狂愛サイリューム

須藤慎弥

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12♡緊急任務・生放送本番

12♡5

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 ルイさんに引き止められた聖南が、「暑い」とこぼしながら振り返る。


「何?」
「セナさん、わざわざハルっぴを迎えに来るのってなんでなんすか?」
「…………っ!」


 うわっ、ルイさんってば直球で聞いちゃったよ!

 ビクッと体を揺らした俺に対し、聖南はクスクスと余裕に満ちた笑みを浮かべていた。

 まさか……俺達の関係を暴露したりしないよね……?


「……葉璃にも同じこと聞いた?」
「はい。 でもめっちゃ変な濁され方しましたよ。 これには深い理由がある、とか何とか」
「ぷっ……! あはは……っ、そうだな、その通り」
「えぇっ? セナさんまで濁すやんっ」
「だってそうとしか言えねぇよ。 なぁ、葉璃」
「……ですよね」
「何なんもう、二人して俺をモヤモヤさせて!」


 あまりにも楽しげに笑うから、勢いで暴露しちゃうのかと思ったよ……。

 俺の下手な濁し方が面白かったみたいで、聖南はそれに乗ってくれてその場は何とか免れた。

 ルイさんの車が去るのを見送ってからアクセルを踏んだ聖南にも、ちゃんと隠しておこうという気持ちがあったみたいだ。


「めんどくせぇから、ルイにはもう俺達の事バラしちまうか」
「だ、だめですよっ」


 ……そ、そんな事考えてたの? 聖南のこと見直してたのにっ。

 信号待ちで肩を組まれた俺は、眼鏡を掛けた聖南の横顔を見て「本気じゃないですよね」と呟いた。


「これだけ分かりやすく特別扱いしてんのに、気付かれねぇもんなんだな」
「まさかそういう関係だなんて思わないんですよ。 打ち明けても、信じてもらえないかもしれないです」
「そういう関係ってどういう関係?」
「えっ……!」
「なぁなぁ、どういう関係?」
「聖南さんっ」
「葉璃ちゃんっ」
「…………!! むぅ……」


 メッセージで散々ヤキモチ焼いてたっていうのに、会えばこうやって揶揄ってくるなんて聖南はほんとに変わらない。

 膨らませたほっぺたにちゅってキスしてくるところも、俺を乗せてる時は必要以上に安全運転なところも、変わらない。

 ルイさんと出くわすまでぐるぐるしてた心が、聖南に会うと思い詰める隙が無かった。

 ホッとした俺は、何気なく窓の外を眺めた。 すると「あ、そうそう」と聖南が俺を横目に見る。


「今日Lilyのリハ見たよ」
「あ……はい、……」


 葉璃が心配だったし、と付け加えられて、タイムリーな話にほっぺたを引き攣らせながら聖南に視線をやる。

 ところが聖南は、頷いた俺をルームミラー越しに見てストレートに言い放った。


「前と全然違うな。 全体的に質が落ちてる。 何かあった?」
「え……っ! 聖南さん、分かるんですか?」
「分かるって。 動きも歌も表情も死んでたし」
「…………っっ」
「もしかして、内部抗争勃発って感じ?」
「いや……あの……」
「葉璃は大丈夫か? あの感じじゃ、巻き添え食ってんだろ。 俺には全部愚痴ってよ」


 ……聖南……なんで分かるの。 どうしてリハーサルの風景を見ただけでLilyの内部抗争を言い当てられるの。

 洞察力? プロデューサー力?

 俺にはよく分からない凄い才能を、聖南はまだ隠してた。

 Lilyの中に居る俺なら、以前と違うって見分けられると思うんだ。 鏡の前で練習してる時から「このままじゃよくない」って思ってたし、聖南の言う内部抗争も目の当たりにしてる。

 ハンドルを握った聖南はマンションではなく、俺の好きな和食屋さんの駐車場に車を停めた。


「……愚痴りたいですけど、聖南さん物申しに行くでしょ」
「あ? あー、……それ聞いちまったの?」
「…………はい」
「あの時、葉璃が何をどんな風に言われたかは知らねぇけどさ、俺も我慢の限界ってやつだったんだよ。 俺の葉璃を泣かせやがって!ってのもあったけど、それ以前に仕事仲間なんだから敵対しても無意味だっつー事を分かってほしかった。 女は同グループでも派閥作って睨み合ったりすんじゃん。 んなの、めちゃくちゃ時間の無駄。  "ライバル" と "敵" は違う」


 そうか……聖南はそういう意図もあって物申しに行ったのか。

 恋人が泣かされた仕返しだって、普通ならそう捉えるよね。 現に俺も、聖南さんやり過ぎだよ……と脱力してしまったもん。

 でも聖南の話を聞くと、そうじゃなかった。 色恋に染まりきれない聖南の仕事への姿勢に、ちょっとドキドキした。


「聖南さん。 女の子は嫉妬の種類が多いと思いますか?」
「嫉妬の種類? んー……そうだな。 春香がレッスン生から妬まれて頭に怪我した事あったじゃん。 あれも嫉妬だよな。 あの子の方が可愛いとか、いい物持ってるとか、なんつーのかな……同じラインに立ってる仲間でも、自分より上ってのが許せない生き物なんじゃねぇ? それが嫉妬の種類って言い方になるのかは分かんねぇけど」
「……そういうものですか……」
「何、嫉妬がどうかした?」


 和食屋さんの駐車場に長居するわけにはいかないけど、俺は思い切ってさっきのぐるぐるの経緯を聖南に打ち明けてみた。

 ミナミさんが感じたという、メンバー達の気持ちの変化。

 事務所や俺に対する不審感が、嫉妬?に変わったかもしれないと話すと、腕を組んで真剣に聞いてくれていた聖南が「セナ」の顔になる。


「なるほどねぇ。 内部抗争勃発な上に葉璃を妬んでるわけか。 忙しいな、女は」
「聖南さんの言ってた通り、俺もLily内がこんなだからいいパフォーマンスが出来ないと思うんです。 でも俺にはどうする事も……」
「葉璃は与えられた仕事をこなしてればいい。 周りの汚い感情とか争いは見るだけ損だ。 危害加えられる前にすぐに俺に言えよ。 いつでも物申しに行ってやる」
「それはちょっと……」
「さすがにもう葉璃の断り無く行ったりしねぇよ。 葉璃が音を上げない限り、俺の出る幕じゃねぇ。 俺自らが何とかしてやるってカッコつけたのに、がんばるって言い張りやがったからなぁ、葉璃ちゃんは。 聖南さんはとりあえず見守ってます、葉璃の一番近いところでな」
「…………聖南さん……」


 料理テイクアウトしてくるから待ってろ、と俺の頭を撫でて車を降りて行った聖南の背中が、今日は一段と頼もしく見えた。

 くすぐったい。

 何だろう、この気持ち。

 聖南がカッコいいのなんてはじめから知ってる事なのに、呆気なく俺の心を締め付けていたぐるぐるを解いた聖南にドキドキが止まらない。




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