狂愛サイリューム

須藤慎弥

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7♡付き人

7♡8

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 歳の差なんて関係ないのに、そういえば付き合いはじめくらいの時、聖南は俺に何度も「早く大人になれ」って言ってたっけ。

 ムムっと下唇を出した聖南から左右のほっぺたを摘まれる。  そのままほっぺたをぷにぷにされてジッとしてたら、最後にはチュッとキスが降ってきた。

 軽やかにそんな事をする聖南は、五割増しでカッコよく見えちゃう眼鏡姿だって分かっててやってるのかな。


「聖南さん、願い事決まりました?」
「うん。  去年からずっと決まってる」
「えっ、そうなんですか?  じゃあ火をつけますね」


 ロウソクをケーキにセットして、チャッカマンを手に部屋の灯りを消す。

 あ、しまった。

 先に火を付ければ良かった。

 暗闇の中、探り探りで戻ろうとすると、クスクス笑う聖南に手を引かれてしまうドジな俺は、目を凝らしてロウソクに火をつけた。

 2と5のてっぺんに温かな火が灯り、ケーキだけじゃなく俺達の居るちょっとした空間のみが幻想的なオレンジ色に染まる。

 肩をナチュラルに抱いてくる聖南を見上げると、八重歯を見せて嬉しそうにニコっと微笑んだ。


「なぁ葉璃、歌って」
「え……っ?」
「ほら、誕生日の時にみんな歌ってるやつあんじゃん。  ハッピバースデートゥーユー♪って」
「えぇぇっ……それは……!  ……わ、分かりましたよ、そんな寂しそうな顔しないでください!」
「やった!」


 そんな照れくさい事出来ない!って睨んでみても、今日の主役は俺の前でだけ演技派だった。

 聖南の明るくてツヤツヤした髪の上に、しょんぼりと垂れたワンコの耳が見えたんだもん……歌うしかないよ。

 俺は恥ずかし紛れに手拍子をしながら、おめでとうの気持ちを込めて歌ってあげた。

 とても大きなしこりとなっていた聖南パパとの関係に光が見えた今だから、聖南も心から誕生日を祝える心境に違いない。

 俺には計り知れない過去が、どれだけ暗くて寂しかったとしても今が幸せならいいよね、……聖南。


「~~♪ お誕生日おめでとうございます、聖南さん」
「……ありがとう、葉璃」


 聖南は数秒、瞳を閉じて黙り込んでいた。

 俺が去年教えた、我が家では恒例の「ロウソクの火を吹き消す前に心の中で願い事を唱える」を、実行してくれてるんだ。

 去年からずっと決まってた願い事というのが気にはなるけど、言っちゃうと叶わなくなるからそっとしておく。

 なんていうか、聖南は黙ってるとほんとに非の打ち所のない美形なお兄さんって感じで、ついつい見惚れてしまった。

 願い事を終えた聖南の一息で消えてしまった灯りが無くなると、部屋が再び暗闇に包まれる。

 でも全然、怖くない。

 まさしく二人の立ち位置もそっくりそのまま去年と同じで、願い事のあと聖南が優しく抱き締めてくれたのも一緒だった。

 ぎゅっと抱き締められると、胸が苦しくなる。  大好きな匂いにドキドキしてしまって、息が出来なくなる。

 聖南の背中に腕を回すと、大好きだなって、俺はなんて幸せ者なんだろうって、特別な幸福感が全身を満たす。

 いつもそうだ。

 俺は何もあげられないのに、聖南は毎日たっぷりと愛情を注いでくれる。

 リードしてくれて嬉しいな、頼もしいなと思ってたんだけど……ふと体を離した聖南は人差し指でチョコクリームを掠め取り、いきなり俺の鼻先と唇に付けてきた。


「……味見ー♡」
「ちょっ、もう……っ聖南さん!」


 それをニヤニヤしながら舐め取る聖南のいたずらっ子な表情は、きっと俺しか知らない。

 一つまた大人になって、俺と七つ差になったはずの聖南はやっぱり子どもだ。

 聖南の悪戯のせいで自分が甘い匂いになった。  鼻先に付けられたから、しばらくこの美味しそうなチョコクリームの匂い取れないよ。


「聖南さん、もう遅いから明日食べますよね?」
「いや葉璃も一緒に食うなら今食っちゃお」


 そう言いつつ、聖南は早速コーヒーメーカーのスイッチを押した。

 深夜に食べていいものではないけど、今日はお祝いだからいっか。

 チョコクリームの匂いでお腹が鳴っちゃいそうだった俺は、いそいそとお皿とフォークを用意する。

 聖南の部屋は、俺と付き合ってから物がたくさん増えた。

 俺が引っ越してきた初日の夜、聖南が嬉しそうに「やっと家族ができた」と気の早い事を言ってたのを思い出す。

 今までほんとは寂しかったんだろうなって、その言葉を聞いてから俺はさらに聖南が愛おしくなった。

 この先俺がいくらぐるぐるしても、何があっても、聖南から離れない。  離れたくないと、その時改めて強く思ったんだ。


「ん、美味い」


 俺は包丁禁止なので、聖南が切り分けてくれたケーキをちょうど半分こにした。

 両利きな聖南は左手でフォークを持っていて、一口食べて出た素直な感想にホッと胸を撫で下ろす。


「ほんとですかっ?  良かったぁ……」
「去年とは違う店?」
「はい。  今年は何もプレゼントをあげられないから、せめてケーキだけは聖南さんが喜ぶものをって、……ワガママ聞いてくれるお店を探してました」
「あはは……っ!  何だよ、ワガママって?」
「限界まで甘くないようにしてください、コーヒーと一緒に食べるからコーヒー味はやめてください、フルーツはのせられるだけのせてください、……って」
「葉璃がそれ言ったの?  店に?  よく言えたな」
「言う事をメモして、何回も練習してからお店に電話しました。  ……いっぱい噛んじゃいましたけど」
「ぷふっ……!  俺の知らねぇとこでそんなかわいー事やってたのか。  ありがとな、マジで」


 プレゼントはその頑張りと手紙だけで充分、と笑う聖南が、今日もキラキラに輝いていて眩しい。

 サプライズライブを超えるもの、形に残るもの、聖南が欲しがっているもの、……色々考えたあげく何も用意出来なかった俺は不甲斐ないの一言だ。

 誕生日とか関係なく、何でもない日に思いついた物をあげるっていうのはアリなのかな。

 この笑顔を見ていると、聖南にはもっと、俺が与えられるもので喜んでほしいなって思っちゃった。


「なぁ、葉璃」
「はい?」


 去年よりもケーキの進み具合が早い聖南が、突然俺の肩を抱いて顔を覗き込んでくる。


「葉璃の前でだけ、俺は子どもでいいんだ。  だからこんな事言っても許せよ? 「俺の前でルイとイチャつきやがって」」
「あ、あれは……!」


 今日はもうその話はしないでいてくれるのかと安心してたのに、子どもでいいと開き直った聖南は急に嫉妬を剥き出しにしてきた。




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