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8❥関係性
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─聖南─
葉璃はルイとの関係を犬猿の仲のように言うが、聖南にはとてもそうは見えない。
自分との甘いまどろみイチャイチャとも、恭也との親友イチャイチャとも違う、二人のやり取りにはもっと親密な何かを感じるのだ。
セックスの最中以外では滅多に声を荒らげない葉璃が、他人にあのように思った事をスラスラ言い返す様を見ると聖南の中で非常に大きな焦りが湧く。
気に入らないならどんなに怒っても言い返してもいいが、胸の内を曝け出すのは聖南だけにしてほしい。
聖南ですらあまり見た事がない、頬を膨らませて怒る以上の憤りを他人に見せないでほしい。
葉璃本人にはここまでの事は言わないけれど、聖南がいじけてぐるぐるしていたのは伝わっただろうからしばらく様子を見る他なかった。
せっかく葉璃が誕生日を祝ってくれたのだ。
ぎこちなくも可愛らしい手紙と、聖南のために事前練習までして用意してくれた甘味の少ない特製ケーキ、葉璃の生歌、それらは深夜まで事務所に居た聖南の疲れもぶっ飛ぶほど嬉しいものだった。
今年はプレゼントを用意出来なかったとしょんぼりしていたが、聖南は本気で、そんなものは必要ないと思っている。
『葉璃と一生一緒に居られますように』
この願い事を葉璃が聞き届けてくれるのなら、他には何も望まないのだ。
そう、……フェラチオなんかも、聖南はまったく望んでいなかった。 結果として聖南の望みも叶いはしたが、どちらかというと「アソコを舐められるより葉璃の秘部を舐め回したい」の方が強かったのである。
ほんの二日前の事だけれど、未だ葉璃との濃密な記憶は鮮明だ。
世の男達は何故あれを恋人に強いるのか、聖南にはまるで理解が出来ない。
「おーっす、セナ! 早いな」
「お疲れ、ケイタ」
自前のノートパソコンを手に現れたケイタに、台本を手渡す。
聖南の向かい側に腰掛けたケイタは受け取った台本をパラパラと確認した後、番組宛てに届いたメールのチェックを始めた。
CROWNの三人は、これから隔週恒例の生放送のラジオ番組を控えている。
番組の回し役である聖南にほぼ一任されているため、スタッフから形ばかりの台本を三冊受け取って悶々としていたが、二日前の葉璃による「ご奉仕」を思い出していた聖南はやや前屈みになるのは致し方ない。
「アキラももうすぐ来るよ、下で会ったから」
「おっけー。 ……あのさ、ケイタ」
「ん~?」
悶々を内に秘めておけない明け透けな性格である聖南は、長机を指先でトントンと鳴らし、ペットボトルのお茶に手を伸ばすケイタを見た。
「ガチの質問っつーか疑問なんだけど」
「うんうん、何? どしたんだよ?」
「俺さ、恋人にフェラさせる男の気持ちが分かんねぇんだ」
「ブフッッ……!!」
ほんの少量ではあったが、突然のカミングアウトにケイタの顔まわりが水浸しになる。
よもや突然下ネタを繰り出されるとは思っていなかったケイタは、危うくノートパソコンを駄目にするところであった。
聖南が差し出したティッシュの箱を取り、口の周りと自身の服を拭くケイタの心臓はバクバクだ。
「な、何っ? フェラっ?」
「確かに即イキしちまいそうなくらい気持ちいいし、頑張ってペロペロしてくれんのはかわいーなぁとも思うんだけど、……すげぇ罪悪感なんだよ」
「え、えぇっと……それはハル君に対してって事だよね?」
「そう。 男どもは恋人にあんな事毎回させてんのか? ケイタも相手にフェラさせてる?」
「あぁ……時と場合によるから毎回ではないかなぁ。 セナってフェラ嫌いなの? 気持ちいいじゃん」
「嫌いっつーか……させたくねぇんだよ。 いかにもな服従ポーズだし」
苦笑した聖南の手には、スマホが握られている。
待ち受け画面はもちろん葉璃だ。
昨年のCROWNのツアーでETOILEを初披露した思い出深いあの日、会場で聖南を見上げて微笑んだ儚い笑顔が世間でも話題となった、例のそれである。
