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23♣悲嘆と希望 ─SIDE ルイ─
23♣5
しおりを挟むハルポンは綺麗好きに違いないんやろうが、髪を乾かすのは究極にめんどくさがった。
入れ違いに俺もシャワー浴びて出ると、ハルポンは適当に髪拭いて、俺が貸したジャージをブカブカに着こなしてテレビを観ていた。
しゃあなしに、ハルポンの髪は俺がドライヤーで乾かした。 柔らかい髪やった。 覗いた首筋が細くてちょっとエロいなと思ったことは内緒や。
そっからファミレスに移動した。
夜は大食いが発揮されるハルポンの食べっぷり。 定食二つとパスタを一つペロッと完食したのはマジで圧巻やった。
あんなのどこに入って行くねん。
ちっこい体にぺったんこの腹。 サラダとスープでお腹いっぱいです、と平然と言いかねん男くさくない顔。
意外過ぎておもろい。 つい見とれてまう。
俺のジャージはデカ過ぎるから言うて、袖も裾も折り曲げて着てんのもなんや可愛いしな。
今日がこんな日やなかったら、もっと浮ついた目で見てしもてたかもしれん。
……あかんな、俺。
ひとりぼっちで見送らんでええいうだけで、こんなにも気持ちが違う。
ハルポンの存在が俺の心と悲しみを軽くしてくれてんのは確かで、ばあちゃんが眠ってる棺を涙流さんと見つめられるようになったのも、ハルポンが横に居ってくれるからや。
目玉が溶けるんやないかってほど、時間も忘れて二人で抱き合って泣いたもんな。
あれが無かったら、俺は今もまだ抜け殻やったわ。
「──なぁ、ハルポン」
二時間前と同じパイプ椅子に並んで腰掛けて、しばらく経った。
ボーッと前を見据えてると、やっと思い返せるようになった時系列中のとある光景がフッと蘇る。
同じように凛と前を見とったハルポンが、こちらを向いた。
「はい?」
「俺がスタジオ着いた時、なんであんなキレてたん? ばあちゃんの事気付いたにしちゃあ、あいつらに向かってなんや言うてたよな」
「あぁ……それは……」
「なに? なんか聞いてもうた?」
「……はい。 リュウジさんが……」
「あー。 はいはい、分かった」
「俺まだ名前しか言ってないですよ」
「その名前で分かるて」
あんまり聞きたない名前がハルポンの口から出るっちゅー事は、アイツら下手こいたんやな。
ハルポンはもちろん、他人が自由に行き来出来る場所でそういう話をしてたんかもしれん。
それが運悪く最終オーディション前で、……そこでもハルポンは自分のことみたいに心痛めて激怒した。
……ほんま、お人好しが過ぎるでハルポン……。
「……ルイさん、あの日お昼寝してたわけじゃなかったんですね」
「いや昼寝してたんわマジやで」
「えっ!? そうなんですか!?」
「オフになったと思てたんやから、そらそうやろ。 でもな、あれは俺もマズかってん。 ちゃんとハルポンか林さんに、スケジュール変更あったかどうかの連絡すれば良かったんや。 社会人としてあるまじき失態やな」
「……でも……ルイさんを陥れようとしたのは事実でしょ? 偶然その話聞いた俺でも分かりましたよ。 みんなでグルになってルイさん騙して、……」
「それもな、俺が妬まれてたんやからしゃあない。 だって考えてみ? CROWNのバックダンサー兼ETOILEのハルの付き人してんねんで? 俺の実力どうこうの前に、誰が聞いてもデキレースや思うやん」
「それは……そうかもしれないですけど……」
「運もコネもこの業界では使わな損なとこあるけど、今回のオーディションの俺のねじ込みは強引やったと思うわ。 理由はよう分からんけど、社長のゴリ押しも俺にとっちゃ荷が重いし正直、……気が引けてる」
相変わらず俺は、ハルポンの前やとスラスラ本音を言うてまうな。
社長に目掛けてもろてデカいチャンスくれてんのに、こんなダッサイこと他人にはよう言わんのやけど。
ばあちゃんの病気が発覚して、もう長ないて余命宣告受けてからはほんまに何もかもへのヤル気が削がれとった。
親二人とも居らんで育った俺には、うっさいばあちゃんが唯一の家族やったから。 そのばあちゃんが居らんようなって、ひとりぼっちになるってことが不安で不安でたまらんかった。
そんな時にハルポンと遭遇して、ヒナタちゃんとも出会って。
ほんのわずかやけど、毎日の張り合いが生まれた。
ただ一つハルポンに言えんかったのは、はじめはオーディションに対しての気持ちがおざなりやった事。
〝ルイさんと一緒に踊りたい〟と言うてくれたあの時も、ハルポンは泣いてた。 皮肉な話やが、リュウジに足引っ張られてから闘志燃やした手前、俺にはあんまアイツらを責められんのや。
「あの……ルイさんと社長さんって、どんな関係なんですか? すごく親しげですよね、たまにタメ口だし……」
「そらなぁ、俺がこーんなちんまい時からの知り合いやからなぁ。 ばあちゃんスナック経営しててんけど、そこの常連やったんよ。 大塚社長だけやない。 やれ業界関係者だ、大手企業のトップだ、幹部だ、政治家だ、が仰山来ててん」
「そうだったんですか……!」
「俺こう見えて顔だけは異常に広いんよ。 みんな、俺が子役してたからや思てるんかもしらんけど、そうやない。 全部ばあちゃんのツテや」
そうなんですね、と呟くハルポンが、せつなげに棺を見つめた。
俺も自然と同じ方を向く。
ばあちゃんは呆気なく逝ってしもたけど、残してくれたもんはとても俺一人じゃ培えんかった。
見送った後も、やらなあかん事、考えなあかん事はまだ仰山あって、寂しさとも戦わなやろ。 でも今は、そんなに不安やない。
少し寒くなってきたんか、身を寄せてきたハルポンの肩を抱いた。
……華奢やな。 ほんまに男なんやろか。 って、これ言うとほっぺた膨らましてキレよるから、黙っとこ。
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