狂愛サイリューム

須藤慎弥

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0❥紅色天賦

紅色天賦⑤

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 手首を持たれて目的を果たせなかった聖南は、振り返ってその者を睨み上げた。


「あ?」


 眼光鋭い茶髪の男がするりと聖南の彫刻刀を奪うと、背後に居た黒髪の長身の男にそれを手渡している。

 聖南の邪魔をしてきたという事は、この二人は族員ではない。  無論、急襲してきた相手方は全員床に転がっていて、そいつらの仲間でも無い事は明白だった。

 笑い転げていた総長は神妙な顔で事態を見守っているしで、完全な部外者からの横槍に不満タラタラでその茶髪男を睨み続けるも、まるで怯む様子無く逆に怒鳴られた。


「お前狂ってるぞ!  頭冷やせ!  故意で目やっちまったらガチの傷害罪だ!  殴り合いの喧嘩とは訳が違ぇんだぞ!」
「……誰だよお前」
「いいからそいつの上から退け!  あとは俺らが始末付けとくから!  ガキはさっさと帰って寝ろ!」


 そう言って無理やり聖南を立たせると、茶髪男と黒髪男は総長の元へ歩んで行った。

 戦意喪失した聖南は、スウェットの埃を払ってポケットに両手を突っ込む。

 入り口付近には割って入ってきた二名の他に、そいつらの仲間と思しき数人の仲間が確認できた。


「あんなガキに相手させるなよ。  紅色天賦の名が廃るぞ」


 黒髪の男は、総長に柄の方を向けて彫刻刀を返した。  随分と落ち着いた冷静な声色に、聖南の頭もだんだんと冷えてくる。

 この二名が現れた時から爆笑の止まった総長も然りだった。


「あいつの名前はこの辺一体に知れ渡り始めてる。  十四はまずいだろ」
「いやーでもさぁ、樹。  聖南マジで強えから後々俺の座くれてやってもいーかなと思ってんだよねぇ」
「あんだけ強えと、総長継がせる前に暴走行為じゃなくてコッチ絡みでヒネに世話になる事になんぞ」
「芋づる式にアイスもバレちまうって?  それは痛えなぁ。  明日撮影ってやつが入るからさぁ、そのためにウチに呼んでたんだけどー」
「あぁ、あの雑誌のか?」
「そうなんだよ~聖南みてぇにツラ良いの居たら、さらに族員増やせんじゃねぇかってなぁ」


 三人が固まって会話をしている数メートル後方で、聖南はすべて聞いていた。

 その隣に光太が張り付き、聖南が首を傾げた箇所の説明を入れてくれる。

 「コッチ」とは、暴走行為以外の乱闘や暴行の事で、「ヒネ」は警察、「アイス」は法的に認められていない代物を意味するらしい。

 そして、聖南が呼ばれた理由をようやく知る事が出来た。

 腕っぷしはもちろんの事、暴走族のバイブル雑誌の撮影のため、引いてはその後の紅色天賦の拡大のために、抜きん出て顔立ちの良い聖南が駆り出されたのだ。

 単に利用されていただけだったと知っても、聖南は何とも思わなかった。

 自分が中学生だから、まだ十四歳だから、話しても何も分からないだろうと伝えなかったのかもしれないが、善悪の区別はつかないまでも早熟な聖南の理解は早い。

 今日の喧嘩はどうやら部外者の登場で終焉を見たようなので、光太に向かって顎をしゃくり、「送ってくれ」と合図をする。


「………その撮影ってのが終わったらアイツから一旦手引け。  お前のために言ってんだからな」
「分ーかったっつーの。  ったく…裁判之女神……佐々木と橘を敵に回すと後が怖えから言う事聞いとくぜ~」


 背後でそんな事を話す茶髪男と総長に心中苛立っていても、聖南は何も言わず、振り返りもせずに光太のバイクに跨った。

 撮影のために明日も来なければならない。

 孤独に苛まれない予定が立っただけで、何故だか聖南の心は落ち着いた。








 翌日撮った紅色天賦の集合写真。

 その日がこの者らと関わるのも最後だと聞かされた身としては、あまり深く考えないで聖南は裏ピースをキメた。

 今日だけ副総長にしていいかと聞かれても、どうせそのつもりだったのならご勝手にという投げやりさだった。

 翌月にはそれ専門の雑誌に載る。

 軽はずみに、何も考えずに写ったその写真が元で事態が急転する事など、若干十四歳の聖南には知る由もなかった。




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