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33♡悪意と嫉妬
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──生放送特番前日。
今日のドームでのリハーサルは、ETOILEが十時から、Lilyが十二時からの予定になってる。
CROWNは昨日リハーサルを終えてるから、三人ともが別々の仕事に行ってるんだけど、聖南だけは途中で抜けてリハーサルが終わった恭也とついに〝直接対決〟するんだって。
俺はちょうど、Lilyのリハーサルと被っちゃうから現場には行けない。
何回も何回も「俺なら大丈夫です」って言ってるのに、心配性な聖南は今日も警戒を怠らなかった。
ヒナタに変身してからもルイさんと林さんがついててくれて、外にはボディーガードさん(未だに気配すら分かんない)も居る。
万が一アイさんの仲間がスタッフさんに紛れ込んでても、ヒナタの任務を知ってしまったルイさんが張り切ってるから、すごく心強い。
俺の心配事と言えば、襲われる事よりもこれから始まるリハーサルと本番だ。
直接対決も気になるけど、出番を前にすると自分がターゲットだとかほんとにどうでもよくなる。
ただただ、大切な出番を失敗しないようにやりきりたい……それだけ。
せっかく呼んでもらえた番組をぶち壊すような事があれば、俺は聖南の背中を追う資格が無くなる。と言う事は、俺の存在意義も無くなるんだ。
「ETOILEさーん! ステージにお願いしまーす!」
「…………っ!」
「はーい」
うっ……呼ばれちゃった。
このまま楽屋の隅っこでイジイジしてたい……! なんて、逃げててもダメ。
手のひらに〝聖南〟っていっぱい書いて、恭也にハグしてもらって、まずはETOILEのリハーサル。
がんばらなきゃ……っ。
「──暑……」
音響と照明、立ち位置等々のチェックで、二曲を三回連続で通すとさすがに疲れる。
レッスン着だからそんなに暑苦しい格好ってわけでもないのに、今すぐシャワーを浴びたいくらい汗だくになった。
ドームのステージは広くて、おまけに空調も効いてる。
隣で長袖のスウェットを脱いだ恭也も汗をかいて、少し息が切れていた。
「衣装じゃないだけ、マシだね」
「うん、ほんとにそう」
ステージ上で、休憩も兼ねた一旦待機を命じられた俺と恭也は、真ん中に揃って立った。
黙々と忙しなく作業するスタッフさん達を眺めながら、恭也が耳打ちしてくる。
「葉璃、大丈夫?」
「何が?」
「だって今日……」
言いにくそうに声を潜めた恭也が、防水の腕時計を確認した。俺も見せてもらうと、現在十時四十分。
リハーサルに気を取られて忘れてたけど、直接対決の約束の時間は十二時だ。
刻一刻と、その時が迫ってる。
「あの……それって、俺が恭也に言いたかったことだよ。恭也こそ大丈夫? ごめんね、俺のせいで……。恭也も、知らない人と話すなんて出来れば避けたい人なのに……」
「それは、いいんだよ。葉璃のためなら、俺は何だってする。セナさんも、居てくれるみたいだし?」
「そうだね。逆に、恭也が居ないと誰が聖南さん止めるのって感じだよ」
事態解決のために、仕事を抜けてまで来てくれる聖南にはほんとに感謝だし、頼りになる先輩だと思うんだけど……。
俺の恋人として来ちゃったらマズイ。
いくつも火種を放られてる聖南を一人にするのは、絶対によくない。
「うーん……。俺に、止められるかな。セナさん、目が血走ってそう、だよね」
「確かに……。そういえばお家出るとき、「どう追い詰めてやろっかなぁ」って笑ってた」
「わぁ……それ本当? こわいなぁ。俺が、ビビっちゃうよ」
簡単に想像がついたんだろうな。恭也、口元がヒクヒクしてる。
俺も朝のつぶやきにはヒッとなったもんな。
ヤンチャ時代の荒れ狂った聖南の片鱗を見た気がして、俺はつい「暴れないでくださいね」と釘を差してしまった。
