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13❥生放送本番・七月二十二日
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しおりを挟む見たくも聞きたくもなかった諍いを目の当たりにした事により、他者への嫌味でも何でもなく、自分は恵まれていると改めて実感した。
今でこそ分かるのだが、父親に放られた事務所がたまたま大手であった事はそれだけでかなりの恩恵を受けている。
放任されていたが故に居場所の無かった聖南は、そのまま辞めることなくこの世界に居座り続け、所属タレントながら一部の幹部よりも長い間事務所に在籍しているためこの手の困難にぶつかった事がない。
聖南は事務所内でも好きに発言でき、時には社長の考えにも従わない。
けれどそれは、聖南の努力や功績もあっての大胆不敵さである。
廃れかけた聖南をどうにか立ち直らせようとした、父親代わりの社長の無茶な提案『CROWN』が無ければ、聖南は今頃どうなっていたか分からない。
夢とはまた違うものを掴み、葉璃と出会う事で新たな目標を見出している聖南には、彼女らが百%悪いとはどうしても思えなかった。
愛する人を傷付けたとしても、彼だけに目を向けていては事態は何も収束しないのである。
「こいつらが葉璃にした事も、汚え感情に任せて仕事を甘く見た事も、ほんとは許したくねぇよ。 でもな、去年Lilyと仕事した俺は知ってんだよ。 こいつらにプロ意識は確かにあった。 なんでこうなったかの根本を考えるのが事務所とマネージャーの仕事なんだよ。 やらかした事の不始末はこいつらだけに取らせて終わり……それでいいのか?」
「………………」
「………………」
聖南は幹部連中をじっくりと見回した。
彼らにもきっと、言い分がある。
金も労力も注ぎ込んで、SHDエンターテイメントを背負って立つ存在にすべくLilyをここまでのし上がらせた自分達が、何故彼女らの意見を聞かなければならないのか。
ここに成田や林を同席させなかったのは、二人はおそらく事務所側の立場になってしまうと考えたからだ。
聖南の言葉はすべて、タレントとして同業者を守るために発せられたもの。
しかしそれが理解してもらえないのであれば、以前のレッスン講師が世話になっていようが知った事ではない。
以降、金輪際関わる事がないよう仕向けるだけだ。
聖南の背後に佇む葉璃は今、どんな事を考えているだろう。
せっかくの "今日" を悪い思い出にはしたくないけれど、こうでもしなくては根っこは蘇らない。
とても気にはなったが、聖南は葉璃の方には目もくれず再度Lilyのメンバーらを見回す。
ミナミは先程から啜り泣きが止まらない。
「とりあえず思ってる事をここで全部吐き出しちまえ。 あと、お前らがマジで葉璃を受け入れらんねぇなら、今日の特番を最後にこの任務からは手を引かせてもらう。 葉璃はデビューしてまだ一年目の新人だけどな、今のお前らよりはプロ意識あんぞ。 恥ずかしいと思え」
「………………」
「………………」
「………………」
「このチャンス逃したら、お前らは発言権も夢も消える事になる。 何かあったら俺が責任取るし、大塚社長にもそう言っとく。 俺は失って怖いもんは一つしか無えんだ。 いや、……そう簡単に失うような仕事はしてねぇけどな」
聖南は得意気にニヤリと笑い、Lilyのマネージャーらしき男を見た。
その目には、「お前がしっかりしなくてどうする」と滲ませておいた。
タレントとマネージャーは一心同体。 こんな事をCROWN結成前から豪語し仕事に意欲を燃やしていた成田を見習えと言いたかったが、今の彼に何を言っても伝わる事はない。
静かに踵を返した聖南は、すっかり気配を消してマネキン人形と化していた葉璃に目で合図を送る。
するとすぐにハッとしたように瞳に生気が戻り、会議室をあとにする聖南についてくる。 ……と思っていたが、足音は一向に近付いてこない。
固まって動けないのだろうかと聖南が振り返った瞬間だ。
「俺、任務辞めたくないです! 年末までっていうお約束なので、それまでは何としてでも続けたいです!」
「……ハルくん……っ」
『………………』
格好良く立ち去ったはずの会議室から、可愛い恋人のハツラツとした声が聞こえてきた。
「俺はほんとに、何とも思ってないです! あ、いや、ちょっとだけはありましたけど、でも今日のはダメだと思いました! 俺なんかが口出ししていい事じゃないのは分かってます! でも、……でも、あのっ、このお仕事は誰かを笑顔にするためで、皆さんはすごく頑張ってます! あっ、すみません、偉そうな事言って……! あの、ごめんなさい! 失礼します!」
息巻いた葉璃は、緊張のあまり声が裏返っていた。
会議室を出たところで待ち構えていた聖南の元に駆け寄ってきたのはいいが、今にも泣きそうに顔をくしゃっと歪めている。
あの場での聖南の言葉は、彼にとっては室内の重たい空気にやられて右から左に聞き流されているだろうと思っていた。
幹部連中も、Lilyのメンバーらも、マネージャーらしき男も、皆が皆呆然と立ち尽くしているのか誰一人として聖南と葉璃を追っては来なかったが、それもそのはずだ。
それぞれ思うところがあってのすれ違いで、今までコミュニケーションを疎かにしていた事務所側と、事務所に恩を感じているからこその彼女らの遠慮はほんの少しの歩み寄りで解決する。
聖南の行動が無駄骨に終わらぬ事を願うばかりだが、どういうわけか葉璃が最後のトドメを刺して戻って来た。
「ど、ど、どうしましょう……! 聖南さん、俺めちゃくちゃ余計な事言いました……!」
「……いや、そんな事ねぇよ。 いいとこ全部持っていきやがった」
「えっ……!?」
なんでですか!と小声で叫び、凶悪なまでに可愛い瞳で見上げてくる葉璃は、本当に気付いていないのだろうか。
彼女らの心を解かす一滴目の水を、他でもない葉璃が垂らして潤した事を──。
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