狂愛サイリューム

須藤慎弥

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24♡ゴシップ

24♡

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『褒めて』
『えっ……?』


 喪服を着た聖南が現れた時、俺はそこがどこだかも忘れて釘付けになった。 そのままステージに上がれそうなくらい、周りにモヤがかかって聖南だけが光り輝いて見えたくらい、カッコ良かった。

 一晩離れてただけで、懐かしい気持ちになった。

 電話では渋ってたけど、ルイさんにお悔やみの言葉を言って励ましてた姿は完璧な大人に見えた、んだけど……。


『俺、我慢頑張った。 葉璃を信じた。 褒めて』
『聖南さん……っ』


 聖南が持ってきてくれた俺サイズの喪服に着替えたその時、ノックもしないで入ってきたその人は二人っきりの時だけに見せる甘えん坊な恋人だった。


『一睡も出来なかった。 葉璃が隣に居なかったから。 あったけぇ体温も、スピーって寝息もなくて、寂しかった。 眠れなかった。 マジで』
『ご、ごめんなさ……』
『謝ってほしいんじゃない。 褒めてって言ってんの』
『…………っっ』


 真顔が怒ったように見える聖南にどんどん迫られて、ついには捕まって……抱き締められた。

 後ろ髪を撫でられる。 そして、『俺の匂いがしねぇ』って不満そうに髪と首筋を嗅がれた。


『聖南さん、……あ、あの……っ』
『……葉璃、今日は一緒に寝よ?』
『聖南さん……』


 切ない声で、優しい腕で、俺の存在を確かめるようにそっとそっと抱き締めていた。

 聖南は怒ってるんじゃない。 ……甘えてるだけ。


『聖南さん、……ごめんなさい、……』
『違う』
『あっ、いや、……』


 俺は何も事情を説明していなくて、でも聖南はそれをいつからか知ってたみたいで、外泊なんか許さないって言葉の向こうには見えていたのに結局は俺の意思を尊重してくれた。

 だからって、あの聖南が平気なはずないよね。

 俺が居ないと眠れないって常日頃から言ってる聖南が、どれだけ〝我慢〟して俺を信じてくれたか。

 ルイさんと何か起こるんじゃないかっていう不安より、一人寝が出来なくなった聖南はただ寂しかったんだ。

 俺は、いきなりぐるぐるして聖南から離れるというみっともない前科ばかりだから、それも心配だったのかもしれない。

 クンクンと俺の匂いを嗅いでは、ギュッの繰り返し。 つい謝ってしまう俺の言葉に被せるようにして、『違う』と小さく首を振る。

 かわいくて愛おしい俺の恋人は、体だけ大きい子どもみたいに、俺からの撫で撫でを待っていた。


『……俺のこと信じてくれて、ありがとうございます。 たぶんいっぱい言いたい事あるんでしょうけど、我慢がんばったのえらいです。 嬉しいです』
『………………』
『聖南さん、いいこいいこ』
『………………』


 背伸びして、聖南の綺麗な髪を撫でた。

 先週からの聖南の髪型は、今までで一番短いかもしれないマッシュショート。 灰色と黒が混じった複雑な色で、目元くらいまでの前髪がセンター分け。

 かっこいい。 ほんとに、誰よりも綺麗な人。

 絵本の中の王様が座るような金ピカな椅子にふんぞり返って、何にも怖いものはないと豪語する気高い王子様みたい。

 でも、俺に撫で撫でされてご機嫌に微笑んだ聖南は、ただただ愛されていたい一人の男。 俺の前ではアイドルの仮面を脱ぎたがる、甘えん坊の恋人。


『かわいい、聖南さん。 いいこいいこ』
『今は何言われても嬉しい。 葉璃の声、聞きたかった』
『……聖南さん……』


 わぁ……シュンとした聖南ってすごく可愛いんだ。

 抱き締められた時に高鳴るキュンキュンと、二十センチ以上高い位置にある聖南の頭を撫で撫でしてるキュンキュンは、全然違った。

 完全に俺は、公私ともに守られてる立場なのに〝守ってあげたい〟だなんて生意気な事を思った。

 撫で撫でに満足した聖南から、チュッと触れるだけのキスをされた時はやっぱり照れくさくてドキドキして、顔が熱くなった。





 あの日はルイさんとおばあちゃんの最期の別れを見届けてから、俺と聖南はお互い別々の仕事に向かって、帰りもバラバラだったんだけど。

 帰ってきてからの聖南は、いつも以上に俺にくっついて離れなかった。 トイレにまでついてきて扉の前で待たれて、恥ずかしい思いをした。

 一人寝を嫌がる聖南が一晩ひとりでベッドで過ごした事を思うと何にも言えなかったし、聖南の過剰な愛情に慣れてる俺は甘えられてもキュンキュンするだけだった。

 エッチもしないで、俺を後ろから抱き締めて一分と経たずに寝入った聖南は、ほんとに一睡も出来なかったんだと知って愛おしかった。

 どんな事情があれ、もう聖南を独りには出来ない。

 ひとりぼっちだった過去を思い出させてしまうから、寂しい思いをさせちゃいけない。


「葉璃ー! おいコラ! 葉璃ー!!」
「はいはいはいっ、どうしたんですか! そんな大声で!」
「なんで俺に黙って居なくなんの!?」
「え、でも歯みがきしてただけですよっ?」
「デジャヴ! それデジャヴだぞ!」
「そうですね。 前もこんな事ありましたね」
「来いっ!」
「わわわわっ……ちょっ、聖南さんっ」
「葉璃ちゃんが早起きした日はどうするんだっけ?」
「えっ……?」
「聖南さんと甘々セックスして、イチャイチャして、それから仕事に向かう。 これテッパン」
「えぇっ!? いつからそんなルールが……っ」
「今日作った」
「そんなぁ……!」


 俺と聖南は、お家に居るときは大体こんな感じ。

 気持ちよさそうに綺麗な寝顔でスヤスヤ眠ってる聖南には、いつも忙しいんだから出来るだけたっぷり睡眠を取ってほしいと思ってる。

 でもそれは、聖南にとっては大きなお世話。

 ここに引っ越してきてからというもの俺ひとりのプライベートな時間は皆無に等しいけど、聖南の愛情に埋もれていたい俺はこの甘い縛りが心地良くてたまらない。

 甘えん坊な聖南の事が、大好きでたまらない。





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