狂愛サイリューム

須藤慎弥

文字の大きさ
上 下
278 / 539
27♡不穏な影

27♡3

しおりを挟む

… … …



「……え? ルイさん、今なんて……?」


 まだ時間的に局に行くのは早いし、ドライブ日和だから一時間くらい車を走らせようかって提案してくれたルイさんが、社用車を運転し始めて十分後。

 俺は後部座席で流れる景色を追いながら、他愛もない会話をしてた最中に突然、ルイさんの口から思わぬ台詞が飛び出した。

 思わずバックミラー越しにルイさんを見詰めると、ルイさんもチラッとだけ見返してくる。


「やからぁ、トップアイドル様々のセナさんが、あんなゴッツい特ダネを正体も明かさん誰かに掴ましたらあかん言うてんねん」
「……えっ、いや、……えっ?」


 聞き間違いじゃなかった。

 い、いやだって、これは昨日の話なんだよね?

 なんで……っ? なんでルイさんまでその事を知ってるのっ?

 恭也といい、ルイさんといい、どういう情報網でそれを知ったのっ?

 あまりに吃驚して、俺は口が半開きのまま運転中のルイさんの後頭部を凝視した。

 いいお天気の下、呑気にドライブなんてしてる場合じゃない。 この特ダネがすでに色んな人に知られてるのなら、差出人不明の謎を暴く前に世に出てしまうよ。

 愕然とした俺とミラー越しに目が合ったルイさんは、「ウソやん」と小さく呟いてあからさまにマズった表情を浮かべた。


「えっ、て……ウソやん……? もしかしてハルポン知らんかったんか? うわマジか……すまん、聞かんかった事にしてくれ」
「や、やだなぁ! る、る、ルイさんってば……! 妙な冗談やめてくださいよっ」
「ほんまになぁ! こんな不吉な冗談あかんよなぁ! ハッハッハッ……」
「は、はは……」


 そうだよね、冗談だよね!

 昨日起こった出来事なのに、まさかほとんど無関係のルイさんが知ってるはずないもん!

 当てずっぽうで言っただけ。 また俺を揶揄おうとしてるんだ。

 そうだそうだ、ルイさんだったら俺を茶化すのなんか朝飯前なんだもん。


「………………」
「………………」


 都会は車通りが多過ぎて、こんな時に限って渋滞にハマる。

 車が動かないのをいい事に、ルイさんが無言で振り返ってきた。

 ビクッと肩を揺らした俺も、相手の嘘を見抜きたくてジッとしておく。

 それはルイさんも同じだったみたいで、誤魔化しきれない下手くそな笑い声はすぐに止んだ。


「……知ってるんやな?」
「……ルイさんこそ」
「知っとる」
「俺も、知ってます」


 探り合いをした結果、俺は背もたれにトサッと体を預けて脱力し、ルイさんは前方を向き直ってハンドルを握った。

 ただしミラーからビシバシ視線が飛んでくる。

 はぁ、と溜め息を吐いたルイさんが、脱力してる俺に向かって違う意味で吃驚したと明かした。


「なんやねん! 目ん玉ひん剥いてめちゃめちゃビックリ仰天の顔するから焦ったやんけ! 俺ヤバい事言うてもうたって! 脇汗ケツ汗ドッとかいたわ!」
「なっ……!? そんな怒らなくてもいいじゃないですかっ」
「なんで仰天したんや! 知らんのやと思うやん!」
「ルイさんが知ってる事に驚いたんですよ! だって昨日の今日ですよ!?」
「昨日出た話なんか、これ!?」
「そうですよ!」
「マジでか!」


 えぇっ……! 情報が曖昧なのっ?

 勢い余って肯定してしまったけど大丈夫かな……。

 なぜかルイさんが持ってる特ダネを洗いざらい吐いてもらうまで、俺は安心できない。

 そしてもし、今分かってる少ない情報の一から十まで知られてるとしたら、キツく、キツ~く、口止めしとかなきゃ。


「どうしてルイさんが……知ってるんですか? これオフレコなはず、ですけど……」
「いや昨日な、大塚社長がウチに来てん」
「え!? 社長さんが!?」
「そうや。 ばあちゃんの四十九日に来れんかったから言うて、線香上げにな」
「四十九日……もうそんなに経ちましたか……」
「先週の事やで。 俺休んでた日あったやん? あの日に骨を納骨堂に持って行ってお経あげてもろた。 まぁまだ店の権利がどうとか細かい事が終わってへんし、しばらく忙しいけど」
「そうですか……。 俺も一度、ルイさんのおばあちゃんにご挨拶と、お線香上げに行かなきゃ」
「来てくれるん? いつ?」
「えっ、いつかはまだ分かんないですけど……」


 会話をしていると、少しずつ車が動き始めた。 さっきとは違って、ゆっくりゆっくり流れる外の景色にあの夜のことがぼんやりと映る。 

 亡くなってしまったおばあちゃんが唯一の家族だったルイさん。

 こうやって今明るくお話してくれてるのも、やっぱりどこか無理してるんじゃないかなと思う時がある。

 乗り越えるまではいかないけど、思ってたより傷は浅いと言って平気な顔して日常を過ごすから……改めてルイさんは強いなって。

 聖南もそうだけど、深い悲しみや寂しさを知ってる人はとても純粋で芯がとても強いよ。 その代わり、心の一部分に誰にも補強できない脆い部分が生まれてしまうのも、免れ得ない事だったりする。


「そうやな。 セナさんが特ダネ掴まれてるうちはハルポンも気が休まらんやろ」
「……あっ! そ、そうです、なんでルイさんが特ダネの事知ってたのか聞きたいんでした! あ、どこか止まってからでも……」
「あぁ、……」


 いけない……話が脱線しちゃってたな。

 しかも、このタイミングで車がスムーズに流れだした。

 運転中に話を振るのはどうかと思ったんだけど、何も気にしてなさそうなルイさんは昨夜の出来事を詳細に、赤裸々に教えてくれた。

 逆に俺が聞いちゃっていいのかな、と心配になるくらい──。



しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

処理中です...