狂愛サイリューム

須藤慎弥

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30♣発覚 ─SIDE ルイ─

30♣9

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「ヒナタちゃんが、ハルポン……」


 何回繰り返そうが、なかなか受け入れられんかった。

 そんな事がほんまにあるんかって疑いと、ヒナタちゃんが存在せんという悲しすぎる現実を、同時にかつ瞬時に理解せえとは何とも無理な話。

 極秘任務はまぁええわ。 いや、よくはないし経緯もむちゃくちゃ気になるが、そんな事より俺の初恋はどうなんの。

 毎日寝る前にガン見して、やらしい話、時には妄想でアッチの世話にもなった。

 Lilyはスタイル抜群の綺麗どころが揃っとる。 ケバい女達やけど、ダンスの一体感と表情の見せ方は、ハルポンの姉ちゃんが居るmemoryの上をいく。

 息の短い女性アイドルグループ。 キツいレッスンをこなしてきたんが分かる、生き残りたいという闘志で漲ったギラついた目を、みんながみんな持っとる。

 そんな中でも俺は、急遽サポートメンバーとして入ったヒナタちゃんに釘付けやった。

 初めて会った日に一目惚れしてからずっと、ほんまにずっと、ヒナタちゃんだけを見とった。

 あわよくば仲良うなりたいって、下心アリアリで出待ちまでして。 ばあちゃんの事で沈みかけた心が、ヒナタちゃんを推してる間は平気でいられたから。

 ヒナタちゃんは、俺の心のオアシスやった。

 ……それなのに実は存在せんて。

 そんなんすぐに受け入れられるわけないやん。

 ここに居るハルポンとヒナタちゃんが、頭ん中でどうやっても繋がらんねん。

 やらかい感情で満たされとった心の持っていき場がないねん。


「………………」


 ヒナタショックから立ち直れん俺のせいで、社長室に沈黙の時がいくらも流れた。

 社長にもセナさんにも、そんで目から〝ごめんなさい光線〟を浴びせてくるハルポンにも、時間取らせて悪いと思てる。

 ただそう思てるだけで、俺はしばらく棒立ちになってハルポンを見つめた。

 そんな泣きそうな顔してんと、いっそ「ドッキリでしたー」て言うてくれんかな。

 ……言うわけないか。


「──混乱させて申し訳ないが、その説明は後だ。 ルイ、お前に接触してきた者は男だったのだな?」
「そうやけど……」
「何か証拠となるものはないか」
「動画撮った。 小さくやが顔も映っとる」
「でかした」
「……せやろ」


 話を進めよういうんやな。

 ゴホンと咳払いした社長に「座りなさい」言われて、とりあえずハルポンを見つめたまま腰掛けた。

 そうや……この場は、俺を仰天させるためにあるんやない。

 本題をすっかり忘れ去ってしもてたわ。


「うちとSHDの秘密というのは、今話した通りハルが素性を隠しLilyのサポートメンバーを担っている事。 ハルは離脱者の穴を完璧に埋めてくれ、これまで類を見ない両事務所の巨大な極秘事項を抱えながら通常の仕事もこなしてくれている。 今月のアリーナでの特番を最後にその任務を終える予定だが、SHD側は離脱者であるアイとの連絡が未だ取れていないと嘆いておって、……」
「はぁ? まだ音信不通なのか? 何してんだSHDは」


 眼鏡を外したセナさんが口を挟む。

 俺はまだちょっと話を聞くモチベーションではないんやが、ハルポンが危険にさらされとる現状で一番ヤキモキしてるセナさんは、とにかく事態解決だけを見とる。

 深いため息を吐いた社長が、やれやれと言わんばかりに眉を顰めて腕を組んだ。


「アイは男性問題での離脱。 加えて連絡を絶つという不義理。 メンバー内もそうだが事務所全体の彼女への不満は最高潮に達しているのだろうな。 このまま連絡が取れなければ、アイはLilyを脱退する事になる。 彼女がそれを望んでいなくともな」
「はぁ……」


 今度はセナさんの深いため息で場が凍り付いた。

 表向きはケガした言うて離脱したアイって女は、男関係で揉めたうえに事務所との連絡を断ってんのか。

 まぁLilyはヒナタちゃん……いや、ハルポンに陰湿な嫌がらせしとったくらいやし、少なくともメンバー間の関係は良好とは言えんかったんやろ。

 今思い出しても腹が立つ。 抱えとる不満を無関係の者にぶつける性根が気に食わん。

 あれがハルポンやったって言われても、まだ全然繋がりはせんが。

 って、……ん? そういやおかしいな。

 セナさんが犯人の名前を明かせと詰め寄った時、社長は、まずは俺に極秘任務についてを話さなと言うとった。

 俺がこの場におって、男から妙な事を聞いたと話してもうた以上、隠されへんかった……ていうんは分かる。

 そやけど切り離して話す事も出来たやん。

 それはそれ、これはこれ、なんやから。


「なぁ社長。 ……なんで、その秘密を俺にバラさんと犯人の名前が言えんの?」


 つまりそういう事やろ?

 事務所間の極秘任務は誰にもバレたらあかん事やったのに、男は反撃のネタやと息巻いとった。

 社長の知る犯人と男が繋がってるとして、その極秘任務を知り得る人間は誰かっちゅー話。

 マスコミ連中にこのネタを握られたら、真っ先に大塚にタレコミが入るはずやのにそれは無さそうやからな。

 自ずと犯人は絞られてくる。

 ニメートル先で、ハルポンとセナさんが顔を見合わせた。


「あ……」
「確かにそうだな。 社長に任せるって言ったのは俺達だけど、別にヒナタの話は後でも良かったよな」
「……てことは、……どういうことですか?」
「犯人はSHDの関係者。 そうだな、社長?」
「それしか考えられんやろ」
「えぇっ!?」


 いやハルポン、驚くんかいな。 何かに気付いたみたいにハッとして、セナさんと顔見合わせてたやん。

 頭の回転が早いセナさんは、今も俺の質問の意味を即座に理解して推測を立てた。

 ヒナタショックの真っ只中におる俺も、働かん脳ミソをフル回転させる。

 SHDの事務所関係者のうち、ハルポンを陥れようとする輩なんか限られてるよな。 それどころか的は絞られまくる。

 あ、……と脳裏に一人の人物の名前が浮かんだ瞬間、俺とセナさんは目が合った。

 おそらく同じ名前がよぎったんや。

 すると社長も動いた。

 デスクの一番下の引き出しから、USBのメモリスティックを取り出す。 そしてどこぞの藩主よろしく、印籠のようにしてそれを俺達に見せてきた。


「その通りだ。 こちらで特定した犯人は……〝アイ〟。 証拠も揃った」




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