狂愛サイリューム

須藤慎弥

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18♡心構え

18♡9

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 今日はあんまり食が進まなかった。

 聖南よりは食べたけど、倍しか食べられなかった。 

 考えてもどうしようもない事がずっと頭の中をぐるぐるしてしまって、見かねた聖南から何回頭を撫でられたか分からない。

 仕方がないって言葉では片付けられない問題だけど、今の俺にはどうすることも出来ない事を四六時中考えてるわけにもいかないし……。

 だって俺にすべての権限があるわけじゃない。 だからと言ってルイさんの気持ちを無視したくもない。

 じゃあどうしたらいいの?って、考えても考えても答えは見つからなかった。

 "本当の理由" を知らない恭也の言う事は正論だ。

 あの場で俺が恭也に同意を示したのは、ルイさんの秘密がバレないようにするためだった。

 ルイさんはきっと、毎分毎秒おばあちゃんのことを気にかけてる。 それを誰にも知られたくないのなら、候補者の一人としてオーディションに参加するしかない。

 大塚社長や他のスタッフさんはどうだか分からないけど、もうすでに聖南には勘繰られてる。

 それだけの実力があるんだもん。 一番最初にヒナタで遭遇した時、迷わず "俳優さん" だと思ったくらい、ルイさんには華があるんだもん。

 一緒にダンスしてて、楽しいと思っちゃったんだもん。

 どんなにルイさんの気持ちを優先してあげたいと思っても、周りはもちろん、俺も勿体無い気がして……考えは平行線。


『葉璃がそんなに考え込まなくていい。 仕事とプライベートは分けろ。 また頭から湯気出るぞ』


 食欲の無かった俺が何でぐるぐるしてるのか、やっぱり聖南にはバレていた。

 帰りの車内でそう言われて「それもそうだな」と思った。

 俺が器用な人間だったらまだしも、一つの事に集中したら限りなく視野が狭くなる俺にあれもこれも考える余裕なんて無い。





 お家に着いて、お風呂でイチャイチャして(いっぱいイタズラはされたけどエッチはナシ)、リビングに座ってまたぐるぐるしかけた時、聖南が二週間ぶりに甘いコーヒーを作ってくれた。

 今日は聖南も、もう書斎にこもっての仕事はしないんだって。


「聖南さんの方、どんな感じですか?」


 隣で長い足を組んだ聖南に、ピタッと寄り添われて照れた。

 甘えっ子な聖南。

 俺しか見る事のできない、お風呂上がりの色気ムンムンなアイドル様はいま、俺と同じにおい。

 どうしよう。 久しぶりだから照れる。

 ……好き。


「ん? レコーディングがどんな感じかって?」
「は、はい。 順調ですか?」
「レコーディングは一昨日で終わったよ。 今はミックス作業中」
「あー……。 ミックスってあれですよね。 ちまちま、ギュッ」
「んっ?? あははは……っ! 何だそれ! 初めて聞いたんだけど!」
「…………っっ」


 お色気お兄さんがいきなり隣で爆笑したから、ビックリした。

 ミックス作業のイメージを表現しただけで、そんなに笑えるのが逆にすごいよ。

 レコーディングは録るだけじゃないと教わって、そのミックスっていう作業の内容も簡単にだけど説明してもらったことがあった。

 その辺はまるっきり素人な俺にはちんぷんかんぷんで、「そっか、いくつかのトラックに分けて録ったものをちまちまっと編集して、納得いくものが出来たらギュッとまとめるんだ」……これが俺の、精一杯の認識。

 聖南がお腹を押さえてゲラゲラ笑ってる。

 その横顔はすっごく素敵。 カッコいい。 聖南以上に笑顔が綺麗な人は居ない。

 でも俺、間違ったこと言ったのかなって恥ずかしくなってきたよ。


「そ、そんな笑わなくても……」
「ごめんごめん。 素材をちまちま繋ぎ合わせて、まとめてギュッて事な? なるほど。 うまい事言うじゃん」
「はい。 でも二度と言いません」
「なんで! 俺明日から使おうと思ってたのに!」
「だって聖南さん、めちゃくちゃ笑ってるじゃないですか!」
「葉璃がかわいー言い方するからいけねぇんだろ! かわい過ぎて和むわ!」
「な、和む……っ?」


 聖南との言い合いは喧嘩にならない。 口調は強いのに、出てくる言葉がいっつもこんな感じ。

 拗ねてた俺も一回素に戻らなくちゃならない、聖南の甘やかし……いや、俺……もしかしてあしらわれてる? 揶揄われてるのかな?

 マグカップを奪われて、コトン、とガラステーブルに置いた聖南が俺の太ももの上に乗ってくる。

 でも聖南の膝がソファに乗ってるから全然重くない。

 密着したい、甘えたい、スリスリしたいって時は大体この態勢で、聖南が俺に抱っこをせがむ。


「癒し系じゃなくて和み系だったのか、葉璃ちゃん」


 大きな体が、全体重をかけてぎゅぎゅっと抱きついてくる。

 さすがにこれは重たい。

 俺の体が、聖南からの熱量に負けてソファに沈み込んだ。

 苦しくても重たくても、俺も聖南に甘えたかったから目一杯抱き締め返す。


「和み系……和み……湯呑みで温かいお茶をずずーって感じですか、俺」
「あははは……っ! 葉璃ちゃん、今日どしたの。 かわいーが過ぎるよ」
「聖南さんとお話してるのが新鮮だからですかね?」
「新鮮~~?」
「最近、すれ違いだったから……」
「そうだなぁ。 葉璃、寂しかったのか」
「はい」
「んっ♡ 即答か。 かわいー」


 俺も寂しかったよ、と囁かれてほっぺたが熱くなる。

 聖南の「かわいー」は毎日聞いてるけど、こういう微睡みの時に言うのは卑怯だと思う。

 でも嬉しい。 聖南の声も甘さも、好き。


「ふふっ……聖南さんの「かわいー」久しぶりに聞きました。 なんか落ち着く」
「落ち着くの?」
「はい。 俺自身は全然、少しも、一ミリも、一ミクロも自分のこと可愛いとは思わないですけど、聖南さんには可愛く見えてるんですよね」
「あはは……っ、葉璃のネガティブ最強だな。 あぁそうだよ。 俺には葉璃が宇宙一かわいく見えてる」
「規模が大きくなってません?」
「いいや? 俺前から言ってるよ、葉璃は宇宙一だって」
「そ、そうでしたっけ」
「うん」


 聖南も即答だった。

 俺のどこがそんなに「かわいー」のか本気で分からないんだけど……聖南に言われると、っていうか毎日言ってもらわないと落ち着かなくなってる俺こそ、笑われても文句言えないよね。



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