狂愛サイリューム

須藤慎弥

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25★ゴシップ2 ─SIDE 恭也─

25★4

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 ルイさんって……見た目によらず案外素直で真面目な人なんだな。

 オーディションや歌番組で顔を合わせた程度で、実はルイさんと俺はあんまり関わりがないから知らなかった。

 葉璃の臨時マネージャーとして、そこまで真剣に働いていたとは。

 半分ウソで、半分本当の事を語った俺は若干の後ろめたさを感じていたけれど、紙コップに注がれた何かを飲んだルイさんは「あ~」と納得の声を上げた。


「たしかに俺、仕事の件やったら色々と意見してまうかもしれんわ。 新人やからって、ハルポンほんまに選り好みせんのやもん。 きた仕事全部引き受けて、結果的に現場でチーンって魂飛ばしてんねんで」
「想像できますね、それ」
「せやろ? ……っちゅーかさ、ずっと気になっとってんけど、恭也もハルポンもいい加減俺に敬語使うのやめてくれん? 一応俺らタメやで」
「えっ……」


 いきなりそんな事を言われても。

 そういえば、葉璃も俺もルイさんに出会ってからずっと敬語だった。

 年齢が同じだと知ってからもそれは変わらず。

 そう言ってくれるのなら多少崩す事は出来ても、やはりどうしても気になるのはルイさんの芸歴。


「でもルイさん、子役の経験があるって、仰ってましたよね? 俺達にとっては、先輩にあたります」
「そんなもん何年前の話や思てるん。 経験ある言うたって三年ほどしか居らんかったし、去年まではマジで業界と関わる事無かってんで?」
「そうなんですか……。 ていうか、なぜ子役、やめたんですか?」
「あー……。 これ他言無用、オフレコやで」
「えっ」


 またオフレコ話?

 今日の俺、どうしちゃったんだろう。

 知らない間に、一日限定でゴシップ記者にでもなってるのかな。

 水瀬さんといい、ルイさんといい、業界の人ってそんなにネタを抱えてるもの?

 微かにたじろいだ俺の隣で、ルイさんが神妙に腕を組んで苦笑を浮かべた。


「あれ何歳くらいやったやろ……俺が六歳の頃やったかな? ドラマの現場でな、大物俳優Sと大物女優Kの不倫をこの目で見てもうてん。 なかなか衝撃的やったわぁ」
「……そんなに幼かったのなら、不倫って、分からなくないですか?」
「それがな、家帰ってばあちゃんにそれを言うたんよ。 SさんとKさんがチューしてたで、やらしいな!って。 そしたらばあちゃんが、「そらお前、不倫してるやん。しかも両方」やて。 不倫ってなぁに?からの、人の道教育開始や。 あの夜は長かった……」
「それが、原因なんですか?」
「いや他にもあんで。 共演者同士の蹴落とし合い、俳優の裏表、管理職のスタッフいびり……現場の方がドラマよりドラマっぽいよなぁ。 ガキの頃にそういうの見ると、オトナて何て汚いもんなんやって気持ち悪なって、やめたった」
「あぁ……なるほど」


 幼くしてそういう現場を目の当たりにしたのなら、トラウマになっていいレベルだ。

 変わった職種の大人だけの世界は子どもには分からないだろうと、周囲はそれを気にもしなかったのかもしれない。

 俺も映画の撮影に関わるようになってから、音楽業界と演技の業界はまた別ものだという事を思い知った。

 実力の他に、バックがいかに巨大かというのもこの業界ではとても重要視されているところがある。 新人の俺がのびのびと出来ているのも、事務所の名前のおかげがあったりして。

 長いものに巻かれ続ける必要はないのかもしれないけれど、多少は頭に入れておかなくてはいけない、なかなかにシビアな問題だ。


「恭也ー、ミルクティー無かったからストレートティーにしたよ。 ごめんね?」


 何故か一日でゴシップを二件抱えた俺も、ルイさんと同じような苦笑いを浮かべた時。

 ペットボトルと缶コーヒーを両手に持った葉璃が戻って来た。


「そんな、いいんだよ。 ありがとう。 いくらだった?」
「お金は要らない! 俺いっつも恭也に奢ってもらってたし」
「高校時代の、話でしょ?」
「そうだけど……。 あー、またチョコリスタ飲みたいなぁ」
「来週、買ってきてあげるよ」
「えっ、ほんと!? 嬉しい!」
「連絡くれたら、いつでも、届けるのに」
「そんな悪いよっ。 恭也は俺を甘やかし過ぎだよ」
「それが生き甲斐、なんだけどな」
「えぇ……っ」
「あーあー、お熱いなぁ。 ほんま、この部屋だけ冷房入れてほしいわ。 二人が熱々で暑くてしゃあない」


 俺にアイスティーのペットボトルを渡した葉璃が、懐かしい事を思い出させてくれて破顔した。

 葉璃に笑顔を向けた俺に、葉璃もニコッと微笑んでくれて嬉しくなる。 おまけに端から見れば恋人同士のような会話をして。

 あの頃よりも俺たちの友情が深まっているのは確かで、イチャイチャするのも、熱々なのも、致し方ない。


「はい、ルイさんの分」


 大袈裟に手で仰ぐ真似をしているルイさんに葉璃が近寄って行き、それを差し出す。

 左手に持っていた甘みの無い缶コーヒーは、言うまでもなく葉璃の好みではなかった。

 除け者を嫌がるルイさんのむくれたような表情が、一瞬にして和らいだ。


「え、なんや。 俺のも買うてきてくれたん? しかもこれ俺のお気に入りのコーヒーやん」
「ルイさん、自販機で買うときはいつもそれですよね?」
「そうやぁ。 よう見てんなぁ、ありがとなぁ、ハルポン。 俺ハルポンのそういうとこ好きやで。 ほれほれ、ぎゅータイムや」
「いやいやいや、今ぎゅータイムは要らないですよっ」
「なんでやねん!」


 よっぽど嬉しかったのか、ルイさんは葉璃に向かって両腕を広げた……んだけど、葉璃はさすがの逃げ足で俺の背後に戻って来た。

 どうしよう……俺すごくイヤな男だ……。

 葉璃がルイさんとハグをしなかった、おまけに俺のところに戻ってきた、というだけで優越感を感じてしまっている。

 これだから嫉妬深い男は……。





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