聖南は、葉璃が思っている以上に葉璃の事が大好きで、大好きで、大好きで、愛していると何度言っても足りないほど愛しているのだ。
それだけに、付き合い始めた当初よりも咥えさせる事に対しての罪悪感が増している。
今までは「汚したくない」「悪い事をさせている気になる」という言い訳を使っていたけれど、どうも最近はベクトルが変わってきた。
しかし聖南への遠慮がなくなった葉璃もまた、何故かやたらとアレをしたがる。
聖南が秘部を舐め回し、舌を突っ込んでレロレロしたいという願望が強くなっているのと同等に、だ。
「お疲れー」
フェラチオ肯定派のケイタと否定派の聖南は、どちらからともなく黙り込み互いの意見を呑み込もうとしていたが、そこへ彼には珍しい眼鏡姿でアキラがやって来た。
「あ、アキラ。 お疲れ~」
「なんだよ、静かだな。 ケイタがパン食ってねぇしセナはコーヒー飲んでねぇし」
「ちょっとね……真面目な話をしてたんだよ」
「は? 何かあったのか? セナハル関係?」
ドラマの撮影終わりで少々疲れた印象を受けるアキラは、聖南の隣に腰掛けて机上に並んだ数本の飲料水を品定めしていた。
二人を前に気の抜けたアキラに、聖南はまたしても唐突な質問を投げる。
「───アキラ、お前フェラされんの好き?」
「はッッ!?!?」
「てかお前ちゃんとヤッてるか? かなり前に女と別れてから浮いた話全然聞かねぇけど」
「……そういえばここ一年くらいヤッてねぇな」
「えっ!? アキラ溜まったらどうしてんの!?」
「いや俺の性処理はどうでもいいじゃん。 フェラ好きかどうかだろ。 俺はそんな好きじゃない」
気になる情報がもう一つ増えてしまった聖南とケイタは、思わず身を乗り出した。
アイドルたるもの、過去の聖南のように好き放題していては様々な方面に皺寄せがいく。
けれど三人は、アイドルである前に男だ。
降って湧いたアキラの性事情が気になってしまい話題が逸れそうになったが、あまり下ネタをよしとしないアキラがそれ以上口を割る事はなかった。
葉璃はルイとの関係を犬猿の仲のように言うが、聖南にはとてもそうは見えない。
自分との甘いまどろみイチャイチャとも、恭也との親友イチャイチャとも違う、二人のやり取りにはもっと親密な何かを感じるのだ。
セックスの最中以外では滅多に声を荒らげない葉璃が、他人にあのように思った事をスラスラ言い返す様を見ると聖南の中で非常に大きな焦りが湧く。
気に入らないならどんなに怒っても言い返してもいいが、胸の内を曝け出すのは聖南だけにしてほしい。
聖南ですらあまり見た事がない、頬を膨らませて怒る以上の憤りを他人に見せないでほしい。
葉璃本人にはここまでの事は言わないけれど、聖南がいじけてぐるぐるしていたのは伝わっただろうからしばらく様子を見る他なかった。
せっかく葉璃が誕生日を祝ってくれたのだ。
ぎこちなくも可愛らしい手紙と、聖南のために事前練習までして用意してくれた甘味の少ない特製ケーキ、葉璃の生歌、それらは深夜まで事務所に居た聖南の疲れもぶっ飛ぶほど嬉しいものだった。
今年はプレゼントを用意出来なかったとしょんぼりしていたが、聖南は本気で、そんなものは必要ないと思っている。
『葉璃と一生一緒に居られますように』
この願い事を葉璃が聞き届けてくれるのなら、他には何も望まないのだ。
そう、……フェラチオなんかも、聖南はまったく望んでいなかった。 結果として聖南の望みも叶いはしたが、どちらかというと「アソコを舐められるより葉璃の秘部を舐め回したい」の方が強かったのである。
ほんの二日前の事だけれど、未だ葉璃との濃密な記憶は鮮明だ。
世の男達は何故あれを恋人に強いるのか、聖南にはまるで理解が出来ない。
「おーっす、セナ! 早いな」
「お疲れ、ケイタ」
自前のノートパソコンを手に現れたケイタに、台本を手渡す。
聖南の向かい側に腰掛けたケイタは受け取った台本をパラパラと確認した後、番組宛てに届いたメールのチェックを始めた。
