狂愛サイリューム

須藤慎弥

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27♡不穏な影

27♡7

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 ……何なの? もしかしてまた写真が届いたとか?

 あ、でも俺がこの事を知ってるかどうかを社長さんは知らないかもしれないから、ゴシップの件とは関係ない別の話題で呼び出されたのかな……?

 いやいや、ルイさんに溢していたという聖南への気持ちが本心なら、修復のために俺に間に立ってほしいとか、そういう話……?

 いやいや、社長さんが俺なんかにそんな事を頼むはずない、よね……?

 いやいや、社長さんに裏切られて傷付いた聖南がどんな行動を取るか分かんないと、困り果てて俺に助っ人を……?


「……いやいや、……いやいや、……」


 考えたって分かるはずのない事を、ぐるぐる巡らせた。

 相手が社長さんだろうと、聖南を傷付けた人って認識になっちゃってる俺はいざ面と向かうと感情的になってしまいそうだ。

 聖南の許可なく直談判禁止だって言われてるし、俺はいつ自分が爆発しちゃう分かんないしで、この十日の間も極力事務所での滞在時間を減らしていた。

 バッタリ出くわしでもしたら、その瞬間社長さんに「どういうつもりなんですか!」と食ってかかりそうな自分が怖い。


「社長なんて?」
「……仕事終わり、重要な話があるから来なさいって」
「重要な話……。 なんや俺は居らん方が良さそうやな」
「………………」
「よっしゃ、ハルポン。 社長室行く前に俺と通話繋ぎっぱにしといて、話聞かせてや」
「えっ……」


 通話繋いだまま……? それどこかで聞いたような……って、そうだ! 聖南がお父さんと再会する時だ!

 聖南の精神状態を心配したアキラさんと社長さんが通話を繋いだままに、俺は隣室の会話を聞いていて。

 取り乱した聖南が暴れだしたらアキラさんがすぐに助けに行けるようにって事だったけど、あの時、聖南は暴れるどころか長く胸に秘められていた切ない心情をたっぷり吐露していた。

 その張り裂けそうな寂しい思いをリアルタイムで聞いてしまった俺は、当人よりもわんわん泣いちゃって、最終的には我慢できなくなって聖南のお父さんに怒鳴っちゃったんだっけ……。

 そういえば今回も、あの時と何となく状況が似ている。

 だから今どんなに冷静でいても、目の前に社長さんが居てほんの少しでも聖南を疑うような発言をしたら、……俺は……我慢できる自信ない。

 黙りこくった俺に、あの日のアキラさんと重なるルイさんがニヤッと笑って見せた。


「盗み聞きとは少々気が進まんが、しゃあない。 社長がハルポン呼び出したいう事はよほどの要件やで。 首突っ込む言うたやろ? ヤバなったら俺すぐ駆けつけたる」
「ルイさんはどこに……?」
「駐車場で待機しとくわ」
「そんな……っ! い、いいんですか?」
「ええよ。 今日は特に用事ないし」
「……ありがとうございます……」
「ハルポンの助けになれるんなら安いもんや。 しばらく動き無かったしな、進展あったんかどうか俺も気になってたんや」
「……はい」


 俺もです、と頷いて一分と経たずスタッフさんからお呼びが掛かり、ルイさんと収録スタジオに舞い戻る。

 再開された収録中、社長さんの〝重要な話〟が何なのかずっとぐるぐるしちゃって気もそぞろだった。

 カメラの向こうに居るルイさんに、無意識に何回も視線を送ったんだけど、その度に〝集中しろ〟という意味なのか眉間にシワ寄せて怒られたくらいだ。

 何せ堂々と首を突っ込むと言ってくれたルイさんは、社長さんとも通じてる。

 夕方、事務所の駐車場に到着したという社長秘書さんへの連絡を買って出たルイさんに、つい頼ってしまう俺は困惑と緊張の最中に居た。


「──じゃあ、行ってきます」
「おう、……もう電話繋いどこか」
「分かりました」


 俺からの着信をその場で取り、グーサインをしたルイさんに頷いてスマホをポケットにしまう。

 冷や汗をかいてしまいそうな緊張感でドキドキする胸を押さえながら、エレベーターに乗った。

 社長室は大塚芸能事務所ビルの最上階。 増えていく数字と上を向いた矢印の動きが、いつもより早く感じた。


「……失礼します」


 秘書室の扉をノックして開くと、俺と聖南の中で疑惑の人となった神崎さんがデスクから会釈してきた。

 充満する女性ものの香水の匂い。 この匂いは嫌いではないけど、ここに数秒滞在するだけで服に移り香が残りそう。 すでに鼻には残った。

 毎日キチッとしたスーツに身を包んだ神崎さんが、何となく息を止めた俺を社長室の扉前に導いてくれる。

 ……この人がゴシップの真相を知ってる人、なのかな。

 だとしたら社長さんも騙されてるんじゃ……と、何度となく考察した根拠のない憶測が喉まで出かかる。


「失礼いたします。 社長、倉田葉璃さんがお見えです」
「……お疲れさま、です……」
「ああ、来たか。 ……君は下がっていなさい」
「はい」


 いつにも増して強面の社長さんが、にべもなく神崎さんを退室させた。

 それを見計らい、扉前で立ち竦んだ俺に向かってソファを指差した社長さんから着席を促される。

 手前側のソファに座ってふとローテーブルの上を見ると、そこにはすでに湯気の立つお茶一つと、こじんまりとした器が置かれていた。 器の中身は、色鮮やかなあられ。

 美味しそうだけど今はとても、どちらにも手が伸びない。


「突然呼び付けてすまない」
「いえ、……」
「早速だがハル、セナから諸々の話は聞いているか?」


 う、っ……やっぱりその話か。

 ……平常心、平常心。 キレちゃダメ。 落ち着いて。

 まずは話を聞こう。 聖南の気持ちが最優先だけど、両者の言い分を聞かないで爆発しちゃうと俺はただの短気者になってしまう。


「…………はい」
「それならば話は早い。 この件の当事者にあたるのはセナではない。 ハル、君だ」


 ……え?



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