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30♣発覚 ─SIDE ルイ─
30♣5
しおりを挟むちょっと前に社長と会話したハルポンによると、きな臭さしか漂わんあの件のほんまのターゲットは、どうやらセナさんやないという。
誰かがハルポンを陥れるために動いてるとは、なかなかに信じがたい話。 しかもどういうつもりなんか、なぜか犯人を明かさん社長も社長やし。
そやけど、こうして実際にハルポンの何かを探ろうとしてる輩が居るいう事が判明した。
信じがたいとか言うてられん。
確実に何かが起こってる。
そんなん……めちゃめちゃ怖いやん。
コソコソコソコソ、誰の差し金であんな事やこんな事してんねん。
猛烈に気色が悪いて。
「オイお前、いつから俺を尾けてたん?」
「……っ、……っ!」
やつれた男の細い首根っこを捕まえた俺が、これを聞くんは五回目。
見た目によらずしぶとい奴で、なかなか口を割らん。 おまけに隙をついて逃げようとしやがる。
通行人から怪しまれんよう、人が来たら男と肩組んで、ダチとじゃれてるだけですよアピールを三回はした。
ハルポンが妙な事に巻き込まれるかもしれんと思うと、解決の糸口になりそうなこの男から情報を聞き出すまで、絶対に解放するつもりはない。
「はぁ……。 この調子やと、夜が明けて朝がきて昼になってまた夜がきそうやな」
「…………っ」
「俺は平気やけど、お前の体力がそれまで保つか?」
「……は、離せ……っ」
「おっと……。 逃げられんよ。 こう見えて俺結構鍛えてるからな。 腕力はともかく体力はバリバリあんで」
今は己の体力自慢なんかしてる場合ちゃうんやけど。
男も意地になってるから、俺も無意識に語気が強なってまう。
「なぁ。 なんで今、俺に声かけたん?」
「………………」
質問を変えても、男はだんまり。
このタイミングで俺に接触を試みたんは、何か理由があるはずやろ。
黙り込んで口を割らんのも、単独で動いてるわけやなく他にも仲間が居って、そいつを庇ってるとしか思われへんやんか。
そうなるともっとハルポンが危ない気する。
ターゲットがハルポンやって信憑性が増してもうたから、問い詰めんと気が済まんかった。
「こっそりあと尾けてたんやろ? そうせないかん理由があったからやないん?」
「…………っ」
いや待て。
よう考えたらコイツ、ダイレクトに俺とハルポンの関係はどないやって聞いてきよったな。 普通はそんなん想像もせんやん。
もしかすると、二人の関係がすでにバレてんのか……?
ゴシップ記者のごとく複数人で協力して尾行すれば、二人が同棲してる事実を握られてまうのも時間の問題。
ほんまはそうして裏取りしたかったが、セナさんのお父さんが雇ったボディーガードとやらが有能過ぎて動かれへんくなった──そう見るのが妥当やわな。
証拠が無いまんまマスコミにリークしたところで、事務所とセナさんが否定したら単にコイツらが赤っ恥かいて、最悪……名誉毀損で訴えられてまう。
……すべて確証はないが。
そこで俺は、まったく喋らんくなった男にカマをかけてみる事にした。
「はは~ん、なるほど。 俺に接触してきたって事は、そっちサイドは八方塞がりな状況になったとみてええんかな? それか、動かなどうもならへん事情が出来たか? 間違うてる?」
「…………」
「合うてんのやな」
掴んでる首が、緊張で強張った。
まだ確定ではないが、コイツ(と協力者)はほぼ間違いなく、セナさんとハルポンの関係を裏付ける証拠を欲しがってんのや。
どこからそんな噂を得たんか知らんけど、男同士、アイドル同士、事務所の先輩後輩……ハルポンを失脚させるには充分過ぎる、超ド級のネタには違いない。
被害はそれだけやない。
巻き込み事故でセナさんもCROWNも、大塚芸能事務所も一斉に叩かれかねん。
これが明るみになったら、マジでヤバイ事になる。 そんだけのネタや。
「……そうか、分かった。 お前がそんなに口割らへんのなら、こんまま大塚の事務所に行こか。 警察でもええけど」
「け、警察……っ!?」
「俺のこと尾けてたん、一日や二日やないやろ? 何日もストーキングされてたやなんて、俺いま身の毛もよだつ恐怖を感じてんねん。 今んとこ実害は無いですけど、何のためにあと尾けられてたんか調べてくださ~い!殺されでもしたらかなわんです~!言うてな」
「そんな事できるわけ……っ」
「ほんまに出来んと思う? てか事務所が動いてへんとでも思てんのかな。 それやったらお前んとこの親分はだいぶおめでたいで」
「…………っ!」
またや。
やつれたコイツは「ギクッ!」と体を強張らせて、分かりやすく動揺した。
捕まりたくも追及されたくもないんやったら、はなから俺の憶測ごときでビクビクするような行動せんといたらええのに。
誰かに動かされてんのやろ、どうせ。
「お前なぁ……こういう事すんの向いてないぞ」
「…………っ」
「とりあえず事務所行こか。 警察行くんはお前の話聞いてからで……」
「こ、ここ、こっちが何も知らないとでも!?」
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