そのとき聖南は豪快に笑うだけで、頷いてくれなかったのが不安だ。でも、強面で冷静沈着な恭也が聖南のそばに居てくれるってだけで、その不安は半減する。
「恭也が真顔で居れば、みんなビビるよ」
「えぇっ? 俺、そんなに怖い顔、してる?」
「うん」
「えぇ~。葉璃も、怖いと思ってるの?」
「ううん、全然。カッコイイよ、恭也」
「あっ……そう? それなら、いいや。ふふっ……嬉しい」
「わっ、そういう笑顔もいいね! 思わずカメラ向けたくなっちゃう!」
「ちょっ……照れるから、やめて」
垢抜けた恭也は強面に違いないし、ちょっと近寄りがたいほどのイケメンになっちゃったけど、俺は全然怖くない。
指でカメラを作って、恭也の顔を撮る真似をすると照れて俺から逃げて遠ざかった。
お遊びで追いかけ回すと、恭也はもっと逃げていく。「恥ずかしいからやめて」と言いつつステージを逃げ回る強面イケメンを、俺はクスクス笑いながら追いかけた。
「コラッ、二人とも! リハに集中せんかい!」
そうやってキャッキャと遊んでると、ステージの下から現場監督さんみたいに腕を組んだ、こちらもタイプの違うイケメンが叱咤してきた。
じゃれ合ってた俺と恭也の動きが、その声にピタリと止まる。どちらからともなく顔を見合わせて、意思疎通した。
「……ルイさんに怒られちゃった」
「ふふっ……。だね」
──それからすぐに再開されたETOILEのリハーサルは、ルイさんと林さん、スタッフさん達に見守られて十一時半には終わりを見た。
「あぁ……暑い……シャワー浴びたい……」
このあとLilyのリハーサルがあるからバテてられないのに、楽屋に戻ってパイプ椅子に座るとドッと疲れが出た。
でもまぁ、今回は心配していたアレが無くて良かった。
「今回は移動が無いから……ラッキーだったな……」
「移動て何?」
俺と恭也に飲み物を渡してくれながら、ルイさんは首を傾げた。
「葉璃は、中央ステージへの移動、苦手なんだよね」
「うん……」
「あぁ、その移動か。なんでや? 間奏中に歩くだけやん」
「でも花道があるじゃないですか……」
「ふふふふ……っ。可愛いよね、葉璃」
「なんで恭也、そないウケてんの?」
「前々回、だったかな? 特番で、今日みたいなステージの造りで、花道移動があったんですけど、……ふふっ。葉璃ってば、透明人間になれる布くださいって、真剣にスタッフさんに、お願いしてたんですよ」
「ぶはっ……! なんやねん、透明人間になれる布て!」
「もう……なんでバラしちゃうの、恭也」
ルイさんの爆笑は何となく予想してたけど、この話を知ってる林さんまで口元隠して笑ってる。
大勢のお客さんが両サイドから手を伸ばしてくる間を、間奏中にたった何メートルか歩くだけ……時間にしても一分とかからない。
ルイさんみたいなキャラだったら、お客さんとハイタッチでもして楽しんじゃえるのかもしれないけど、俺にはそんな余裕無い。
歌も踊りもないその一分弱だけ、素に戻ってしまうんだもん。
俺なんかがステージに立ってすみません、歌って踊ってすみません、手を伸ばされてもキラキラな笑顔さえ返せなくてすみません、って。
「ごめんね。ルイさんももう、仲間だから、楽しい事は共有したくて」
「それは共有しなくていいよ……」
「あはははは……っ!」
「ぷっ……」
「ふふっ……」
そ、そんなに面白い?
俺は今でも、本気で透明人間になれる布が欲しいと思ってるし、みんながこんなに笑う意味が分かんない。
笑われてる意味が分かんなくて腑に落ちないけど、少しも陰りのない三人の笑顔が俺はとっても大好きだ。
無事ETOILEのリハーサルが終わって、次は気の重いLilyのリハーサルが始まるから、この温かい空気を支えに頑張ろう。
嵐の前の静けさ……そんな言葉がチラついたとしても、俺にはみんながついてるんだから。
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