狂愛サイリューム

須藤慎弥

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29★発覚 ─SIDE 恭也─

29★

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─恭也─



 ついさっき、セナさんから連絡を貰った。

 水瀬さんとアイさんの件についてだ。

 結果、無関係の他者からの依頼では、たとえ弁護士と名の付く者であってもこの件に関する情報開示は無理らしい。


『──そういう事なんだよ。 ごめんな、俺も無知でさ』
「いえ、謝らないでください。 ありがとう、ございます」


 仕事も、例のゴシップの件でも忙しい最中、律儀なセナさんは俺にまで気を使う。

 本当は四日も前にそういう回答があった事を知っていたけれど、俺とセナさんの連絡がすれ違っていて報告が遅れたと、とても申し訳無さそうだった。

 降って湧いた偶然の一致がすごく気にはなる。 けれど、こればかりは仕方が無い。

 これ以上深入りすると事務所にもセナさんにも迷惑が掛かるかもしれないし、俺の疑問はひとまず胸の中にしまっておく事にした。

 そうこうしていると水瀬さんの撮影が終了してしまって、さり気なく情報収集する術もなくなった。


「あ、……」


 考え事をしていて、うっかり〝ETOILE〟の楽屋を通り過ぎていた。
 
 貼り紙には収録番組名も記されている。

 すれ違ったスタッフさんと挨拶を交わして、大好きな親友の待つ扉を開いた。

 この瞬間、毎回胸がドキドキする。


「葉璃ー」
「……っ! 恭也!」
「葉璃、会いたかったよ」
「……俺もっ」


 楽屋に入って来たのが俺だと分かった瞬間、ポツンとパイプ椅子に掛けていた葉璃が立ち上がって飛びついてきた。

 その微かな衝撃が心地良い。

 柔らかく抱き締めてあげると、葉璃の腕が俺の背中に回った。

 こんな事をしていたら、またルイさんがヤキモチ焼いて「俺もハグしたい」って言うんじゃ……。

 今にも声が聞こえてきそうなのに、そういえばこの楽屋には葉璃しか居なかった。


「あれ、ルイさんは? 打ち合わせ?」
「弁護士さんと話があるからって、午前中で帰っちゃった」
「そうなんだ?」
「うん……」
「葉璃、寂しいの?」
「えっ? いやいや、そんな……」
「寂しそうに、見えるけど」
「えぇっ?」


 ルイさんの名前を出すと、見るからにしょぼんと肩を落とした。

 その話はしてくれるな、と言いたげに見えたんだけど、気のせいなのかな。

 どうしても俺達とハグしたがるルイさんと同じく、それは俺も妬いちゃうよ。

 伏し目がちになった葉璃を、少しだけ問い詰めるように黙って見詰める。 ……こういうところが異常だって言われる所以なのかもしれないけれど、葉璃の二番目は俺で居たいんだから言い訳なんかしない。


「恭也が来るまで一人だったから……心細かった、かも……」
「……そっか」


 ……うん。 こんな可愛い事言われちゃ、やっぱり言い訳なんか出来ない。

 ルイさんが帰ってしまった事と、俺が来るまで一人ぼっちだった事で寂しかった葉璃は今、そうじゃなくなったって意味に捉えていいんだよね。

 こうして葉璃が俺を自惚れさせるから、会う度に大好きの気持ちが大きくなる。

 対面じゃなく隣同士で座る俺達は、世間では危ない関係に見えてるみたいだけれど、あながち間違ってないんだよなぁ。

 葉璃からペットボトルのお茶を手渡されて、微笑む。 葉璃も、微笑み返してくれる。

 言葉が要らないって、すごく幸せで素晴らしい事。

 でも葉璃とのまったり優しい時間は、毎度あっという間だ。

 打ち合わせを終えて、収録までの空き時間に再び楽屋へと戻った俺達は、示し合わせたかのようにまた隣同士に腰掛けた。


「──そうだ。 あのゴシップの件って、進展あったの?」


 台本を捲りながら、何気なく聞いてみた。

 セナさんと連絡を取りたくてもすれ違いだったほど、俺はこの一週間、何なら来週明けまで撮影が大詰めで。

 葉璃とも簡単なメッセージのやり取りしか出来なくて、話をしたくてもゆっくり時間が取れなかった。

 水瀬さんの件と並行して起こった、とんでもない裏がありそうなこの件も、ずっと気になっていた。

 セナさんに頼まれたわけでもないのに、俺が出しゃばって動いた事が裏目に出ていないといいけど。


「あぁ……ううん、まだ社長さんからの連絡は無いみたい。 でも協力してくれる人が増えたから、聖南さんも俺もそんなに危機感無くて……」
「そうなんだ。 やっぱり、神崎さんは、黒なのかなぁ」
「怪しいんだけどね……証拠集めてるから、犯人はまだ言えないって」
「えっ? 犯人、もう、分かってるの?」
「うん、実は……」



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