離れた分だけ近付いて、恭也と俺で熱っぽい気がする体をピタッと挟む。
俺はまた二人の異常な友情の世界から弾かれた……そうガッカリした時、いきなり顔を上げた恭也と目が合った。
「でもその覚悟は、ルイさんがお尻叩いてくれたから、なんだけど」
「えっ? ルイさんが恭也のお尻叩いたっ? ルイさんっ、なんでそんなことするんですか!」
「えぇっ!? 俺なんもしてへんよ!」
油断してたらこれや!
たまに超ド級の天然をかましてくるハルポンには慣れたつもりでおったが、潤んだ目でキッと睨まれたら俺かて動揺する。
重要な話を遮られたまま固まって立つCROWNの三人も、唖然としとるぞ。
「恭也が今ハッキリ言ってたじゃないですか! お尻叩かれたって!」
「いやそれはやな、……っ」
なんで俺が恭也のマジケツ叩かなあかんねん! 今のは話の流れで分かるやろに!
誰が聞いても、精神的な面で俺が恭也のフォローした……いう感動の美談やん!
見上げてくるキッツい猫目に吸い込まれそうになりながら、俺は「ちゃうって!」と反論を続けた。
「ねぇ恭也、俺が仕返ししようか? 何発くらい叩かれた?」
「ちゃうって! そういう意味やないよ!」
「恭也が優しいからって、お尻叩くなんてどういうつもりなんですかっ」
「ちゃうって言うてるやーん!」
しかし思い込んだら一直線のハルポンは、大事な恭也のケツを俺が意味も無く叩いたと誤解しとる。しまいには俺を敵か何かみたいに思てそう。
これやから天然ポッポちゃんは。
薬で一時的に元気になってるだけやのに、俺に向かってちっさい手のひらを構えて見せたハルポンが、ジリジリ近寄ってくる。
「俺が仕返ししますっ」
いやいや、なんでそうなんのー!?
俺一言も「恭也のやらかいケツ叩きまくったぜ、フッ」とか言うてへんよっ?
手のひらを俺に向けて、ほんまにお尻ペンペンを実行しようとするハルポンは敵討ちに燃えとった。
遠ざかっても遠ざかっても、ゆっくりとやが追いかけてくる。もちろんお尻ペンペンの構えで。
「ちょっハルポン、俺の美尻を狙わんといて!」
「ふふっ……」
「恭也も笑てないでフォロー入れてや! この子とんでもない勘違いしとるぞ!」
「ふふふふっ……」
「問答無用です!」
「なっ、なんでやねん!」
頼みの綱の恭也は笑てるだけやし!
なんか言うてくれや。
ハルポンの手のひらは小さいんやで。ペシッと叩かれたら地味に痛みが長引きそうやねん。
あかん、あかんて。
俺がじわじわ逃げたら、ハルポンもじわじわ追ってくる。
百歩譲ってお尻ペンペンはまぁええ。
ハルポンは病み上がりってかまだ病気してる最中なんに、よう分からん事で興奮さして動かしたら悪化するかもしれんやん! ハルポンの寝込んだ姿なんか、可哀想で見とうないんよ!
けど近付いたらマジの一発お見舞いされるよな。
それはなんとか回避したい……!
「ルイさん、観念してください! 恭也の敵は俺が討ちます!」
「ちゃうって何べん言うたら分かんの、この子ー! ええからその手やめぇ! おとなしくしときぃや!」
「子ども扱いしないでくださいっ」
「ハルポンが聞き分けないんやからしゃあないやん!」
「あはは……っ」
ズイッと接近して、俺の後方に回ろうとするポッポちゃん。
両手で美尻を守る俺。
とうとう腹を抱えて笑い出した恭也。
これが、ハルポンが何ともない いつもの状況やったら俺も力づくで阻止するんやけど、今はポッポちゃんを荒く扱えんのよ。
「葉璃、そんな興奮したら熱上がっちまうぞ。おいで」
「うっ……」
「ありがとうございます、セナさん!」
しんどそうな顔したハルポンを、それまで黙って見てたセナさんがやれやれという風に回収してくれた。
思わず感謝の言葉が出たで。ホッとした。
ほんま、思い込んだら一直線なんやから。
だってな、セナさんに肩を抱かれても、ハルポンはまだ俺を子猫の威嚇みたいに睨んできてんねん。
あの子に限っては、その思い込みの激しさを体調のせいには出来んのよ。日常的にああなんやから。
そやから俺は、ハルポンのことが放っとけん。
持ち前の頑固さで出番に意欲を燃やすハルポンが、これ以上の被害を受けんようにせなあかん。
恭也のケツ叩いた時より、俺はハルポンを厚くフォローすんで。
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