CROWNの三人は、これから隔週恒例の生放送のラジオ番組を控えている。
番組の回し役である聖南にほぼ一任されているため、スタッフから形ばかりの台本を三冊受け取って悶々としていたが、二日前の葉璃による「ご奉仕」を思い出していた聖南はやや前屈みになるのは致し方ない。
「アキラももうすぐ来るよ、下で会ったから」
「おっけー。 ……あのさ、ケイタ」
「ん~?」
悶々を内に秘めておけない明け透けな性格である聖南は、長机を指先でトントンと鳴らし、ペットボトルのお茶に手を伸ばすケイタを見た。
「ガチの質問っつーか疑問なんだけど」
「うんうん、何? どしたんだよ?」
「俺さ、恋人にフェラさせる男の気持ちが分かんねぇんだ」
「ブフッッ……!!」
ほんの少量ではあったが、突然のカミングアウトにケイタの顔まわりが水浸しになる。
よもや突然下ネタを繰り出されるとは思っていなかったケイタは、危うくノートパソコンを駄目にするところであった。
聖南が差し出したティッシュの箱を取り、口の周りと自身の服を拭くケイタの心臓はバクバクだ。
「な、何っ? フェラっ?」
「確かに即イキしちまいそうなくらい気持ちいいし、頑張ってペロペロしてくれんのはかわいーなぁとも思うんだけど、……すげぇ罪悪感なんだよ」
「え、えぇっと……それはハル君に対してって事だよね?」
「そう。 男どもは恋人にあんな事毎回させてんのか? ケイタも相手にフェラさせてる?」
「あぁ……時と場合によるから毎回ではないかなぁ。 セナってフェラ嫌いなの? 気持ちいいじゃん」
「嫌いっつーか……させたくねぇんだよ。 いかにもな服従ポーズだし」
苦笑した聖南の手には、スマホが握られている。
待ち受け画面はもちろん葉璃だ。
昨年のCROWNのツアーでETOILEを初披露した思い出深いあの日、会場で聖南を見上げて微笑んだ儚い笑顔が世間でも話題となった、例のそれである。
聖南は、葉璃が思っている以上に葉璃の事が大好きで、大好きで、大好きで、愛していると何度言っても足りないほど愛しているのだ。
それだけに、付き合い始めた当初よりも咥えさせる事に対しての罪悪感が増している。
今までは「汚したくない」「悪い事をさせている気になる」という言い訳を使っていたけれど、どうも最近はベクトルが変わってきた。
しかし聖南への遠慮がなくなった葉璃もまた、何故かやたらとアレをしたがる。
聖南が秘部を舐め回し、舌を突っ込んでレロレロしたいという願望が強くなっているのと同等に、だ。
「お疲れー」
フェラチオ肯定派のケイタと否定派の聖南は、どちらからともなく黙り込み互いの意見を呑み込もうとしていたが、そこへ彼には珍しい眼鏡姿でアキラがやって来た。
「あ、アキラ。 お疲れ~」
「なんだよ、静かだな。 ケイタがパン食ってねぇしセナはコーヒー飲んでねぇし」
「ちょっとね……真面目な話をしてたんだよ」
「は? 何かあったのか? セナハル関係?」
ドラマの撮影終わりで少々疲れた印象を受けるアキラは、聖南の隣に腰掛けて机上に並んだ数本の飲料水を品定めしていた。
二人を前に気の抜けたアキラに、聖南はまたしても唐突な質問を投げる。
「───アキラ、お前フェラされんの好き?」
「はッッ!?!?」
「てかお前ちゃんとヤッてるか? かなり前に女と別れてから浮いた話全然聞かねぇけど」
「……そういえばここ一年くらいヤッてねぇな」
「えっ!? アキラ溜まったらどうしてんの!?」
「いや俺の性処理はどうでもいいじゃん。 フェラ好きかどうかだろ。 俺はそんな好きじゃない」
気になる情報がもう一つ増えてしまった聖南とケイタは、思わず身を乗り出した。
アイドルたるもの、過去の聖南のように好き放題していては様々な方面に皺寄せがいく。
けれど三人は、アイドルである前に男だ。
降って湧いたアキラの性事情が気になってしまい話題が逸れそうになったが、あまり下ネタをよしとしないアキラがそれ以上口を割る事はなかった。
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