狂愛サイリューム

須藤慎弥

文字の大きさ
13 / 601
0❥CROWN

CROWN⑧

しおりを挟む



 三人はスタジオに戻るなり、レッスン講師である三宅から大目玉を食らった。

 行き先も告げないまま飛び出したため、あと少し帰りが遅ければアキラとケイタの両親に連絡がいき、危うく捜索願いまで出されてしまうところだったという。

 自分のせいで二人も巻き添えを食っては申し訳ないと、聖南は三宅に正直に話そうとしたのだ。

 社長との約束を破ってしまった事を詫び、それに伴う取りきれもしない責任をも取るつもりでいた。

 しかしアキラが頑として聖南に喋らせなかった。

 ケイタも同様で、泣き腫らした目を擦りながら何事も無かったかのように無言を貫いた。

 「コンビニに行ってました」と言い張るアキラに、それは違うと言いかけると、足先をぎゅむっと踏まれてやむを得ず空気を読んだ。

 言わない方がいい、黙っていた方がいい。

 アキラとケイタの寄越す視線がそう言っていて、聖南は渋々コンビニの嘘に合わせた。

 殴り合いにまで発展しそうだった二人は、タクシーの中でも気まずくて一言も口を利かなかったが、アキラとケイタの聖南を思う気持ちがその嘘で明確となった。

 レッスンそっちのけであとを尾けてくるほど、二人は聖南の事を心から心配していたのだ。

 幼い頃から苦楽を共にした友人として、この一年は同じ目標に向かう同士として、聖南が思っている以上に三人の絆は強固であると証明してくれた。

 アキラも、ケイタも、聖南とだから「CROWN」を頑張りたい。  そう言ってくれた。

 もう二度と、夜の世界とは関わらない。

 何があっても、どんな連絡が来ても、知らぬ存ぜぬを通す。

 三宅に雷を落とされながら、聖南はこっそり心に誓っていた。

 CROWNしかない。

 どう転んでも、今や聖南にはCROWNしか残っていない。

 アキラとケイタが聖南を必要としてくれている限り、これ以上心配と迷惑を掛けてはいけないと強く思った。






 鳴り物入りでデビューしたCROWNは、不安の残る聖南の過去などたちまち霞むほどの人気を博した。

 三人それぞれ子役としての知名度があり、何より三者三様の整ったルックスと流行りのダンスミュージックが、若年層の男女の心をガッシリと掴んだ。

 ボイストレーニング中に講師によって見出された、聖南の絶対音感。

 何もかも飲み込みが異様に早い聖南は、二年目にはすでに楽曲制作にも少しずつ携わり始めていた。

 社長に行けと言われて入学した芸能コースのある高校に通いながら、CROWNとしての仕事をこなしていく毎日が本当に楽しくて、まさに生き甲斐になりつつある。

 歌う事も、踊る事も、作曲に携わる事も、日の目を見る恐れよりも新しい発見の喜びの方が大きかった。

 今までとはまるで畑違いな「アイドル」の活動をしていくうちに、揺るぎない自信もついた。

 この世界ならばアキラとケイタを引っ張ってやれるかもしれない、続けていればいつの日か本当にトップへと行けるかもしれない、二人のため、事務所のため、社長のために、「CROWN」をぽっと出の一発屋になどさせない───。

 社長の思惑通り、聖南は順調にCROWNのリーダーとしての自覚を持ち始めた。

 そんなある日の事だった。


「……アキラ?  どうしたんだよ。  全然集中出来てねぇじゃん」
「あぁ、……ごめん」


 あまり気分の上がり下がりを見せないアキラの様子が、この日はおかしかった。

 現在アキラは、デビューからちょうど三年が経つ翌年一月に発売予定の、ファーストアルバムのレコーディングの真っ最中である。

 聖南とケイタの歌録りは終了し、この日はアキラのみがヘッドホンを装着しブース内に入っていた。

 ちなみに聖南はアルバム中半数の曲の作詞を手掛けていたので、ケイタとアキラのレコーディングに付き添って微妙な音程指導を行った。

 梅雨時期のため蒸し暑い。  除湿モードにしていると体感は快適だ。

 だがレコーディングを始めて間もなくから、指導に入る以前にアキラの顔色が悪かった。

 もしかして除湿の冷風が効き過ぎているのかと、聖南は空調の設定に行こうとしたがふと立ち止まる。


「らしくねぇな。  一旦休憩入れるか」
「あー……」
「てか今日はやめとこ。  アキラ体調悪いんだろ?  そんな日に録ったっていいの作れねぇから。  ──別日でもいいよな?」


 聖南は振り返って、そこに居たスタッフらに同意を求めて了承を得た。

 何としてでも今日やらなければ、というほどスケジュールが切羽詰まっているわけでもない。

 アキラが大人しくヘッドホンを外してブースを出て来た事からも、今日のレコーディングは見送った方が懸命である。


「どうした、風邪か?」


 スタジオの一階、簡素なドリンクスペースに設置された硬い長椅子に力無く腰掛けたアキラへ、聖南は自販機でお茶を買って手渡した。

 いや、と首を振ってペットボトルを受け取るアキラは、いつになくテンションが低い。


「……何かあった?」


 体調が悪く見えるほど、アキラの様子が変なのだ。

 気になる…というより心配が先に立ち、隣に腰掛けて問うてみた。

 するとアキラは、床に視線を落としたまま苦しげに呟いた。


「……フラれた」



しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

隊長さんとボク

ばたかっぷ
BL
ボクの名前はエナ。 エドリアーリアナ国の守護神獣だけど、斑色の毛並みのボクはいつもひとりぼっち。 そんなボクの前に現れたのは優しい隊長さんだった――。 王候騎士団隊長さんが大好きな小動物が頑張る、なんちゃってファンタジーです。 きゅ~きゅ~鳴くもふもふな小動物とそのもふもふを愛でる隊長さんで構成されています。 えろ皆無らぶ成分も極小ですσ(^◇^;)本格ファンタジーをお求めの方は回れ右でお願いします~m(_ _)m

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…? 2025/09/12 ★1000 Thank_You!!

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。 ■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。 ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。 種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。 ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! トェルとリィフェルの動画つくりました!  インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

愛され少年と嫌われ少年

BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。 顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。 元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。 【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】 ※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...