5 / 539
0❥紅色天賦
紅色天賦⑤
しおりを挟む手首を持たれて目的を果たせなかった聖南は、振り返ってその者を睨み上げた。
「あ?」
眼光鋭い茶髪の男がするりと聖南の彫刻刀を奪うと、背後に居た黒髪の長身の男にそれを手渡している。
聖南の邪魔をしてきたという事は、この二人は族員ではない。 無論、急襲してきた相手方は全員床に転がっていて、そいつらの仲間でも無い事は明白だった。
笑い転げていた総長は神妙な顔で事態を見守っているしで、完全な部外者からの横槍に不満タラタラでその茶髪男を睨み続けるも、まるで怯む様子無く逆に怒鳴られた。
「お前狂ってるぞ! 頭冷やせ! 故意で目やっちまったらガチの傷害罪だ! 殴り合いの喧嘩とは訳が違ぇんだぞ!」
「……誰だよお前」
「いいからそいつの上から退け! あとは俺らが始末付けとくから! ガキはさっさと帰って寝ろ!」
そう言って無理やり聖南を立たせると、茶髪男と黒髪男は総長の元へ歩んで行った。
戦意喪失した聖南は、スウェットの埃を払ってポケットに両手を突っ込む。
入り口付近には割って入ってきた二名の他に、そいつらの仲間と思しき数人の仲間が確認できた。
「あんなガキに相手させるなよ。 紅色天賦の名が廃るぞ」
黒髪の男は、総長に柄の方を向けて彫刻刀を返した。 随分と落ち着いた冷静な声色に、聖南の頭もだんだんと冷えてくる。
この二名が現れた時から爆笑の止まった総長も然りだった。
「あいつの名前はこの辺一体に知れ渡り始めてる。 十四はまずいだろ」
「いやーでもさぁ、樹。 聖南マジで強えから後々俺の座くれてやってもいーかなと思ってんだよねぇ」
「あんだけ強えと、総長継がせる前に暴走行為じゃなくてコッチ絡みでヒネに世話になる事になんぞ」
「芋づる式にアイスもバレちまうって? それは痛えなぁ。 明日撮影ってやつが入るからさぁ、そのためにウチに呼んでたんだけどー」
「あぁ、あの雑誌のか?」
「そうなんだよ~聖南みてぇにツラ良いの居たら、さらに族員増やせんじゃねぇかってなぁ」
三人が固まって会話をしている数メートル後方で、聖南はすべて聞いていた。
その隣に光太が張り付き、聖南が首を傾げた箇所の説明を入れてくれる。
「コッチ」とは、暴走行為以外の乱闘や暴行の事で、「ヒネ」は警察、「アイス」は法的に認められていない代物を意味するらしい。
そして、聖南が呼ばれた理由をようやく知る事が出来た。
腕っぷしはもちろんの事、暴走族のバイブル雑誌の撮影のため、引いてはその後の紅色天賦の拡大のために、抜きん出て顔立ちの良い聖南が駆り出されたのだ。
単に利用されていただけだったと知っても、聖南は何とも思わなかった。
自分が中学生だから、まだ十四歳だから、話しても何も分からないだろうと伝えなかったのかもしれないが、善悪の区別はつかないまでも早熟な聖南の理解は早い。
今日の喧嘩はどうやら部外者の登場で終焉を見たようなので、光太に向かって顎をしゃくり、「送ってくれ」と合図をする。
「………その撮影ってのが終わったらアイツから一旦手引け。 お前のために言ってんだからな」
「分ーかったっつーの。 ったく…裁判之女神……佐々木と橘を敵に回すと後が怖えから言う事聞いとくぜ~」
背後でそんな事を話す茶髪男と総長に心中苛立っていても、聖南は何も言わず、振り返りもせずに光太のバイクに跨った。
撮影のために明日も来なければならない。
孤独に苛まれない予定が立っただけで、何故だか聖南の心は落ち着いた。
翌日撮った紅色天賦の集合写真。
その日がこの者らと関わるのも最後だと聞かされた身としては、あまり深く考えないで聖南は裏ピースをキメた。
今日だけ副総長にしていいかと聞かれても、どうせそのつもりだったのならご勝手にという投げやりさだった。
翌月にはそれ専門の雑誌に載る。
軽はずみに、何も考えずに写ったその写真が元で事態が急転する事など、若干十四歳の聖南には知る由もなかった。
10
お気に入りに追加
225
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる