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3♡「ルイ」
3♡⑤
しおりを挟む───成長、途中……。
それって……俺は、これからも成長出来るってこと……?
聖南はまだ途中だって思ってくれてるの……?
それとも、俺が傷付かないようにまた甘やかしてくれてる……?
「………………」
ネガティブな俺は、どこまでも優しい視線をくれる聖南の瞳から真意を読み取ろうとした。
聖南は俺に甘くて、いつも優しくて、何も心配するなと俺の前に颯爽と立って弊害から守ってくれようとする。
だから今も、俺がこれ以上悩まなくて済むように本音を語っていないんじゃないかって不安だった。
けれど聖南の瞳は、鼓舞激励に満ちていた。
甘々な恋人としてではなく、突如として現れた「CROWNのセナ」が俺の手を力強く握った。
「葉璃は努力してる。 才能もあるし、この世界で生きるためのオーラも、運も、華も、確実に持ってる。 誰に何を言われたのか知らねぇけど、少しずつでも成長は見えてるよ。 一つ言える事っつーと、スタートが遅かった。 それだけだ」
「……そ、それがもしほんとでも、上がり症とか、すぐ緊張しちゃうのとか治してからデビューすれば良かったんじゃないのかなって……」
完全にチャラ男の言葉を真に受けてる俺って、ほんとに情けない。
あっという間に「いつの間にか」ステージに立ってた俺は、経験をいくら積もうと未だ恭也からギュッてされないと震えが止まらない。
成長著しい恭也に引っ張ってもらい過ぎて、いよいよ迷惑をかけてやしないかなって考えさせられた。
CROWNの三人みたいに強くて尊い絆があって、それぞれに活躍の場もあって、何があっても揺るがないCROWNが眩しい。
恭也ともそんな風に、二人が輝ける居場所がETOILEでありたいと思ってるのに、俺はこの一年ですっかり置いてかれた。
思えば恭也は、デビューするまでの一年の間の成長も凄まじかった。
あの時点で俺は遅れを取ってたんだ。
補い合うだけの力が、俺にはない。 何にもないよ。
何だか恭也にも申し訳なくなってきて、目の奥がツンとしてきた。
けれど視界が潤んでしまう直前、聖南が俺の腰をグッと引き寄せて抱き締めてくる。
「みんな完璧だと面白くねぇよ。 アイドルは色んなタイプが居る。 造られたものを無理に演じるより、素で居る方が楽だし楽しくねぇ? 見てる視聴者もファンも、その辺はすげぇシビアなんだぞ、今」
「……でも俺は、素を曝け出し過ぎて周りに迷惑をかけて…」
「かけてねぇって。 てかマジで誰だよ、余計な事言いまくってんな! 俺のかわいー葉璃ちゃんをこんなに悩ませやがって!」
「うむっっ、く、苦しいです……っ、聖南さん……!」
腰に巻き付いた聖南の腕にふいに力がこもって、ぎゅむっと締め上げられた。
聖南の顔が俺のお腹にめり込んで痛い。
着痩せする体にはしなやかな筋肉がまんべんなく付いてるんだから、いきなり強い力で抱かれると苦しくて呻いてしまった。
パシパシ、と聖南の肩を叩くと、「あ、ごめん」と笑いながら離れて立ち上がる。
二十センチ以上も身長差のある聖南が、間近で俺を見下ろして八重歯を見せた。
「ま、俺としてはいい悩みだったから安心した。 葉璃が惰性で仕方なくこの業界に居る事を選んでるわけじゃねぇって分かったから、聖南さんは嬉しい」
「惰性なんて……それはないです。 聖南さんとずっと一緒に居たいですから。 ……悩んだのは、そのせいです。 ……聖南さんに呆れられてないかなって思ったら、自分がどうしようもない奴に思えて仕方なくて……」
「えっ、嬉しいこと言ってくれんじゃん♡」
ついさっきまでの不機嫌オーラは何だったのってくらい、聖南が笑顔を絶やさない。
すっぽり抱きすくめられて大きな背中に腕を回すと、俺にも聖南のぽかぽかした気持ちが伝染してきた。
かなわないな、ほんとに。
俺の事ぜんぶ受け止めて、欲しかった言葉を真っ直ぐにくれて、怒りや悩みを引き摺らないように俺の顔色を見て、何気なく勇気付けてくれる。
ぐるぐるしててもいいと言ってくれた聖南は、いつでもこうして励ましてくれる。
これは甘やかされてるんじゃない。
導いてくれてるんだ。
聖南が棲む領域に、正反対のところで暮らしてた無知な俺を。
「なぁ葉璃。 誰が何と言おうと、俺の言葉だけを信じてろって言ったはずだ」
「……はい……。 ごめんなさい……」
「素直に謝れる葉璃が好き」
「好っ……!」
不意打ちは卑怯だ……!
見詰められたら誰もがほっぺたを真っ赤にしちゃうくらいの熱い視線を向けられて、俺は思いっきり照れた。
この聖南の温かくてヤンチャな笑顔…大好きだ。
照れくさいけど、聖南の胸に顔を埋めて「俺も好きです」って返した。
打ち明けた事でホッとして心が軽くなったからなのか、ドキドキとうるさい心臓の音に紛れてお腹が鳴った。
「そういえば晩ご飯全然食べられなかったな……」
「……ん、んっ? いつもよりは少なかったけど、葉璃ちゃん一品料理も白飯もぜんぶ食べてたぞ?」
「…………そうでしたっけ……」
「お腹空いてきたの?」
「はい、……ちょっとだけ」
「そんじゃ軽く食べるか? 食材残ってっから作ってやるよ」
「え! ほんとですかっ? あ、いや……でも聖南さんお仕事終わりなのに……」
「俺に気を使うなよ。 深夜だし、チャーハンか雑炊?」
「……! どっちでもいいです!」
「よーし。 じゃあ手洗って待ってろ? そんで食べたらお仕置きだからな~」
「…………え……っ?」
腕捲りをしてキッチンへ向かう聖南が、振り返ってニヤリと意地悪に笑った。
思いがけずの聖南の手料理が楽しみで、わーい!と両手を上げて喜んでた俺はそのまま一時停止する。
いま、お仕置きって言った?
……なんで? ちゃんと打ち明けたのに、なんでお仕置きなの……?
「俺に冷たくした、お仕置き」
「そ、そんな……っ」
両手を上げてフリーズした俺に、聖南は一言告げてベッドルームを出て行った。
こんな日に限って、お仕置き……。
しばらく動けなかった俺は、ある事を思い出してぷるっと体を震わせた。
──聖南は二日、禁欲している。
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