狂愛サイリューム

須藤慎弥

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24♡ゴシップ

24♡3

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 どういう顔してたらいいんだろう。

 聖南があんな決定的な事を言っちゃったなら、絶対バレてる。 ルイさんは変な推理癖があるし、勘は悪くない。

 きっと、会った直後から「知ってしもたで!」と大声張り上げたルイさんから、あれこれ追及されるんだ。

 そうしたら俺はどう返したらいい? もう、「聖南さんに聞いてください」は通用しないよね?

 じゃあ否定する? 今さら? でも肯定するのもどうなの?

 わぁんっ、どうしたらいいんだよーっ。

 ……と、全然焦ってないアイドルスマイルを浮かべた聖南の前で、俺はそうぐるぐるしかけてたんだけど──。


「ん、え、え~っと、今日は収録一本と打ち合わせか。 移動もそんな無いし、遅くとも十七時には上がれる、な。 あー、なんや。 一週間も休んでると頭も体もなまっててかなわんなぁ~! ははははっ」
「………………」


 ……ルイさん、どこ見て笑ってるの。

 台本を手に斜め上の天井を見上げて、ウソっぽい笑い声を上げてるルイさんは俺より挙動不審。

 どんな顔してルイさんに会えばいいの、と嫌なドキドキで心臓が苦しかったあの時間を返してほしいくらいだ。

 ルイさんは、気付いてる。

 俺と聖南が恋人同士だって事を、知ってしまってる。

 それをどう受け止めたらいいのか、俺に直接その話をしていいものなのか、ルイさんの方がビクビクしてるように見えた。


「……ルイさん」
「なんや!」
「い、いえ、何にも!」
「そうか!」
「はいっ」


 はぁ……疲れる。 本番前なのに、ていうかまだ朝なのに丸一日働いた後みたいに疲れた。

 ルイさんと合流して、このやり取りをするのは早くも三回目。

 動揺してるルイさんに話しかけて、大声で返事されて、怒られた時みたいに俺はビクッとして、結局何も話さず二人で謎の沈黙タイムに入る。

 これって……考えようによっては、良いのかな。

 ルイさんの反応を見る限り、しつこく追及してやるわーとか俺を揶揄って茶化したるーとか、そんなイヤな思いを一切感じない。 元々そういう心配はしていなかったけど、今日の様子でさらにルイさんへの信頼度は増した。

 信じられない事実を何とか受け入れようと頑張ってるっていうか……すごくわざとらしい笑い声を上げてる顔が、引きつって見えるのは気のせいじゃないと思うんだ。

 たった一人の身内だった、育ててくれたおばあちゃんが亡くなってまだ一週間。 まだまだ悲しい気持ちでいっぱいなはずだから、俺なんかの事で悩ませたくはないんだけどな……。


「な、なぁハルポン、……」
「……はい?」
「いや、なんでもない」
「ほんとに……?」
「ないわ!」
「あっ、すみません!」
「うっ……頼むから謝らんでくれ!」
「はいっ」


 あーもうっ。 どうしたらいいの。

 俺もルイさんも、考えてる事は同じなのにこんなに気まずくなるなんて。

 久しぶりに会えて嬉しいです、っていうその一言さえ言うのが難しい。

 お互いに気を使いながら、中身のない会話をいくつかしただけでその日の俺の仕事は終わった。

 収録番組中、司会者の女性の髪が静電気でずっと逆立ってたとか、雑誌取材の現場で出た軽食のサンドイッチが美味しかったとか、そんな話をした。

 今日は終わりの時間が早いから、聖南は迎えに来れない。 昼過ぎに届いたメッセージに、『てっぺん回る前には帰れると思う』とあった。

 それを車内で伝えると、ルイさんがギクッて顔したからもう……限界かなと思った。


「あの……ルイさん、」
「なんや!」
「ご飯、食べませんか。 俺今日おひとりさまなんです」
「えっ!? ご、ごはん……」
「気が進まないならいいです、……すみません。 ていうかルイさんまだ忙しいですよね」
「い、い、い、忙しい、ないぞ、うん」
「じゃあ行きましょ! 聖南さんにはメッセージ打っておきます」
「お、おう!」


 隠れて行くのは嫌だったから、聖南には報告しておく事にした。

 Hottiの撮影の日はいつも帰りが遅いし、スマホにもなかなか触れないって言ってたけど、合間に読んでもらえれば安心すると思う。

 事務所の地下駐車場に社用車を置いて、ルイさんの車に乗り換えた。

 メッセージを送って十分も経たずに、〝聖南♡〟から着信が入る。 見慣れてたはずのこの画面を見ると、ちょっと照れてしまうようになったのは聖南とルイさんのせいだ。


『あ、葉璃? メッセ見たけど』
「お疲れ様です、聖南さん」
『ルイとメシ行くの?』
「はい。 話、します」


 強調して言うと、聖南にもそれが何についてかを察したみたいだった。

 そして電話の相手が聖南だって分かった途端、運転中のルイさんがまたギクッて顔をしたのを、俺は見逃さなかった。


『あぁ、……了解。 俺が店予約して住所送るから、ルイに伝えてそこ行きな?』
「え……っ?」
『じゃ、また後で』
「え、っ??」


 矢継ぎ早な聖南の言葉に、俺は何も返せないまま通話は切れた。

 仕事中だっていうのは聖南の周りの慌ただしい音で分かったから、それはいいんだけど……。

 なんか引っ掛かる。 ……なんだろう?


「せ、セナさん何て? 俺殺される?」
「なんでですかっ。 聖南さんがお店を予約するから、そこに行きなさいって」
「ほう……」
「あ、住所きた」
「早いな! ちょお待ってな。 ここ路駐出来ひんからコンビニ入るわ」
「はい」


 ウインカーを上げたルイさんは、コンビニを見付けて駐車場に滑り込んだ。

 送られてきた住所を伝えてる最中ずっと、「俺殺されるんやろか」なんて物騒な事を呟いてたルイさんも、お店の名前に見覚えがあった俺も、二人して首を傾げる。

 とりあえずそのコンビニで、ルイさんが甘いコーヒーを買ってくれた。 恐縮してお礼を言うと、

「飲みもんくらい奢ってもええよな?」

……と、ドキドキした顔で俺にお伺いを立ててきたから……ちゃんと話をしてあげなきゃという気持ちが一層高まった。





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