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11❥葉璃の実力
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しおりを挟む現在決まっている曲順では、ケイタの主演ドラマの番宣絡みでCROWNからケイタと葉璃の即席コラボ組が続けて披露される。
会場を使ってのリハーサル真っ只中、聖南は成田のタブレット端末で出演者リストと曲順を真剣に眺めていた。
『今回はLilyが間に入る形か……これ葉璃めちゃめちゃ大変じゃねぇか』
女優の代役という緊急任務が課せられてしまった事で、この曲順を見るからに葉璃→ヒナタ→葉璃と交互に衣装とメイクを変えなくてはならない。
それも、誰にも悟られぬようコソコソと辺りを気にして移動しながら、あまり協力が見込めないLilyの楽屋を出たり入ったりで疲労感と共に襲うであろう葉璃のストレスが心配だ。
「……ハル、完璧だな。 歌も手話も」
「あぁ。 歌もそんな指導してないんだよな。 聴くだけで正確な音程把握出来て、振り覚えも秒速ってマジでアーティスト向きだ」
舞台袖から聖南とアキラが見守る先で、葉璃とケイタは何度も歌唱しては止めてを繰り返していて、音量や反響、照明、バックモニターの映像チェック等々が入念に行われている。
葉璃はこの後、ETOILEのリハーサルとLilyのリハーサルもこなさなければならないので、帰宅は恐らく二十一時を回るだろう。
別事務所が絡むLilyの打ち合わせにも出席しなければならないからだ。
聖南がお灸を据えて以来、彼女らは直に言葉を浴びせる事は無くなったようだが、やはり葉璃の様子を見る限り状況はあまり軟化していない。
近頃は完全に「無」になれるようになったと言う葉璃は、強くなる事を余儀なくされている。
聖南に弱音や愚痴を吐いていいんだと知ってからは、この責務を全うする事だけに意識が向くようになったらしいが、未だ影武者の件に納得のいっていない聖南は目に見えない理不尽さに地団駄を踏んでいる心境だ。
なまじ緊急任務の星の下に居る葉璃が様々出来てしまうから、こんな状況になっている。
華々しく舞う姿を見られて誇らしい反面、あまりツラい現場に居させたくないと思ってしまうのは単に恋人の欲目だ。
「ハルさぁ、今日の午前中は休みだからって、手話の意味と動きを調べて合わせてたらしいじゃん。 ネガティブなんだか前向きなんだか最近分かんなくなってきたな」
「葉璃がそう言ってたのか?」
「そうそう。 さっきお前らが下ネタで盛り上がってた時、俺はハル連れて客席からステージ眺めてたんだよ。 その時に言ってたぞ」
「そっか……昨日より指の動きがなめらかだもんな」
「言われてみればそうかも」
今日はリハーサル日なので、林がそういう風にスケジュールを組んでいたのだろう。
今朝の事だ。 膨れっ面の葉璃に見送られた聖南は、「しっかり睡眠取っとけよ」と言って午前の仕事に出掛けたのだが、真面目な葉璃は聖南の言う事を聞かずに手話の勉強に精を出していた。
この緊急任務を引き受けたからには、少しでも良いものに仕上げようという努力を葉璃は怠らなかったという事だ。
手話を振付けだと思って体に入れちまえとアドバイスし、それを見事にやってのけた葉璃は心密かに自信を持ってくれているのかもしれない。
「───で? Lilyの方とはうまく兼ね合い出来そうか?」
ラストまで通して歌唱する二人を見やりつつ、アキラが腕を組んで聖南を一瞥した。
近頃よく思うが、徐々にアキラとケイタも葉璃に対し無二の愛情を注ぎ始めていて、それは恭也に迫る勢いである。
「あぁ、ちょっと不安があんだよ。 俺ら十九時と二十一時半の二回出番あんじゃん? Lilyはちょうどその間」
「ETOILEは?」
「Lilyの六組後。 間に二回CM入る」
「時間的には余裕だけど大忙しだな」
「そうなんだよ……Lilyの奴らはまったく頼りになんねぇし、ヒナタの正体知らねぇルイに任せるわけにもいかねぇし、……とにかく林に張り付いててもらうしかない」
「俺とケイタも出来る事は何でも協力するからな。 遠慮なく言えよ」
「おぅ、ありがとな」
アキラとケイタならば、聖南があれこれ指示する前に動いてくれそうで助かる。
この手の大型特番では、会場内の楽屋の数が限られているため出番が差し迫らないアーティストはすぐ傍にあるホテルでの待機が一般的だ。
しかし葉璃は、ETOILEでの出番を終えるまではここに居続けなければならない。
一部の序盤と二部に出番があるCROWNも本来であれば一度ホテル待機となるが、葉璃の事が心配な聖南は居場所を探すべく会場内のマップを手に入れていた。
狭苦しくても文句は言わない。
とにかく、緊急任務を二件も背負った葉璃の任務を完遂させるために、尽力するのみだ。
「あれ、ここに居たんですね」
リハーサルを終えた葉璃が、ケイタと共に舞台袖に戻ってきた。
この後の事も見越したレッスン着姿の葉璃は、髪を後ろにひと括りに結んでいて可愛いったらない。
「お疲れ。 あー……スタッフがウロチョロしてなきゃギュッて出来るのになぁ」
「も、もうっ、何言ってるんですか。 次はCROWNのリハーサルですよね? 俺もここから見てるんで、がんばってくださいね」
「うん! 頑張る!」
「頑張るー」
「葉璃は俺に言ったんだよ、なんで二人が張り切って……」
「セナ、心狭いよ」
「器が知れるぞ。 な、ハル」
仲の良い事務所の先輩後輩にしか見えない四人は、行き交うスタッフ等の視線など意に介さない。
緊張したぁ…と呟き、タオルで手汗を拭う葉璃は三人のやり取りにとびきりの笑顔を見せた。
「ふふ……っ。 俺、CROWNと同じ現場だとあんまり緊張しなくなってきたかもしれないです。 皆さんが和ませてくれるからかな? ほんと、大好きです。 ありがとうございます」
「え……っ? ハル君……!」
「ハル……っ」
「ちょっ……葉璃!」
公開AVに引き続き、葉璃は無邪気にも三人に向かって公開告白をやってのけた。
器の小さな聖南は蚊帳の外に追いやられ、アキラは葉璃の右手を、ケイタは左手を取って喜びを表すが如くにぎにぎしている。
可愛がっている後輩から「大好き」と言われて嬉しい気持ちは分かるが、あまりにも遠慮が無さ過ぎではないかと、聖南は連日嫉妬に身を焦がす羽目になった。
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