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6❥胸騒ぎ
6❥3
しおりを挟む『本日のラストを飾ります、CROWNの皆さんでーす!』
「よろしくお願いしまーす」
司会者の紹介コールにハッとした聖南は、組んでいた足を組み替えてマイクを握った。
カメラ目線で小さくおどけて、隣に座るアキラに窘められるという毎回の恒例を見せる。
台本によればトークは約五分。 受け答え内容も大筋は決まっているが、CROWNの場合は聖南が居るのでいつもその通りにはいかない。
聖南だけでなく、ケイタも度々脱線傾向にあるので軌道修正は主にアキラの役割だ。
『本日は二曲披露して頂きます! 昨年の冬に発売されたCROWN初のミディアムバラードと、先程のVTRにありましたCROWNの皆さんに披露して頂きたい楽曲一位の二曲です! 一位の楽曲発表は後ほど本番で、という事になっています!』
「俺らはもう知ってるけどな」
「余計なこと言うなよ、セナ」
「ほんっとセナは俺様だよねー」
「知っとかねぇと練習出来ないじゃん。 カバーなんだから完璧に覚えて完璧なもん魅せないと、原曲歌ってるアーティストに失礼だ。 その辺の意識はあるかね、アキラ、ケイタ?」
「あるに決まってんだろ」
「ここで「ないよ」って言う人居ないよ!」
ケイタの返しに、司会者とスタッフから笑いが起こる。
この時点ですでに台本の内容から逸れているが、セナは気にする様子を見せない。
何度となく接してきた司会者の女性も心得ているので、新人アーティストにとっては長いトーク時間五分というのもあっという間に過ぎてゆく。
『披露して頂くものの他にも、意外な曲がランクインされてましたよね! CROWNの皆さんはVTR中、これは気になる!というような楽曲はございましたか?』
「あー……アキラ、任せた」
「えっ、なんで俺に振るんだよ。 まぁ俺は、ありましたね。 まったく畑違いのバンドなんかは興味あります」
「へぇ、じゃあ次はバンドやっか」
聖南はアキラの言葉にある事を思い出し、ニヤッと笑いながら早くも展望を描き始める。
現在はレイチェルへの楽曲提供で頭がいっぱいな聖南だが、今年中にCROWNとETOILEの新曲も書き下ろさなければならないので、何気ないささいなアイデアも創造力を掻き立てられてありがたい。
自宅には葉璃が居る。
イメージが湧いたらすぐにピアノ伴奏で歌ってくれる、超絶可愛くて心強い恋人が居る聖南はニンマリだった。
しかしアキラの向こう側で目を丸くするケイタは、そんな聖南の展望にあたふたしていた。
「え? 何言ってんの、セナ。 そんな軽いノリで出来るもんじゃないって。 なぁ、アキラ」
「いやいや、そりゃ本格的なもんは無理だろうけど、それぞれがかじってる楽器はあんじゃん? 猛特訓してライブで演るってのもいいかもな」
「それ面白えかも」
「えぇぇっ!? セナもアキラも乗り気……っ?」
何しろ今年は、アキラが丸二年世話になっている主演ドラマが映画化される事が発表され、公開は来年の春過ぎだと聞いている。
彼の出演するドラマは、ちょうど今出演している音楽番組と同じ局であり、今や看板ドラマになりつつある。 それは一話完結のミステリー要素たっぷりな刑事ドラマで、映画化を熱望されていた期待作だ。
その主題歌を任されているのがCROWNであり、作詞を担当する聖南は監督から直々に仮台本が送られてきていた事を、つい先程思い出したのである。
まずは難産であるレイチェルのプロデュースが一段落してから取り掛かろうとしていたが、降って湧いたアイデアによって同時進行がいけるかもしれない。
また一つ目先の仕事が増えてしまったものの、聖南の唯一の癒やしである葉璃がすぐそばに居るので、多忙による睡眠不足と欲求不満以外は何ら問題ない。
『ファンの皆様にとっては見逃せない素晴らしい案が生まれました! ライブが待ち遠しいですね! ライブと言いますと、今年は残念ながらツアーは行われないという事ですが?』
「そうなんですよー! 俺とアキラが年内いっぱいドラマと映画にスケジュール持ってかれちゃうし、セナも真っ黒なので」
「俺が日焼けしてるみたいに言うな」
「ぶふっ……っ!」
「そういえばセナって日焼けしないよね」
「日焼け止め塗ってるからな。 将来のために、これ見てる視聴者の皆さんも日焼け止めは必須だと思っとけ? メラニン色素がだな……」
「セナ、その続きはラジオでしろ。 見てみろ、ケイタが妙な事言うからセナの美容スイッチ入っちゃってんじゃん」
「俺のせい~~?」
「ケイタのせい」
「ケイタのせい」
「なんでだよーー!!」
っつーか美容スイッチってなんだよ、と聖南は声に出して笑う。
ここで完全に台本から逸れたがスタッフの反応も上々で、何よりテレビの向こうの視聴者がCROWNのお決まりのやり取りで盛り上がってくれさえすればそれでいい。
『本気で取り組んでくださった今回の企画、視聴者の皆様も楽しみですよねー! 最後にこの楽曲を披露するにあたって難しかった点などございますか?』
「 二曲ともマイクスタンドでの歌とダンスなんですけど、マイクスタンドってCROWNは今日披露する曲以外使わないんで、慣れないんですよね。 そこが難しかったです」
「そうだね。 あんまりやらない振り付けだったから楽しかったよ、すごく。 セナは?」
「そうだな……普段のCROWN色を抑え気味にしつつ、いかにアイドルらしく踊るか、どれだけ原曲に寄せられるか、歌唱法も違うから難しかったな」
この企画は、インターネット投票とスタッフが街に繰り出してのリサーチが集計されたものだったので、労いと感謝を込めて最後の質問だけは聖南もブレずに答えた。
司会者とフロア内のスタッフの納得の頷きを見ていると、やはり聖南は世渡り上手だと自身でそう自負を持つ。
アキラとケイタも、表示された時間とモニター横で指示を送ってくるスタッフの顔色を伺い、揃って聖南と同じ姿勢に入ったところが芸能界に長く居続けられる秘訣なのかもしれない。
彼ら三人の場を読む力と連帯感は、ちょっとやそっとの場数では生まれないからだ。
『それではCROWNの皆さん、スタンバイお願いします!』
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