183 / 539
17❥困惑
17❥8
しおりを挟む「ご存知無かったのなら、お知らせ出来て良かった」
佐々木が声を顰めた意味が分かり、聖南は唖然と佐々木を見詰めた。
"狙われている"
この業界でのそれは、聖南にはおよそ二年縁の無かったゴシップ記者等の事であろう。
「……マジ? 俺が?」
「水面下で動いてる記者が居ます。 私が裏で入手した情報なので、まだ当然、表には出ていません。 ……というより、今は裏取り中のようで」
「いや、……何の裏取りだよ」
「セナさんの恋人探しが始まっている、と見て間違いないかと」
「は、……? マジかよ……」
怪訝な表情を浮かべつつ、それほど驚いてはいない聖南は常日頃からマークされる対象ではあった。
例のスキャンダルが明るみに出る前は、それこそ毎日のように何かしらから追い掛けられていた。 その生活に慣れてしまっていたがゆえに、好き放題していた消去したい過去もある。
これを記事にしたところで世間にも業界にも大した衝撃は与えられないと、ゴシップ記者からもそのような判断をされるほどに無茶苦茶だった。
しかし恋人がいると公言し、まったく遊ばなくなった聖南はスキャンダルになりようがない。
葉璃と付き合い始めてからも、何度か自宅前や現場から帰宅する様子を張られていた事がある。
怪しげな車が居たとしても、地下駐車場のあるセキュリティーが万全なマンションに引っ越してからというもの、危機感が薄まっていたのは事実だ。
彼らが今さら何を狙うのかと言えば、餌食は "CROWNのセナの恋人" しか考えられない。
たとえそれが一般人であったとしても、撮った時点で大スクープである。
いつ動き出すか戦々恐々としていたが、よもや二年も経った今頃になって追い始めたとは何やら合点がいかない。
「恐らくですが、周辺を嗅ぎ回っているのは前回セナさんのスキャンダルを報じた記者です。 事務所を通さずに直接局にタレこむ可能性が高いので、用心してください」
「なんかブツが回ってたりする?」
「いえ、そこまでは分かりませんが……。 セナさんが恋人の存在を隠していない以上、相手の特定が始まっていても文句が言えません」
「一応やめろって言ってんだけどな。 んなの……無駄だわな」
「はい。 あともう一つ」
「え、まだあんの?」
ピクッと片眉で反応した聖南に、佐々木は、こちらの方が大事だと言いたげに能面のように変わらなかった眉を顰めた。
「ヒナタが業界内外から注目され始めています」
「………………」
「これは、彼女の素性を一切明かさないとしている、SHDの内部がどれだけ耐えられるかにかかっています」
「……はぁ……」
腕を組んだ聖南は僅かに項垂れ、指二本で眉間を押さえる。
頭痛がしてきた。
同時にこれほどの大問題が二つ……いや聖南には三つも発生するなど、これまでの芸能人生では一度も経験した事のないピンチに見舞われていると言っていい。
表向きは怪我によって一時離脱したとされる、アイのサポートメンバーであるヒナタ。
番組出演時のトークを全カットしているため、Lilyのファンからどんな問い合わせがきても「ヒナタはサポートメンバーのため応えられない」という回答をしてきたSHDエンターテイメントは、この秘密を守りきらなければならない。
決して大手とは呼べない芸能事務所。
ほんの少しの圧力で潰されかねない、……という事はつまり、あっさりと秘密を吐露し大塚芸能事務所にも火の粉を被らせようとしてくる可能性もある。
そうなると矢面に立つのは他ならぬ葉璃だ。
恭也とのETOILEも、彼の芸能人生も、そこで終わるかもしれない。 絶対に正体はバレてはいけないという今までの緊張感が、さらに増幅した形だ。
「今のところどこへも正体はバレていないようですが、他事務所のスカウトマンがヒナタを狙っているのは間違いありません」
「問題山積みじゃねぇか……」
「セナさんは大塚社長の姪っ子さんの事で手一杯なのに。 これからが大変です」
「……なんでそんな事まで知ってんの?」
目頭を押さえていた聖南が、佐々木をジロッと見据える。
テレビから流れてくるやかましい女性アイドルグループの歌声が、やたらと気に触った。
「私の父がそちらの幹部ですし、……私は自分で言うのも何ですが顔が広くて事情通なもので」
「……マジで樹だけは敵に回したくないな」
「私もセナさんだけは信用しています。 何しろ葉璃の大切な人ですから」
中指でノンフレーム眼鏡をクイと押す佐々木は、聖南から "樹" と呼ばれる事となった事件以降、何かと肩入れしてくれている。
葉璃の本番前に気を揉みたくはなかったけれど、忙しい合間を縫い、直に聖南と話すタイミングを窺ってくれた佐々木には素直に感謝した。
葉璃への想いはまだヒシヒシと感じるものの、彼に気を許している聖南との仲はそう悪くない。
「……樹、情報サンキュ。 知ってんのと知らねぇのじゃ大違いだ」
「いえ。 以降も私は葉璃の平穏な日々のために動きます」
「…………よろしく」
未練を匂わせながらも潔いその台詞に安心感を抱く聖南は、やはり人が良い。
ただし人を見る目だけはあると思っている。
女運がことごとく無いだけで、昔から聖南を取り巻く男連中との良縁だけは信じているのだ。
10
お気に入りに追加
226
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる