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30♣発覚 ─SIDE ルイ─
30♣10
しおりを挟む俺とセナさんは同時に、「そうか」と呟いた。
セナさんはどうか分からんけど、その時その場で色んな事を知った俺には、それ以外の言葉が出るはずもなかった。
しかし、──。
「えぇぇぇぇっっ!?」
ターゲットにされた張本人、ハルポンは違った。
ヒナタショックに見舞われた俺みたいに、勢いをつけてその場で立ち上がるや大絶叫した。
相当驚いてんやろな。 腹からよう声が出とった。
「ア、アイさんが……っ? えぇっ?」
頷いた社長を、大きな目が凝視した。
まばたきも呼吸も忘れてそうなほど唖然としたハルポンに、セナさんと俺がこれまた同時に「葉璃」「ハルポン」と声かけると、ようやく我に返って腰掛けた。
「アイがこのまま連絡を絶つようであれば、こちらが握った証拠をSHD側に渡すつもりでいる。 ルイ、撮影した動画を私の携帯に送信してくれ」
「分かった」
これが証拠の一つになるんなら、やっぱ撮っといて良かったわ。
咄嗟の判断を内心で自画自賛しても、こんな状況下じゃなんもスッキリせえへんかったけど。
… … …
──夜も十時を過ぎた頃。
なんや事件を解決したいと目論む刑事の気分で、さながら警察署の取り調べ室みたいやった社長室をあとにした。
二時間強の内輪会議で、俺も大体事情は分かった。
自分の抜けた穴を、まさか事務所の違う男性アイドルが埋めとるとは思いもせんかったアイによる、ハルポン潰しの全容。
本人と直接コンタクトが取れんらしく多少なりとも憶測が混じってんのやろうが、社長が顧問弁護士を使て秘密裏に入手しとった証拠は確かなもんやと思う。
俺が撮った動画の男と、SHDエンターテイメントの事務所をウロついてたという男が合致した。
そいつはハルポンの極秘任務を反撃材料やと豪語してた事からも、アイと関わってんのは明白や。
はじめはさっぱり訳が分からんかった話やったのに、徐々に形として見えてきて怖なった。
ハルポンが襲われたらどないしょ、いう怖さやない。
自らが撒いた種を棚に上げて、友人知人巻き込んで陰湿極まりない悪事を働いてんのが気色悪うて怖い。 そういう意味。
「ルイも地下だろ?」
「はい」
OK、と頷いてエレベーターの下矢印を押すセナさんの後ろに、ハルポンが引っ付いとる。
その後ろに俺が並んでるんやけど、二十センチ近く小さいハルポンのつむじを何気なく見つめてると、ヒナタちゃんはこないに小さかったっけ……と悪あがきを思た。
俺は、これまで以上にハルポンから目離されんくなった。
気配のないボディーガードは、いったいどこまで介入して守れるんか分かったもんやない。 ほんまに居るんかも定かでないし。
今月、ETOILEはデカい仕事が立て続けにあんねん。
事情を知ってしもたからには、俺も全力でハルポンの身を守ったらな。
これは決して、決して、決して、ハルポンが俺の最推し〝ヒナタちゃん〟やったから……やないで。
絶対、断じて違うと言い切れる。
ハルポンの事が心配やからや。
一番しんどい時に俺の心のオアシスやったヒナタちゃん。
秘密を守り通しつつそばにおって励ましてくれたハルポン。
その二人が同一人物なら、ダブルで恩返しせなあかんやん。 雷に打たれたような衝撃をいつまでも引きずってる場合やない。
「あ、あの、……ルイさん」
エレベーターで地下駐車場に着くなり、ショボンと肩を落としたハルポンが俺の上着の袖を引っ張ってきた。
「ん、なんや?」
「……あの、……」
聞き返さんでも、ハルポンの顔見たら何を言い渋ってんのか一発で分かった。
別れ際、一回くらいは謝りたいと思てんやろ。 どこまで真面目やねん。
……可哀想なツラしよって。
「言わんでええよ」
「……え、……」
「ごめんなさい、言う気やろ? そんなん言わんでええ言うてんの。 そら天と地がひっくり返るくらいの衝撃受けたけど、事情があったんやろ? それはまた明日にでもゆっくり聞くわ。 そやからな、……そんな顔せんでよ」
「うっ……」
下唇出してるハルポンは、ヒナタちゃんの面影を見てるわけとちゃうのにえらい可愛く見えた。
我慢できんとほっぺたを摘んだると、もっと下唇が出てきて笑てもうた。
傍らに立つセナさんからビシバシ視線が飛んできとるけど、今はハルポンの罪悪感を消したるんが最優先。
構わず俺は、存分にほっぺたをプニプニした。
「ハルポンは俺の秘密をセナさんにも言わんと黙っといてくれたほど、口が堅くて義理堅い男や。 言われへん事があって俺と接してるのツラかったやろ? 無理させてすまんかったな」
「そ、そんな……っ、なんでルイさんが謝るんですか! 悪いのは俺です、俺が……っ」
「それ言うたらハルポンも悪くないやん。 てか俺らはなんも悪くない。 な、セナさん」
「……そうだな」
「ほら、セナさんもこう言うてるし。 ハルポンがそんな顔してたら、俺も帰るに帰られへんから。 スマイルやで、ハルポン。 スマイル」
「…………っ」
ついには両方のほっぺたをプニプニして、無理やり口角を上げたった。
それにしてもやらかいな。
触りたいと思た事なんかなかったんやけど、無性に離れがたくて困った。
そやけどセナさんが見とる。 めちゃめちゃ見とる。
物凄い威圧のオーラ放ってへんか、セナさん。
ただほっぺたプニプニしてるだけやのに……ぶん殴られるんちゃうかと背筋が寒なってきた俺は、じわっと腕を下ろす。
するとハルポンがまた、俺の心をムズムズさせる目して迫ってきた。
「ルイさん、……明日も普通に仕事に来てくれますか……? 加入の話、無かったことにしたり……しませんか……?」
「せえへんよ! 何を言うてるん」
「だって……っ、だって俺っ、ルイさんにいっぱい嘘吐いてた、から……!」
「時には必要なウソもあんねん。 そうですよね、セナさん」
「間違いねぇ。 俺も葉璃にはウソ吐かれてたし。 でもあれも必要悪だったんだろ、葉璃にとっては」
「えっ!? お、俺が聖南さんに……っ?」
「そらそうやろ。 俺のばあちゃんの事でセナさんにウソ吐かしてしもた。 俺との約束を守るためやとはいえ、あの時はすんませんでした」
「何とも思ってねぇから謝んなくていい。 葉璃もルイも、これでお互いの秘密は無くなったんだ。 まだ解決したわけじゃねぇんだから、あとはこれからどうしてくか、それを考える事に徹しような」
「そうっすね」
「はい、……っ」
さすがセナさん……オトナやな。
明らかに嫉妬バリバリの目しとったのに、言う事はマジの正論で男前で……痺れるわ。
二人の関係を知らんかったら、去って行くのはただの先輩と後輩。
けど要らんことに、俺は知っとる。
家帰ったら間違いなく、テレビにかじりついて毎晩の楽しみを遂行するやろうが、きっともう今までと同じ気持ちで観る事は出来ん。
ヒナタちゃんがハルポンやったいう事は……セナさんは俺の心のオアシス二人ともを独り占めしてんねんで。
なんや、この凄まじい敗北感は。
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